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第一章

心臓怪火 17

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「ダニー、それは何なんだ!」

 俺が屋上に着くと、兄は俺に拳銃を構えていた。

「何だと訊かれても、俺にも分からないんだよ」

 兄に問われて俺は静かにそう答えた。

「ただ、この身体になると、凄くスッキリするんだ。
最初は怖かったが、今では怖くない。
なあ兄さん、俺は兄さんがずっと憎かった。
あんたさえ居なければ、俺はこんな事にはならなかったのに!」

 俺は怒りのまま兄にそう叫んだ。

 兄は拳銃を構えたまま、悲しそうな顔をする。

「……もう、昔のお前ではないんだな」
「俺は昔からあんたの事なんて大嫌いだったぜ?」
「そうか……。
でも、もうこれ以上弟に人殺しはさせられない。
俺は、お前を許さない」

 兄は、俺を撃ってきた。

 否、兄が撃つより先に、俺が動いた。

「うわぁぁぁ」

 兄から悲鳴が漏れる。

 俺は、遂に、ずっと憎かった兄を手にかけた。

 そう感傷に浸っていると、空から、月を背後に黒髪黒目の和服の少女が、俺の腕を斬りつけたーー。



 ◇


「ダニー、俺決めた。
警察官になる」
「何で? 兄ちゃんなら、医者でも政治家でもなれるって、父さんも母さんも先生もみんな言ってたよ?」
「うん、でも俺、この国が好きなんだけどさ、この国って犯罪率が高いだろ?
いくら裏の人に近付くなと言われても、裏の人から近付いてくる事だってある。
そしたら、お前だって危ない目に遭うかもしれないだろ?」
「俺は大丈夫だよ!」
「お前は大丈夫でも、周りの人達が危ない目に遭ったら嫌だろ?」
「うーん……どうだろ?
俺、周りの人達あんまり好きじゃないし……。
って、何だよ、いきなり頭撫でるなよ!」
「お前も良い友達くらい作れよ?
俺にばっかひっついてないで」
「う、うるせー、別に俺は一人でも平気だし!」
「そうか?
でも、もしお前が悪の道に進んだら、俺が真っ先に逮捕してやるから安心しな?」
「誰が悪の道になんか進むかよ!
つーか兄ちゃんに捕まるだなんてごめんだよ!」
「そーかい。それは頼もしいな」
「な、何だよ! 笑うなよぉ!」
「ははっ……ダニー、俺はお前が心配なんだよ。
お前は誰より頑張り屋だ。だから、頑張りすぎて自分を追い込まないか心配なんだよ」
「はぁ?
そんなの、兄ちゃんに言われなくたって大丈夫だよ!
っあ、だから頭撫でんなっての!」



 ◇


 死ぬ間際、俺は理解した。

 そうか、俺は。

 本当は、認めて貰いたかったんだ。

 ただ、それだけだったんだ。

 それなのに、俺は、俺を唯一認めてくれた兄を殺してしまった。

 それが、今となっては、物凄く悲しい。
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