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第二章

合縁奇縁 3

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 まずい。
 狙撃が失敗してしまった。
 それどころか、バレてしまった。

 こんな事、これまで十年程スナイパーとしてやってきて一度だってなかったのに。

 殺される。
 その前に、この少女を殺さなくては。

 俺は咄嗟にライフルを構えようとするも、しかしそれより早い動きで少女にライフルを掴まれてしまった。

「なっ!?
何なんだよお前!?
壁を跳んできたり、俺の存在に気付いたり、お前本当に人間かっ!?」

 俺が焦ってそう叫ぶと、少女は冷静に訊いてきた。

「あれ?
お兄さんには私の動きが見えたの?」
「動き?
ぴょんぴょん壁を飛び跳ねたり、今だってあり得ない速さでライフル掴んだり、本当何者なんだよっ!?」

 少女の質問に俺が逆に質問し返すと、少女は目を丸くしながら口を開く。

「へぇ、お兄さん、目が良いんだ?」
「まあな……」

 てっきり少女は俺をすぐ殺すのかと思いきや、ライフルを掴んだまま、特に攻撃らしき事はしてこない。

 まあ、例え少女に殺されなくとも、スナイパーである俺自身の顔が割れてしまったのだから、大元の依頼主に殺されるだろう。

 現に、何度か同業者であるスナイパーを口封じの為撃ち殺した事もある。

 そうか。

 俺も同じ運命を辿るという事か。

 まあ、これまでも沢山の人達を殺してきたのだし、仕方のない事だろう。

 そう、仕方ない……。

「で、すんだら」
「?」
 
「"仕方ない"で済んだら俺はこんな事してまで生きていねぇんだよっ!!」

 俺は自分の命の為に沢山の人を殺してきた。
 それなのに、こんなに簡単に死んだら俺は一体今まで何の為に生きてきたんだ?
 他人を殺してまで俺が生きていた理由がないまま俺は死ねない。

 俺は懐から拳銃を取り出し少女に向けて撃った。

 この至近距離なら避けれまい。

 パンッと銃声が響く。

 しかし少女は、俺が引き金を引くと同時に腰に差していた刀を抜いていた。

 そして、弾丸を刃に当てて軌道を逸らしたのだ。

 弾丸はそのまま少女の髪をかすめていった。

「なっ……」

 終わった。
 千載一遇のチャンスを逃したのだ。
 もう勝機は無い。

 少女は間髪入れずに横一閃に刃を振りかざした。

 結局、俺の人生は最初から最後まで何も無かった。

 何も、残せなかった。

 ……でも、戦いの中で死ねたのなら、これで良かったのかもしれない。

 俺は腹部に鈍い衝撃を受けて、そのまま倒れた。
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