上 下
60 / 82
第三章

戒心散花 27

しおりを挟む


 ◇


 チャイナ娘を尾行している際に分かった事は、チャイナ娘が尾行していた主人のローガンはどうやらあの和服の娘と共に私が爆破した被害者宅を回っているという事だ。

 その為、チャイナ娘と暫く話したあの後もすぐにローガンと和服の娘に追いつく事が出来た。

 いくら嗅ぎ回られた所で証拠なんて何一つない筈だが、しかしもしこれで犯人が私だとバレるとまずい。

 それに、あの和服の娘もチャイナ娘同様怪しく見える。

 主人の浮気相手ではなさそうだが、事件を探られている以上放ってはおけない。

「途中まで上手くいっていたのに!」

 最初、妊娠が発覚した時に浮気相手の三人には多額の慰謝料を請求しようと考えていた。

 しかしローガンは浮気相手には既婚者である事は隠しており、逆に向こうから詐欺だと訴えられる事も起こりかねない。
 それどころかW不倫に関しては当然浮気相手の旦那までこちらに慰謝料を請求してくる。

 多額の慰謝料を貰って離婚しても良かったが、ローガンの財産目当てで結婚したのに離婚なんて勿体ない。

 それにこちらまで訴えられると結局こっちの取り分と差し引いても労力の割に儲けない。

 どうしようかと迷っていた所、この能力を貰ったのだ。

 邪魔者達を一掃出来る、この素敵な能力を。

 これさえあれば主人の周りの邪魔な奴らから資産を守る事が出来る。

 殺人を犯すのに最初は抵抗があったが、一人目の女を殺した瞬間、スッと胸の中がスッキリしたのだ。

 私が手にかけたとバレずに、相手も何も分からないまま死んでいく。

 この能力さえあれば、私は天下を取れる!

 私と、産まれてくるこの子の為にも!

 そう、信じていたのに……。

 それなのに、チャイナ娘といい和服の娘といい、浮気相手を殺した後も次々とこうも邪魔者が現れるだなんて!

 何処かで、どうにかバレずに始末しなくては……。

 私はローガン達が三人目の被害者宅を立ち去った後もずっと尾行を続けていた。

 すると、道向かいの路地からこっそり見ていたはずなのに、大通りにいる和服の娘と目が合った。

 かと思えば、次の瞬間には和服の娘は直様私の目の前まで迫ってきたのだ。

「ーーっ!!??」

 私は驚きのあまり声も出ず、しかし至って冷静に和服の娘から距離を置きながら花の爆弾を生み出して爆破させた。

 自分が巻き込まれない様気をつけながら。


 咄嗟の判断ではあったが、上手くいった……。

 と、思っていた、のに。


「やっぱり石楠花か……。
しかも薄桃色から大分濃い赤に変わってるね。
それだけ殺意が増したって事?」

 和服の娘は、何食わぬ顔涼しげな表情でこちらを見据えていたのだ。

しおりを挟む

処理中です...