心を手にのせて

水乃南歌

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14 光るビーズ

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今、机の上に2冊の本がある。

1冊は『蜘蛛の糸』こちらバージョン。
いろいろ突っ込みどころが満載だけれど、読み物として完成できたと思う。

そしてもう1冊は、イクスターナル様に借りた本を写したものだ。
漢字のドリルみたいに、1つずつの神字について細かく説明されていた。
意味や書き順、活用の仕方など、本当に漢字ドリルだ。

イクスターナル様が言うには、この本に載っている書き順で書けるか、意味が理解できているかなどの試験があるんだって。
試験に通ると塔の役人や中央の文官として採用されるらしいんだよ。
実は本の通りの書き順で書かないで自己流、というか漢字っぽい書き順で書くと頭に意味が浮かび上がることがある。
そうやって1度ヒットした神字は、意味や読み、本とは違う書き順が頭に焼き付いて、もう忘れることがないんだよね。
だからイクスターナル様には内緒だけれど、この本に載っている神字は全部違う書き順で覚えてしまった。
意味を忘れることはもうない。

それにしてもどうせなら、試験に出る方の書き順が簡単に覚えられた方がよかったな。
私、書き順だけは自力で覚えなくてはいけなくて、ちょっと半ベソだもん、今。
字を書くのは大好きだけれど、勉強はそんなに好きじゃなかったのかもしれない。
ああ、息抜きしたい。

完成した『蜘蛛の糸』をパラパラと見て思いついた。
これ、神字で書いてみようかな。
私の書きたい書き順で、自由にのびのびと。

インクにペンをつけて物語を書く。ちょうど1ページ分書けたところで疲れているのを感じた。
なんとなく、今日はここまでとペンを置く。
書き終わった道具を整えて、紙をふところにしまった。
なんだか今日はもう刺繍をする気にもならないなあ。

まだ夕食の支度をするには早いのだけど、はじめちゃおうかな。
疲れていていつもより時間がかかりそうだし。
「よいしょ」
ガタンッ。
立ち上がろうとイスを後ろに引いたら、なぜだか足がもつれて転んでしまった。

「おい、大丈夫か?」
カウンターの後ろで新しく届いていた荷を解いていた店主さんが、ちょっと笑いながらこっちにくる。
「うう。なんともありません」
むちゃくちゃ恥ずかしい。
慌てて早く立ち上がろうとしたのに、あれ?力が入らない。

「あれ?」
ホント、なんでだ?
「どうした?」
なかなか立ち上がらない私を店主さんが引っ張ってくれてなんとか立てたけど、立っているのがやっとだ。
歩き出すための1歩を踏み出せない。

「疲れたかい?根を詰めて書き物をしていたからな」
言うと、店主さんが私を抱き上げ2階に運んでくれた。

ドアは開いているけれど店主さんがノックをする。
「あらシャシー、どうかした?」
部屋で針仕事をしていたお母さんが、驚いた顔で手を止めた。

「少し疲れたのかな。眠そうですからね」
そのままお母さんが私の寝室のドアを開けると、ベッドに降ろされた。
もうそれだけでふわふわと眠たさが浮いてくる気がする。

「少し寝るといいよ」
布団に入るとポンポンと布団を叩かれた。
私、小さい子みたいだね。
「ありがとうございます」
ふわぁ、うん、たまには身体の年齢通り甘えてみるのもいいかもしれない。

私はゆっくりと目を閉じた。

⭐︎

しばらくすると胸元がぽかぽかして目が覚めた。
最近涼しくなってきたからこの暖かさが心地よい……ではなくて、なんだろ。

「ん~、すっきりした、かな」
「あら、起きたの?」
う~んと伸びをするとお母さんがいた。
ベッドの横にイスを持ってきて、針仕事をしていたらしい。

「珍しく、シャシーがお昼寝したわね」
お母さんが優しく微笑んだ。
「うん。疲れてたみたい」
私は恥ずかしくなって、布団を手繰り寄せた。

「お父さんたちだっていつもお昼寝してるもの。いいじゃないの」
お母さんはそう言ってくれるけれど、私とは違うからなぁ。
「みんなは力仕事をして疲れてるからいいけど、私は家にこもりっぱなしだから疲れることなんてないんだけど」
子どもって感じで恥ずかしいよ。
まあ、見た目は子供なんだけど。

