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お味はどうかしら?

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「ご機嫌ようルイス様、お久しぶりですね」

 こちらに近付いてくるルイスに対してエマは私を守る様に一歩前に出て挨拶する。

「ご機嫌ようエマお嬢様。
今日も相変わらずお美しいですね」

 エマもルイスも側から見れば両者にこやかに笑って挨拶しているだけの様に見えるが、内心バチバチに牽制しあっている為そこだけ妙に空気が重い。

「オリヴィアちゃんの事を呼んでいた様ですけれど、何かうちの妹に用かしら?」

「用というより、たまたま見かけたのでご挨拶にと思いまして」

 ルイスが更に一歩こちらへ近付くと、今度はノアが前へと出た。

「ルイス様、ご機嫌よう」

「やあ、ノア君、ご機嫌よう。
オリヴィア様にも挨拶をしたいのだが、退いてくれるかい?」

「一つ忠告しときますね。
僕のに手を出したら容赦はしませんので」

 ノアはルイスを睨みつつそう刺々しく言い放ってから後ろに下がった。

「やれやれ、俺は相当嫌われている様だな。まあ無理もないか」

 しかしルイスはあまり気にしていないのかニコリと笑っている。

 それから私の前へとルイスはやってきた。

「やあ、オリヴィア様。ご機嫌よう」

「ルイス様、ご機嫌よう」

 にこやかに挨拶するルイスに、私も軽く挨拶を返す。

 やはり、近くで見るとルーカス程のイケメンと言う訳ではないが中々の美少年ではある為、その甘いマスクに落ちる女性も結構いるのだろうなと私は無駄に考察する。

「ふふ、オリヴィア様は相変わらずお可愛いらしいですね」

 ルイスはそう綺麗な笑みを浮かべながら話しかける。

 エマとノアがギロリとルイスを睨みつけるもやはりまるで気にしていない様だ。

 余程メンタルが強いのだろう。

「どうもありがとうございます」

 私はルイスのお世辞に軽く礼を言う。

「……どうやらここではゆっくりお話し出来ない様だから、一旦失礼するよ」

 ルイスはそう言うと人混みの中へと去っていった。

「あいつ絶対オリヴィアちゃんの事狙ってるわよね?」

「オリヴィア姉様、気をつけて下さいね」

「はいはい、分かったわよ」

 訝しむ様にルイスの後ろ姿を睨んでいる2人に私は軽く返事をする。

 そんなに警戒する程悪い人ではなさそうなんだけどな。
 しかも、過去に助けて貰った相手な上に、王室の親戚ともなればそこまで横暴な態度なんて取れないし。

 オリヴィアはそう思うも、取り敢えず2人の前では言う通りにしておくかと小さく溜め息を吐いた。




 一方、シーラはルーカスを厨房の方へと案内していた。

「ねぇ見て!
これ私への誕生日ケーキなの!」

 そこには直径が40センチくらいある大きな3段のケーキがあった。
 見たところ、一段ずつ違うケーキになっている様だ。

「おお、相変わらず凄いな」
「いつもお父様が張り切っちゃうから。
もちろん後で客席にもお出しするわ」

 それから、とシーラは可愛らしくラッピングされた包みをルーカスに渡す。

「え? これは?」

 ルーカスはキョトンと不思議そうな顔をする。

「その、クッキーを焼いてみたんです。
初めてだから、自信はないのだけれど……」

 顔を赤らめながらシーラはそう答えた。

「その、オリヴィア様はノア君にクッキーを焼いてあげたと言う話を聞いて、それなら私もやってみようかと思いまして」

 そういえばノアの奴オリヴィア様からクッキーを貰っていたなとルーカスは思い出した。

 俺もオリヴィア様の手料理が食べたかった!

 そう心の中でルーカスは叫ぶ。

「その、感想を聞きたいので、今食べて貰ってもよろしいでしょうか?」

 シーラは赤面しながらもモジモジとお願いする。

「あ、ああ、じゃあ頂こうかな」

 ルーカスはラッピングを開けて1枚クッキーを手に取って食べた。

「!?
これは!」

 一口食べてルーカスは驚愕する。


 不味い!
 不味すぎる!!

 何だか食感がゴムみたいだし食べたことのない味がする。

 これは何と形容したらいいのだろう。

 強いて言うなら土管を食べたらこんな味がしそうだな。いや食べた事ないけれど。

「ど、どうかしら?」

 顔を赤らめながらシーラは心配そうな顔で聞いてくる。

 ここで不味いなど決して言ってはいけないだろう。

 そのくらいの空気は流石のルーカスでも読み取れた。

「ああ、何だか今まで食べたことのない新感覚の味がして凄く刺激的だったよ」

 ルーカスは苦く笑いながら精一杯のフォローをする。

「本当ですか!?
実は隠し味に色んな国の調味料や薬草を入れてみたんです。
お口に合って良かったわ!」

 一体何をどれだけ入れたのだろう?
 一つ分かる事は、その隠し味が隠しきれていないという事だ。

 ルーカスが嬉しそうに喜ぶシーラを眺めると、ふとシーラのドレスの袖から包帯がチラリと見えた。

「腕、怪我されたんですか?」

 シーラはルーカスに問い掛けられてすかさず包帯を隠した。

「え、えーと、実は初めてクッキーを焼いたので、お恥ずかしいことに火傷してしまって」

「そうだったんですか」

 まあ、不器用ながらにもきっと頑張って作ってくれたのだろう。

 その気持ちは純粋にありがたい。

「ありがとうございます、シーラ様」

 味はともかく、俺は素直に礼を述べた。

「いえいえ、喜んで頂けた様で良かったですわ。
また今度作りますわね!」

 ニコニコとシーラは嬉しそうにそう話す。

 そんなシーラの笑顔を見ながらもう作るのはやめて欲しいなとルーカスは切に願った。
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