今日も君の心はハカれない

本田ゆき

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第56話 君と傷

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 そして現在。

「そう言えば転校前に陽太くんから聞いたけど、静夜くん私に告白して振られたって嘘ついたでしょ?」

 突然の千鶴の言葉に静夜はドキッとする。

「あ……やっぱり陽太の奴小野さんに聞いたんだな」
「私あの時本当びっくりしちゃったよ……。
 でも、私のお願いの為にああ言ったんでしょ?」

 千鶴の問いに静夜は申し訳なさそうに頷く。

「ごめん、あんな言い訳しか思いつかなくて……」
「ううん。私の方こそ困らせてごめんね。
 そもそも私が鈍臭くて先輩達に絡まれたのが悪いんだし」

 そう謝る千鶴を静夜は精一杯否定した。

「小野さんは何も悪くないって!
 元はと言えば突っかかってきた向こうが悪いんだし」

 静夜の発言に千鶴は少し考えた後でゆっくり口を開く。

「……まあ、そうだね。
 でもあの時静夜くんが助けてくれたお陰で、あの日以降絡まれなかったよ」

 笑顔でそう答える千鶴を見て静夜はホッと胸を撫で下ろした。

「そうなんだ? 良かった……」

「おーい! ちーちゃーん!」

 その時、駅の方から元気そうな少女の声が聞こえてきた。

 ポニーテールを揺らしながら走ってきた少女は手を振りながら千鶴の元へと駆け寄る。

「あ、あかりちゃん」

 千鶴は笑顔であかりと呼んだ少女に手を振った。

「遅れちゃってごめーん!
 ってあれ? どちらさん?
 もしかして~ちーちゃんの彼氏~?」

 あかりは千鶴の肩に腕を回して静夜の事を尋ねてきた。

「違うよあかりちゃん!
 この人は中学の時の友達の静夜くん。
 あ、静夜くん、こっちは高校で友達になったあかりちゃん」

 千鶴はあかりと静夜それぞれに各々の紹介を始めた。

「そうなんだ~私ちーちゃんの友達やってるあかりでっす!」
「あ、どうも、静夜です」

 あかりが明るく答えた後、静夜も軽く自己紹介をした。

「ところでちーちゃん、映画の時間ヤバない? 私が遅れちゃったせいで……」
「え? あ! 静夜くん、私達そろそろ行くね!」
「あ、ああ」
「またね!」

 千鶴は携帯の時計を確認した後そう言い残してあかりと共にバタバタとその場を後にした。

 その場に取り残された静夜はそんな千鶴の後ろ姿を見届ける。

(……元気そうで良かった)

 そう考えつつも静夜は千鶴のテンションに少しモヤモヤしていた。

(でも、何か中学の頃より明るくなったというか……やっぱり異性の友達より同性の友達の方が付き合いやすいんだろうけど……)

(中学の頃俺や陽太と仲良くなったのって、小野さんにとってはやっぱり良くなかったのかな……)

 静夜がそんな事を考えながら学校の近くまで戻ってくると、後ろから聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。

