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第四章

驚嘆風化 6

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「……リト、どうしたの?」

 気がつくと、ふとすぐ後ろからアイリスの声がする。

 若干耳元に息がかかり気持ち悪い。

「何だよ! てかちけーよお前!」
「でも、リト、腕離してくれないし」

 そう言われて見てみると俺はいつの間にか自分の右手でアイリスの右腕をしっかりと掴んでいた。

「……はぁっ!?
な、なんでっ!?」

 俺は慌ててアイリスの腕を振り払う。

 俺、いつの間にこいつの腕を握ってたんだ?

 あの場から早く離れたい一心で、気付けばアイリスの腕を掴んで歩き出してたのか……?

「最悪だ……」

 自分の行動が意味不明すぎて頭を抱えていると、アイリスはそんな俺の顔を覗き込む様に話しかけてきた。

「リト、そんなにギャルが苦手だったんだ」

 どうやらアイリスは俺が最悪と呟いた事をギャルのせいだと思っているらしい。
 まあ、確かに元凶ではあるが。

「あ?
ああ、まあガキの頃からああいう奴らに良い思い出はないからな」

 そう、それはまだ俺が物乞いでしか腹を満たせなかった頃の事。

 小さかった俺の前に、二人のギャルが現れた。

「やばっ、捨て子じゃん!
きったなぁいw」
「かわいそう~w」

 ギャル達は俺を好奇の目で見て笑い者にしてきた。

 それでも腹の減っていた俺はチップ欲しさに手を伸ばしたのだが。

「うわっ! こいつ手ェ伸ばしてきたよ!
うちらカモられてんじゃんw」
「え~ないないw
こいつに金やるヨユーないし、バッグとか服とか欲しいしw」
「だよねw
つーかいるだけ金食い虫のガキなんてただ邪魔だしw
私も出来ちゃったら捨てるわw」
「分かる~子持ちだと男も寄り付かんし、女として見てくれないから貢いでもくれないし~マジガキはいらねw」

 この時の俺はギャル達の言葉の意味を全て理解していた訳ではないが、しかしギャル達から明らかに悪意のこもった台詞を言われてる事だけは自覚があった。

 その後も仕事で時々ギャルに会うこともあったが、ほとんどは頭のゆるい、自分の事しか考えてない様などうしようもない奴らばかりで苛ついた。

 だからギャルは苦手なんだ。




「……リト?」

 昔の事をぼんやりと思い返していると、アイリスが不思議そうにこちらを見ていた。

「……何でもねぇ。
ほら、次行くぞ」

 俺とアイリスはその後無言のまま、最後の被害者である六軒目の家へと向かった。
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