11 / 82
第一章
心臓怪火 11
しおりを挟む
◇
子供の頃から、俺は優秀な兄と比べられては周りから呆れられていた。
「まあ、また満点なの?
ジャクソンは凄く優秀ね!
それに引き換えダニエルは……もっと頑張りなさいよ?」
母は兄と俺にテストの用紙を返しながらそう言った。
「俺だって、頑張っているのに……」
俺は八十五点のテストの用紙を手に握りしめてそう呟く。
いつだって周りの人達は兄の味方だった。
兄のジャクソンは見た目も成績も運動も何もかもトップだった。
そして、性格も良かった。
「ダニー、そういじけるな。
俺はお前が頑張っている事、ちゃんと分かっているからな」
兄はそう言いながら俺の頭を撫でた。
どうせなら、もっと性格も悪ければ良かったのに。
そしたら、堂々と嫌いになれたのに。
こうして俺はずっと優秀な兄と比べられ続けながら大人になっていった。
「まあジャクソン、警官服も立派ね!」
それから兄は警察になった。
「ダニエルは……まあ就職おめでとう」
俺は一応地元では大企業と言われる会社に就職した。
しかし、親はやはり俺より兄の事ばかりだった。
「全く、お兄さんが優秀だと聞いてうちで採ってはみたんだが、どうやらお前はそこいらの奴らと変わらん凡人だな」
会社に入ってすぐの頃、上司にそんな事を言われた。
「え?」
俺は自分が採用された理由をそこで知り驚愕する。
「まあ、うちも人手は足りないし、雑用ならいくらでもあるからな」
……何で。
大人になっても、何処へ行っても、兄と比較され続ける。
誰も、俺自身なんて見てくれない。
俺の中の怒りは、何年もかけてふつふつと、マグマの如く燃え上がっていた。
殺したい。
俺の事を馬鹿にする奴ら全てを、この手で……!
そんな事を頭では思い描いても、しかしそれを実現しようだなんて、俺にはとても出来なかった。
そう、あの日。
あの着物の男に会うまでは。
◇
「う、うぅ……」
あの着物の男に液体を目にかけられて倒れた後、しばらくして意識を取り戻した俺は何とか地面から起き上がった。
「はぁ、はぁ、何だったんだ?」
立ち上がって辺りを見渡すと、着物の男の姿はなく、飲みかけの缶ビールが足元に転がっていた。
……俺は、酔って変な幻覚でも見てたのだろうか?
そうだ。きっとそうに違いない。
普段の日常がやるせなくて、あんな都合の良い幻覚でも見たのだろう。
何が選ばれた者、だ。
三十にもなって馬鹿馬鹿しい。
「帰ろう……ん?」
歩き出そうとすると、俺の倒れていた付近のアスファルトの地面の上に紫の一輪の花が落ちている事に気付いた。
見た事もない花に、一瞬目を奪われたが、しかし俺に花を愛でる趣味はない。
「はぁ、明日も仕事か……」
俺はその花をもう一度見る事なく家路に着いた。
子供の頃から、俺は優秀な兄と比べられては周りから呆れられていた。
「まあ、また満点なの?
ジャクソンは凄く優秀ね!
それに引き換えダニエルは……もっと頑張りなさいよ?」
母は兄と俺にテストの用紙を返しながらそう言った。
「俺だって、頑張っているのに……」
俺は八十五点のテストの用紙を手に握りしめてそう呟く。
いつだって周りの人達は兄の味方だった。
兄のジャクソンは見た目も成績も運動も何もかもトップだった。
そして、性格も良かった。
「ダニー、そういじけるな。
俺はお前が頑張っている事、ちゃんと分かっているからな」
兄はそう言いながら俺の頭を撫でた。
どうせなら、もっと性格も悪ければ良かったのに。
そしたら、堂々と嫌いになれたのに。
こうして俺はずっと優秀な兄と比べられ続けながら大人になっていった。
「まあジャクソン、警官服も立派ね!」
それから兄は警察になった。
「ダニエルは……まあ就職おめでとう」
俺は一応地元では大企業と言われる会社に就職した。
しかし、親はやはり俺より兄の事ばかりだった。
「全く、お兄さんが優秀だと聞いてうちで採ってはみたんだが、どうやらお前はそこいらの奴らと変わらん凡人だな」
会社に入ってすぐの頃、上司にそんな事を言われた。
「え?」
俺は自分が採用された理由をそこで知り驚愕する。
「まあ、うちも人手は足りないし、雑用ならいくらでもあるからな」
……何で。
大人になっても、何処へ行っても、兄と比較され続ける。
誰も、俺自身なんて見てくれない。
俺の中の怒りは、何年もかけてふつふつと、マグマの如く燃え上がっていた。
殺したい。
俺の事を馬鹿にする奴ら全てを、この手で……!
そんな事を頭では思い描いても、しかしそれを実現しようだなんて、俺にはとても出来なかった。
そう、あの日。
あの着物の男に会うまでは。
◇
「う、うぅ……」
あの着物の男に液体を目にかけられて倒れた後、しばらくして意識を取り戻した俺は何とか地面から起き上がった。
「はぁ、はぁ、何だったんだ?」
立ち上がって辺りを見渡すと、着物の男の姿はなく、飲みかけの缶ビールが足元に転がっていた。
……俺は、酔って変な幻覚でも見てたのだろうか?
そうだ。きっとそうに違いない。
普段の日常がやるせなくて、あんな都合の良い幻覚でも見たのだろう。
何が選ばれた者、だ。
三十にもなって馬鹿馬鹿しい。
「帰ろう……ん?」
歩き出そうとすると、俺の倒れていた付近のアスファルトの地面の上に紫の一輪の花が落ちている事に気付いた。
見た事もない花に、一瞬目を奪われたが、しかし俺に花を愛でる趣味はない。
「はぁ、明日も仕事か……」
俺はその花をもう一度見る事なく家路に着いた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました
おりあ
恋愛
アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。
だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。
失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。
赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。
そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。
一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。
静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。
これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。
あなた方の愛が「真実の愛」だと、証明してください
こじまき
恋愛
【全3話】公爵令嬢ツェツィーリアは、婚約者である公爵令息レオポルドから「真実の愛を見つけたから婚約破棄してほしい」と言われてしまう。「そう言われては、私は身を引くしかありませんわね。ただし最低限の礼儀として、あなた方の愛が本当に真実の愛だと証明していただけますか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる