BLACK Tier【黒い怪物】

愛優

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1章  始まり

黒国からの脱獄

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何にもない。あの日感じた黒い塊みたいなものはあれ以降感じなかった。ほかの者たちとも必要以上の会話はないまま決行日は近づいてきた。
「今日もお見事だった。向こう側も喜んでいらした」
「うちの実行班は優秀でありますから」
今週で何人殺めただろうか。そんなことをふと思い自分の手を見た。今まで考えたことのない命の重みが今更のしかかってきたようだった。数百人にもなるだろうか。どんな人だったのか。どんな人生を歩むはずだったのか考えたこともない。
「開花どうした?」
そう秋斗から声がかけられ集会が終わっていることに気が付く。
「少し考え事が」
「あんまり思い詰めてもいいことないよ!」
海斗もそういって私の頭に手を置く。暖かい手のぬくもりが少しずつ伝わってきたが顔には出さずに振り払った。
「なんにもないから。気にしないで」
それだけ言って二人の元を離れる。
 射撃場には人影がなかった。銃を取り出して手袋をはめる。動かない的だからこそ練習になることもある。静かに的を見て引き金を引き弾を放つ。秋斗と快気みたいに中心に毎回当たるほどの腕は持ち合わていないから何度もともな撃ったこの場所。撃った弾が下に落ちてカランとなったのが遠くの方で聞こえた。
「どちら様?」
入口に立つ少年にそう声をかけると鼻で嘲笑うかのように口角を上げた。
「新人の出来損ないですよ。優秀な真野開花さんの腕前をみに」
的が映っているモニターを見上げて「さすが」とつぶやいている。なんとなくだが化ける才能が垣間見えていた。ここに来て数十年でいろんな新人を見てきたがこの子は持っている側の人間だ。
「ご用件は?」
そう聞くとちらりとこちらを見て笑った。
「言ったでしょう?ただ腕前を見に来たと。では」
そういいながら出口に歩いていく彼は十何歳には見えないぐらいの背中をしていた。片付けるのならば今の内だろうか…。まだ未熟な少年を見ながらそう思った。

実行日の二日前に私は組長に呼ばれて個人部屋にいた。空気からあまりいい事を言われるのは分かっていた。ほかにも秋斗と快気がいて計画の中心メンバーの揃いになんとなく察しはついていた。
「海斗はもう知ってわたしの意見を呑んだ。君たちも呑んででくれるとありがたい」
当初の計画は不意打ちに突撃を始め実行班の任務中に実行班からつぶすといったものだった。これは気づかれたら終わりだが確実に少しづつつぶしていくことができた。だが、ここ数日で上が感ずいあたのか当初の計画にあった暗殺命令が取り消しとなった。それ以外にもいろんなとこで上の者が動いているのが分かっているという。
「で、組長はどうするべきだと?」
その秋斗の質問に少し考えて組長は口を開く。
「君たちには外に逃げてもらう。外の世界で仲間を見つけた後にまた数年後襲撃をする。今度は正面衝突にはなるが」
「外の世界?」
「住むところは私の古い友人の別荘を借りて隠れながら住む。仲間についても当てがある」
そう言って組長は一瞬目線をしたに落とした。組長にしては珍しく考えに迷いがある気がした。
「どうする?」
「組長がそう命令するのであれば従います」
秋斗のその声に私と快気が跪き頭を下げる。この時に多分もう秋斗は気づいていたのだろうか。組長と海斗が犠牲とならないとこの計画は成り立たないということを。
 実行日の昼私はいつも通りの訓練を行っていた。そして組長が上の命令で捕まったことを知ったのは昼過ぎだった。そのことを聞いても誰も動揺などしていなかった。黒国という場所はそういうところなのだ。誰がつかまろうが誰が死のうが気にしたりなどしない。それはここにいる者たちが悪いのではなくてそう育てたここの上がいけない。
表情になど出せなかった。だしたら怪しまられつかまるかもしれない。何故捕まったのかそんな疑問を問う時間もなく本部の一部が爆破する音が聞こえた。
「組長…?」
そう呟くのと同時に緊急命令の放送が本部中に響く。
「実行班隊長、副隊長が反逆行為を行った。直ちに捕獲要請をだす。繰り返す…」
海斗までなぜ…。反逆…?動かない頭でとりあえず荷物を持ち外に出る。
「開花騒ぎに紛れて外に出て逃げるよ」
目の前に立つ黒がそういってこちらを見た。
「逃げる?どうして?全員でやれば海斗も組長も助かる。逃げれば…」
自分の言ってることがもう手遅れだということを喋ることで理解していくのを感じた。あの二人はもう死ぬのだと私は気づいていたのか…。そして今の状態で全員突っ込んでとしても負ける。今までここで積んできた経験から私の脳はそう導き出していた。
「わかった」
そういって二日前の組長の命令を思い出した。私たちにはこれからすべきことがある。もう一度大きい爆発音がうしろから聞こえたが気にせずに走った。
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