「たまには部屋でゆっくりするといいわよ。今日は店主さんもいることだし本当ならシャシーはまだ洗礼前なんだから、みんなと遊び回っていていいのよ。仕事なんてしなくても」
お母さんはそう言うと、荷物を持って隣の部屋に移って行った。
いつもはお昼寝しない私が寝たことで、心配させてたんだと思う。
お母さんって、どこの世界でもお母さんなんだなぁ。
なんだか胸がぽかぽかする。
……ん?

「そういえばなんかあったかいと思ったんだった」
胸元がぽかぽかして目が覚めたのを思い出した。
何か入れてたかなあ。
服の中に手を入れると、さっき書いた『蜘蛛の糸』だ。
紙がちょっと膨れてるような……。

なんだろう?

折りたたんだ紙を開くと、とても小さな光る石が挟まっていた。
真ん中に穴が開いていて、本当にビーズみたいだ。
「星みたいな形だー。かわいい」
指でつまんで光に透かすと、キラリと光る。

何か入れておける入れ物があったかな。
ベッドから立ち上がると、窓辺にある机の上に『蜘蛛の糸』広げて置く。
その紙にビーズを乗せて部屋の隅にある棚まで入れるモノを探しに行くと、それはふよふよと私の周りを回り出した。

ど、どうしよう。
ずっとついてくるんだけど。
こんなのがずっとくっついて飛んでいたら、ものすごく目立つよ。
えっと、石だと思ったけど、虫みたいな生き物だったのかな?
ちょっとドキドキして飛んでいるビーズに手を差し出す。と、手の平の中にちょんと収まった。
うーん、目とか口とか無さそう。羽もない。
どう見ても生き物に見えないけど、なんだろう。

……あ!
ハイチの剣みたいに、自分で持っていないとダメなやつかも?
でも別に洗礼で出てきたものじゃないし、うーん。
しかしこんなに小さい物、どうやって運ぼうか。

手の上でコロコロと転がして考える。
ひとまずはポケットはないけれど、服の間に挟んでおこうか。
腰紐の間に挟もうとしてビーズがコロンと落っこちた。
するとさっきみたいにまた私の周りを飛んでふよふよと回り出す。

これは困ったよ。
間違って落としてしまって、コレが私の周りを飛んでいたら大変なことになるんじゃないのかな。
ん~、穴があるってことは糸を通してネックレスみたいにしたら服の中に隠しておけるかなあ。
穴は開いているんだもん。
まるで糸を通すのが当然!みたいに穴が開いてるんだもん。
うん、それでいいことにしよう。

少し長めの紐を取り出してビーズを通すと、縛って輪っかにした。
頭から紐をかけるとあったかくて気持ちがいい。
問題はほわほわとした光だけど。
服の中にしまいこんでみると、服の外に光は漏れなかった。
ん、大丈夫みたいだね。

それにしても結局これは何なんだろう。
ビーズの挟まっていた紙をもう1度覗き込むと、私の書いた『蜘蛛の糸』の最後に、何かが書かれていた。
私の書いた文字ではない。

ゆらゆらと光るオパールのような色で、一列分の文字。

これ、神字じゃない?
知らない字もあるけれど、この複雑な形は神字に違いない。
イクスターナル様がまだ他にも本があるようなことを言っていたから、まだ覚えていない神字の1つだと思う。
なんて書かれているんだろう。

意味の調べ方は知っている。
雑紙ざつがみに、こうかな、ああかなと字を書いていると何度目かにヒットした。
頭に意味と読み方が浮かび上がる。
じゃあ、次の文字は?
ふむふむ。え~と。

《気になるところで止めるでない。早よ続きを書きなされ》

『蜘蛛の糸』の感想だった。
っていうか、誰が読んでお返事くれたの?!




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