死するべき華

愛優

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起床

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シンプルに表すならば怖かった。心の奥底にある何かまで見つけるほどに私の気持ちも頭も動いていなかった。ただ漠然と怖いとだけ思っていた。依存して信じて大好きな彼女から拒否の言葉を放たれるのが何よりも怖かった。いわれるまではわからない。だからこそ、彼女が私以外としゃべっている現実を私以外と仲良くしている現実を見て実感したくなかった。ただそれだけだ。私の目の前から消えてほしいとまで思い始めてしまえばきっと私は私を憎く思うだろう。
「今日何があったのか。どうして行かなかったのか」
そう何度も聞かれたが私は答えなかった。答えて何になるのか。あなた達にできることはない。私の中でもわからないぐらいぐちゃぐちゃしているというのに。わかったふりもわからなくて質問されるのも嫌だった。とにかくいやなのだ。私以外が亜紀ちゃんと亜紀ちゃんを思うのは。
「ごめん。一人で考える時間が欲しい」
何も言わずに母親はどいた。父親は何か言っていたが脳がそれを分析し言葉という文字にせずに捨てた。真っ白で何も考えることすらできない頭を動かそうとしたがそれは拒否された。静かに私は部屋の床に倒れた。

見覚えのある景色。そう思って体を動かそうとするが全く動かない。ただ頭だけが冴えていく。あぁ、ここは私の通っていた小学校だ。そう気づき目線は下で静かに何かを見ている少女の後ろ姿をとらえた。見ているほうには筆箱を投げあう男の子たちがいる。
「この筆箱○○のやつだよ。触ったら菌がうつるんだよ」
「汚ねぇ。そんなん投げてくんなよ」
笑っている。楽のしいとは違う笑いだ。明らかな悪意のある遊びだ。見ているこちらが不快な気分になっていくぐらい酷い。それなのに少女は何もせずただただ見ているだけだ。
「どうして何もしないの?取り返さないの?」
そう思わず声に出すと少女の後ろ姿が少し揺れた。まるで声の主を探すようにかすかだが男の子たちから目線を外した。
「悔しくないの?」
そう今度は聞くと少女は静かに何の音もさせずに後ろを向いた。
「何も感じないから」

そこで私は目を覚ました。冷たい床の感触が頬を伝って分かった。静かに体を起こし座る。外はもう真っ暗で雨の音が聞こえてきた。あぁ、あの少女は私のよく知る人じゃないか。窓に映る自分の姿を見ながら笑らった。私にも小学生時代の記憶があったのだな。今はもう覚えていない夢の内容を頭の人隅にもない小学生時代の思いを頼りに思い出そうとした。
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