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王子様と三角関係と

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 ノアと付き合いだして1週間後。

「やっとお前ら付き合ったのか。
おめでとう」
「はい。
今まで色々と相談に乗ってくれて本当にありがとうございました。
アデック王子」

 私は王室へとやって来ていた。

「というか、何で付き合いだしたのにオリヴィアだけがこっちに来てんだ?
ノアは?」

 アデックにそう尋ねられ、私はノアが一緒に居ない理由を軽く説明した。

「ノアならフランスから来た絵画の先生に絵を習いに行ってるんですよ。
なんでも凄い先生が今ノルトギアに来ているだかって」
「そうなのか。
それはそうと、ノアと付き合ってる状態で俺のとこに来て大丈夫なのか?
ノアにはちゃんとここに来てる事言ってるんだよな?」

 何やら心配しだしたアデックに私はこくんと頷きながら答える。

「勿論言ってから来ましたよ」

 私のその返事を聞いたアデックは少し驚いていた。

「そうか、よく許してくれたな。
てっきりノア君は付き合いだしたら他の男と会うなって言うかと思っていたが」

 ……恐らくだが、ノアは独占欲が強い方だろうし、本来ならオリヴィアが他の男に会いに行くだなんて例え相手が王子であれ駄目だと言いそうだがな。

 アデックはノアの事を思い出しながらそう考えていた。
 しかし、それに対してオリヴィアはなんて事ないかの様に答える。

「行かないで欲しいって言われましたよ?
でもアデック王子は友達だから、友達に会うのも駄目なのかって聞いたら2人きりじゃなければいいって言ってくれたので」
「成る程なぁ。ノアの奴も苦労しそうだな」

 オリヴィアは気付いていないだろうけど、ノアはきっと嫌々ながらもオリヴィアに嫌われたくないから今回仕方なく許したのだろう。

 余裕そうに見せているだろうけど、ノアの奴も案外余裕なんてないんだろうな。

 まあ、オリヴィアと付き合う以上は覚悟していただろうし、頑張れよ。

 アデックはそう心の中でノアに同情しつつ応援していた。

 その傍らでオリヴィアはアデックの言葉の真意が分からず不思議そうにキョトンとしている。

「苦労しそう?」
「ああ、いや何でもない」

「?」
 


 オリヴィアが不思議がっている一方で、ノアは有名な先生から絵の事を習っていた。

「~~という技法があって、これはこういう時に……」

「そうなんですね!」

 にこにこと返事をしながらノアはメモを取っていたが、しかし内心はオリヴィアの事が気がかりで仕方がなかった。

 ……今頃リヴィは王室でアデック王子と話してるのかな?

 まあアデック王子に限って手を出す様な人ではないと思うし、何よりオルトレアにリヴィが連れて行かれた時も助けてもらったから信頼はしているけど……。

 それに、潤んだ瞳でリヴィに「猫達とも戯れちゃ駄目なの?」なんて訊かれたら駄目だなんて言えなかった……。

 あの顔でお願いするのは本当反則だろ。
 というか、お願いの内容が猫なのはどうなのか……。

 ……。

 ……そういえばファーストキスも猫に盗られたし、今回だってアデック王子というより猫優先だったし、まさか……。

 リヴィの中での順位って

 猫>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>俺

 なのでは!?!?

