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第一章
心臓怪火 18
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◇
「……おい」
ビルの屋上で、先程まで戦っていた男は仰向けに横たわった状態で私に声を掛けてきた。
その男の植物になっていた両腕は、あの核となる花を斬った後燃え尽きて灰になり消滅し、文字通り何も残っていない。
「何?」
私は、男に問い掛ける。
「兄は……兄ちゃんは、そこに居るのか?」
兄とは、恐らく先程の走馬灯で見えたあの警察官の事だろう。
何故なのか分からないが、あの核である花を斬ると、その人の過去の一部が私には見えるのだ。
「居るよ」
私は一言そう男に返す。
「そうか……。
なあ、今は、何時だ?」
そう問われて、私はスマートフォンの画面を確認する。
「二十三時五十三分」
それから手短に時刻だけ伝えた。
「……そうか。
なあお嬢さん、一つ、頼みがある」
息絶え絶えに男はそう話してきた。
「何?」
「俺の体……どうせ死んじまうんだろ?
なら、せめて、兄ちゃんと、同じ命日が良い……一緒の日に、死にたい」
「……そう。分かったよ」
私は、右手に持った刀を、男の心臓目掛けて突き刺した。
刺された心臓からは血液がどくどくと流れ出す。
心臓を抉る感触が刀越しに私の手へと伝わってきた。
人を殺した、いつものあの感触が。
「うっぐぅ……ありがとよ……」
男はそれだけ呟くと、とうとう動かなくなってしまった。
「アイリス!」
すると、屋上まで走って駆けつけきたリトが私の名前を呼ぶ。
「お前、そいつ、殺したのかよ!?」
リトは息を切らしつつ私を睨みながらそう問い掛ける。
「うん。
でもどうせ助からなかったし、良いでしょ?」
私は刀を男の心臓から抜いて、ブンッと一振り血を払ってから鞘に収めた。
「……まあ、いいけどよ」
それからリトは何か諦めたかの様にそう言った。
◇
……リト、お前に頼みがある。
情報屋に言われた事を、リトは思い出していた。
「アイリスちゃんが、これ以上人を殺さない様に見張っててくんないか?」
「は? 何でだよ?」
アイリスと同居しなくてはならなくなったあの日、情報屋はそんな事をいきなり頼んできた。
こちらとしてはアイリスと同居とだけで面倒極まりないというのに、何故そんな事まで頼まれなければならないのか。
面倒そうに俺が言い返すと、情報屋は割と真面目なトーンで話し出した。
「今のアイリスちゃんはさ、人間にしては強すぎるんだよ。
閾値を超えている。とでも言うべきか。
このまま人を殺し続けると、あの子はいずれ人間をも超えてしまうだろう」
確かにアイリスは強いが、しかし人間を超えるだなんてどういう事だろうか?
「まさか、カミサマだのオニだのになるとかじゃねーよな?」
俺が嘲る様に笑いながら問い掛けると、情報屋はふむ、と首を傾げる。
「……そんなモノに近いかもしれんな。
という訳で、アイリスちゃんが手遅れにならない様によろしく頼むぜ?」
それから情報屋はヘラヘラとした顔でぽんぽんと俺の肩を叩いてきた。
「何が手遅れにならない様によろしく、だよ?
あいつはもう人として色々と手遅れだろ」
主にモラルとか常識とかが欠落しているという意味では、アイリスは手遅れだと思う。
俺がそう考えながら話すと、それを聞いた情報屋はフッと切なそうに笑った。
「そうかもな」
「……おい」
ビルの屋上で、先程まで戦っていた男は仰向けに横たわった状態で私に声を掛けてきた。
その男の植物になっていた両腕は、あの核となる花を斬った後燃え尽きて灰になり消滅し、文字通り何も残っていない。
「何?」
私は、男に問い掛ける。
「兄は……兄ちゃんは、そこに居るのか?」
兄とは、恐らく先程の走馬灯で見えたあの警察官の事だろう。
何故なのか分からないが、あの核である花を斬ると、その人の過去の一部が私には見えるのだ。
「居るよ」
私は一言そう男に返す。
「そうか……。
なあ、今は、何時だ?」
そう問われて、私はスマートフォンの画面を確認する。
「二十三時五十三分」
それから手短に時刻だけ伝えた。
「……そうか。
なあお嬢さん、一つ、頼みがある」
息絶え絶えに男はそう話してきた。
「何?」
「俺の体……どうせ死んじまうんだろ?
なら、せめて、兄ちゃんと、同じ命日が良い……一緒の日に、死にたい」
「……そう。分かったよ」
私は、右手に持った刀を、男の心臓目掛けて突き刺した。
刺された心臓からは血液がどくどくと流れ出す。
心臓を抉る感触が刀越しに私の手へと伝わってきた。
人を殺した、いつものあの感触が。
「うっぐぅ……ありがとよ……」
男はそれだけ呟くと、とうとう動かなくなってしまった。
「アイリス!」
すると、屋上まで走って駆けつけきたリトが私の名前を呼ぶ。
「お前、そいつ、殺したのかよ!?」
リトは息を切らしつつ私を睨みながらそう問い掛ける。
「うん。
でもどうせ助からなかったし、良いでしょ?」
私は刀を男の心臓から抜いて、ブンッと一振り血を払ってから鞘に収めた。
「……まあ、いいけどよ」
それからリトは何か諦めたかの様にそう言った。
◇
……リト、お前に頼みがある。
情報屋に言われた事を、リトは思い出していた。
「アイリスちゃんが、これ以上人を殺さない様に見張っててくんないか?」
「は? 何でだよ?」
アイリスと同居しなくてはならなくなったあの日、情報屋はそんな事をいきなり頼んできた。
こちらとしてはアイリスと同居とだけで面倒極まりないというのに、何故そんな事まで頼まれなければならないのか。
面倒そうに俺が言い返すと、情報屋は割と真面目なトーンで話し出した。
「今のアイリスちゃんはさ、人間にしては強すぎるんだよ。
閾値を超えている。とでも言うべきか。
このまま人を殺し続けると、あの子はいずれ人間をも超えてしまうだろう」
確かにアイリスは強いが、しかし人間を超えるだなんてどういう事だろうか?
「まさか、カミサマだのオニだのになるとかじゃねーよな?」
俺が嘲る様に笑いながら問い掛けると、情報屋はふむ、と首を傾げる。
「……そんなモノに近いかもしれんな。
という訳で、アイリスちゃんが手遅れにならない様によろしく頼むぜ?」
それから情報屋はヘラヘラとした顔でぽんぽんと俺の肩を叩いてきた。
「何が手遅れにならない様によろしく、だよ?
あいつはもう人として色々と手遅れだろ」
主にモラルとか常識とかが欠落しているという意味では、アイリスは手遅れだと思う。
俺がそう考えながら話すと、それを聞いた情報屋はフッと切なそうに笑った。
「そうかもな」
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