「おーい! 静夜くーん!!」

「……葵さん?」

 静夜が後ろを振り向くと、満面の笑顔の遥が静夜の元へと走ってやって来た。

「いやぁ休みの日にこんな道端で会えるなんてすっごく偶然だね!」
「確かここ葵さん家の近くだろ?
 学校とも近いし外出てれば会う確率は高いよな」

 冷静に分析する静夜に遥はドキリとする。

「べ、別にたまたま学校の近くを散歩してただけでもしかしたら静夜くんに会えるかも、会えないかなーとか考えてナイヨ?」
「……うん。そっか」

 あまりにもわざとらしすぎる遥のセリフに静夜は突っ込むのをやめた。

「ところで静夜くん、何か浮かない顔してどうしたの?
 まあそんなアンニュイな表情も素敵だけども!」

 遥に問われて静夜は我に返る。

「え? 俺そんなに浮かない顔してた?」
「うん。静夜くんの事に関してなら私の目に狂いはないからね!」

 ドヤ顔でそう答える遥に静夜はやや呆れながらも事情を軽く話しだした。

「そう……。
 まあ、中学の頃の友達に会ったんだけどさ、何というか、高校で出来た他の友達と仲良さそうに話してて、なんか複雑な気分になったというか……」

 静夜の言葉に遥は身に覚えがあるのか勢い良く頷いた。

「あ~分かる~!
 私もユウちゃんが他の友達と話してる時絶妙に何かこう……疎外感? みたいな感じするというか」

 同意する遥の言葉を聞いて静夜はうーん、と考える。

「疎外感……か」
「あ! もしくはBSS(僕が先に好きだったのに)の友達版とか!
 僕が先に友達だったのにみたいな!」
「まあ、そんな感じ、かも……?」

 遥の言葉を聞いて納得した静夜は、少し迷った後遥へとある質問をした。

「……葵さんはさ、友達になった事でマイナスになったというか……友達になった事で友達を傷つけちゃった事とか……ある?」

 静夜の質問に遥は堂々と答えた。

「私中3の終わりにハルと友達になるまでユウちゃんしか友達が居なかったから、そんな経験はないかな」
「え? ……何かごめん」

 遥の答えに静夜が驚きつつも謝ると、遥はあっけらかんと答えた。

「いやほら私って見ての通り美少女だからさ! それだけで女子から嫌われたりするし。
 それに女子特有? の私と仲良くなるならあの子を嫌ってだのグループがどうだのが面倒だったというか」
「女子同士の友情って大変なんだな……」

 静夜の言葉に遥は首と手を同時に横に振る。

「いやそれは一部の話ね!
 勿論良い人も居るというか良い人の方が多いと思うけど! でも私のせいで面倒事に関わらせたくないというか……そうだね。静夜くんの言葉風に言うなら、私は誰かを傷つけるのが怖くて……」

 遥は一瞬言葉を言い淀んだ後、いつになく真面目に話を続けた。

「……いや、違うな。私は傷つけられるのが怖かったんだと思う。

 でも、ハルと友達になって、静夜くんとも友達になって、鈴木くんや山本くんや渡辺くんとも仲良くなって、分かったんだ。
 私、ただユウちゃんに甘えて殻に閉じこもってただけで、人間関係で傷つくのが怖くて逃げてただけだったんだなって。

 だからね、もし私が静夜くんが言ってる様に誰かと友達になった事でその友達が傷ついちゃったとするなら、今の私だったら一緒に傷ついてあげるかな」

「一緒に、傷つく……?」

 遥の言葉に静夜は目を丸くして問い返す。

「うん。ほら、何かの歌詞でもあったじゃん! 喜びは人に話せば倍に、悲しみは分け合って半分に……みたいな歌なかったっけ?」

「さあ、あんまり覚えてないけど……。
 でも、そうか。
 悲しみは分け合う、か……」

 遥の言葉を聞いて静夜は腑に落ちた様に遥の言葉を繰り返した。

「うん! だからね静夜くん。
 辛い事でも嬉しい事でも何かあったらじゃんじゃん私に言って! 私も嬉しい事があったらじゃんじゃん静夜くんに話すから!」

 にこにこと話す遥に静夜は微笑みながら返事をする。

「葵さんは俺に辛い話はしないんだ?」
 
 静夜のセリフに遥は顔を赤くしながら真面目に答える。

「(静夜くんの微笑み顔! きゃわわわわ~♡♡)
 私の辛い話のせいで静夜くんを悲しませたくないもん!
 それに、私は静夜くんと話せるだけで辛い思いなんて消えちゃうくらい幸せになるから全っ然大丈夫!」

 そうピースサインで答える遥に静夜は呆れながら呟く。

「本当、葵さんには敵わないな」

 そんな静夜に遥はおずおずと口を開く。

「ところで静夜くん……差し支えなければその友達とやらの話をしたら静夜くんの心はもっと軽くなるんじゃない?
 私で良ければ全然話に乗るけど、何があったの?」

 興味津々に聞いてくる遥に静夜はさっぱりとした表情で答えた。

「ああ、もう自己解決したから大丈夫。
 話聞いてくれてありがとう葵さん」
「ええ!? 私詳しい話は聞けてないのに!?
 い、いや、静夜くんがもう大丈夫と言うなら良いんだけどね! でも出来ることなら静夜くんの中学の頃の交友関係だったりを知るチャンスだなと思ったり思わなかったり、ね……」

 そうぶつぶつと話す遥に静夜は笑いながら答える。

「はは、相変わらず葵さんはブレないなぁ」
「うう、その笑顔は反則級だよぉ……」

 そうこう話しているうちに2人は学校へと着いた。

「それじゃあ葵さん、今日は話聞いてくれてありがとう。
 また学校で」
「もうお別れだなんて……!
 でもお話出来て良かった! またね!」

 遥の背中を見送って静夜は一言ぽつりと決心する様に呟いた。

「一緒に傷つく、悲しみは分け合って半分に、か……。

 よし」

 そして静夜は陽太が待っているであろう寮へと帰った。

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