「それじゃあノア君。ここまでで何か訊きたい事とかあるかい?」

「どうやったら猫に勝てるんだろう……?」

 先生に尋ねられたのに気付かなかったノアはそのまま考え事が口から漏れていた。

「猫? えーと……?」

 そんなノアの発言に先生は戸惑いだす。

「あ! いいえ! すみません!
大丈夫です!」

 ノアは全く大丈夫ではなかった。



 再び王室にて。

 オリヴィアとアデックの会話を側で聞いていたソフィアは成る程と頷いていた。

「通りで今回は客間ではなく私も一緒にお部屋まで案内されたという訳ですね」

 ノアに言われた通りアデックとは2人きりにならない様にという配慮の元、今回はソフィアもアデックの部屋に私と一緒に来てもらっていたのだ。

「ええ。
まあそれ以外にも理由はあるんだけど……」

 と、私が喋っていると、アデックの部屋の扉がガチャリと開かれた。

「アデック王子ー。この書類明日までに目ぇ通してサインくれだってー。
後今日の午後からフィサリスんとこと会合があるから準備しろよなー」

 そうスーツ姿のブラッドが面倒そうに話しながら入ってきた。

「あー、分かった」

 相変わらずな口調の先生に、アデックも軽く返事をする。

「……先生が、仕事してる!?」
「えっ!? 兄さんどうしたの急に!
頭でも打った??」

 そんな先生の姿を見て、私とソフィアは驚愕した。

「あ!? 頼まれた仕事くらいやるわ俺だって。
大人だからなぁ!」

 私達に驚かれた先生は本来当たり前の事実をドヤ顔で話していた。

「アデック王子! 一体何したんですか!?」
「ん? 俺は特に何もしてねーぞ?
ジュードが煽ってたからそれが原因だろうな」

 私の問いにアデックがそう答えると、更にノックの後に執事のジュードまでやって来た。

「失礼します。
アデック様、別件でまた書類追加です。
ブラッディ、もしアデック様がサボろうとしたら最悪ボコっても構いませんのでよろしくお願いしますね」
「はいよー」
「俺一応王子なんだが?
……はぁ、まあこんな感じで、前以上に俺は仕事がサボりにくくなった」

 まさかの先生の働きっぷりに、本来喜ばしいはずの事なのにアデックは苦々しくそう話す。

「おや、オリヴィアお嬢様にソフィアさん!
ようこそまたおいで下さいました!」
 
 そしてソフィアの姿を見るなりジュードはキラキラとした笑顔で挨拶してきた。

「あ、どうもご機嫌よう」

 ソフィアがにこりと挨拶すると、ジュードはそんなソフィアの手を取って話し出す。

「ソフィアさん、もし今度よろしければ一緒にお食事でもいかがですか?
美味しいレストランがあるので是非2人で行きたいと思っていまして」
「え、そうなんですか?」

 ジュードの誘いに、ソフィアはうーんと悩みだす。

「でも、あんまりお高いところはちょっと」
「まさか、レディにお金を出させるだなんて事はしませんよ!」
「いや、流石に高い物を奢って貰う訳には……」
「ジュードー、ソフィアなんかにそんな金使わなくてもいいって。
何なら俺が行きたい!」

 奢りという言葉に先生がそっちに食いついた。

「男を奢る趣味はありません」
「兄さん何ちゃっかり奢って貰おうとしてんのよ!」
「ちぇー。じゃあソフィア、今度何か奢ってくんねー?
何なら手作りでも何でもいいからさー」
「はあ、仕方ないなぁ。じゃあ今度何か作って持ってきてあげるわよ」

 ソフィアが渋々返事をして先生がやっりー! と喜んでいる横で、ジュードが隣で悔しそうに話を聞いていた。

「くっ、私もソフィアさんの手料理食べたかった……!」
「あ、何ならジュードさんの分も作ってきましょうか?」
「えー!? ソフィア、そしたら俺の分減るだろ!」
「沢山作ってくればいいんでしょ?」

 そう話すソフィアに先生は少し不貞腐れていた。

「……まあぶっちゃけこの三角関係の行く末を見たかったのも私が王室に来た理由の一つなんですよね」

 私はそう猫達を撫でながらアデックに話した。

「まあドラマや小説よりも面白いからなぁ。
そんでお前の1番の理由は猫と遊ぶ為、と」

 アデックも使用人達の恋模様を眺めながら私にそう言ってきた。

「まあ、そうですね」

 私はそれに特に否定もせずにそう答える。

「はあ、俺だって忙しいんだからな?
とは言え俺もあの三角関係は気になるし、息抜きにもなるからたまになら来ていいぞ」

 アデックは溜め息を吐きながらそう言った。

 ……本当はノアと付き合い出せば俺の所にはもう来ないだろうと思っていたんだが……。
 
 アデックはそう考えながらチラリと猫と戯れているオリヴィアを一瞥した。

 ……まあ、たまにこうして会うだけなら浮気でもなんでもないし別に良いだろう。

 なあリーシェ?

 アデックがそう考えている傍らで、リーシェはふふっ、と笑っていた。

「アデック様も2好きな女に弱いわよね?
まあ私としてはアデック様を盗られずに済んだからいいけど!」

 そうにこにこと話すリーシェに気付く者はこの部屋には勿論誰もいなかった。


「ありがとうございます。
また来ますね」

 こうして、オリヴィアはこれまで通りたまに王室に遊びに行くのであった。

 因みに王室から帰ってきた後。

「リヴィ、王室で何もなかった?」
「王室で? 三角関係を見ながら猫と戯れてたわ。
面白いから今度はノアも来たら?」

 ノアからの質問にオリヴィアはそう答える。

「三角関係……?
まあ面白いなら、今度から俺も一緒に行こうかな?」

 ……今度からはリヴィだけで何処かに行かせるのは俺の心の平穏の為にもやめさせよう。

 にこにこと笑顔で答えつつ内心実はオリヴィアの事が心配でたまらないノアなのであった。
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