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第二章

合縁奇縁 4

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 ◇


「……っあ?」

 目が覚めると、俺は何処ぞの部屋のベッドの上にいた。

 ……ここは、何処なのだろうか?
 俺は何でここに?

 ゆっくりと、俺は今日あった事を思い出す。

 確か、隣町まで行って、それから……。

 そうだ。
 あの和服の女を見つけて、殺そうとしたらバレて、そして……。

 俺、斬られたんじゃなかったっけ?

 でも、ここは多分天国なんかじゃない。

 俺は、斬られたであろう腹部を見てみる。

 歪に包帯がぐるぐると巻かれているが、血が出てる様子は無かった。

「あ、起きたんだ」

「……え?」

 部屋のドアがガチャリと開いたのでそこを見やると、そこには先程殺し損ねた和服の少女がいた。

「な、何で、お前がここに?」
「何でって、ここ、私が住んでるアパートだから」
「……はぁ!?」

 至極当たり前の様に説明する少女の言葉を聞いて俺は驚きを隠せなかった。

「何で俺がお前のアパートに!?」
「そりゃあ、私が連れてきたから?」
「何で!?」

 訳が分からなかった。
 俺は、この女を殺そうとした相手だというのに、そんな相手を殺さずに連れ帰ってくる理由が分からない。

「だって、「死にたくない」って、言ってたから」

 少女は相変わらず淡々とした口調でそう話す。

「……はぁ?
俺、そんな事言ったか?」

 なんとか倒れる前の事を思い出そうとしてみても、いまいち憶えていない。

 俺はいつの間にかそんな事を言っていただろうか?

「こんな事してまで生きてねぇ、って言ってたよ」
「は?
あー……」

 和服の少女にそう言われて俺はそういえばそんな事言った様な……と記憶が蘇ってくる。

「というか、お前は俺を殺すつもりじゃなかったのかよ?」

 俺が尋ねると少女は無表情のまま問い掛けてきた。

「何で?」

「何で? って、俺はお前を殺そうとした相手だぞ?
そんな奴助けてどうすんだよ?」

 この少女の意図が分からず混乱しながらも俺は訊き返す。

 しかし、少女はそれ自体がよく理解出来ないのか、更に訊き返してきた。

「殺されそうになったら、その相手を殺さなくちゃいけないの?」
「普通、怖いだろ?
自分を殺そうとした相手なんて」

「怖くないよ」

 少女は淡々と相変わらずの無表情で答える。

「何でだよ? また命が狙われるかもしれないのに」
「だって、お前じゃ私を殺せないもの」
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