40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで

和泉杏咲

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2.初めて選びたいと思ったのは、君だけだった

追憶 8/この人は、良い人なんだな

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「氷室さんのようなクールな人は、甘いものより、ブラックコーヒーのような大人の味のものがよく似合いますよ」

それは確か、バレンタインで貰ったチョコレートをおやつとして食べようとした時だったろうか、言われたのは。

「氷室のクールさは、宝だからな。イメージ壊すようなことして、番組を潰す真似だけはしてくれるなよ」

橘にも言われた。
それは、控室に置かれていたクッキーを食べようとしていた時だったろうか。
それから、女性と2人きりで食事をする機会も少なくなかったが、決まって彼女たちに言われたのも

「クールな氷室さん素敵」

こうあるべきだ。
そこからずれれば、お前なんか価値がない。
選ばれるわけがない。誰にも。
これらの言葉が、心の中に彫られた。
消そうとしても、生涯塞ぐことができない傷を新たに作る刺青のように。

でもそんな俺の心に、ふわっと柔らかいカバーをかけてくれたのが、優花だった。

「私なんかが、氷室さんのような方のお役に立てたのならすごく嬉しいです」

無理矢理、あの婚活会場から連れ出したこと。
その理由が、俺自身の問題もあったこと。
それらを謝罪した時に、真っ先に優花はこう言ってくれた。

「このクリームソーダ2つある様子、写真撮りたいんですよ」
「でも、私さすがに2つは飲めないかなと……」
「なので、よければ1つ、貰ってくれませんか?」

この、彼女からの問いかけに、驚かされた
直前に俺がクリームソーダのメニューを見ていたのを、優花は確かに見ていた。
そして俺がブラックコーヒーを頼んだ時、一瞬怪訝な顔をしてもいたから、きっと優花はこう思ったのだろう。

(何故、クリームソーダを選ばないんだろうか?)

と。
それならば、聞けば良いだけだ。
でも、そうだとしたら、俺はこう答えたかもしれない。

「ただ、見ていただけですから」

優花も、俺がクリームソーダを選ぶということに違和感を覚えたから、メニューを見ていたことを覚えていたのだろう。
その違和感が、彼女に変な印象を与えてしまうくらいなら、一般的に良いと言われる自分の印象を守ることを優先しよう。
俺は瞬時にそう考えた。

だけど、彼女の提案に乗っかると、彼女の頼みを、俺が聞いたという形になる。
俺は、こうして気になっていたクリームソーダを直接目にすることができるのだ。
彼女のために、という名目で。
これが、彼女なりの俺への気遣いなのかは分からない。
ただ、もし本当に俺を気遣っての言葉だったとしたら……。

(この人は、良い人なんだな……)

月並みな感想しか出てこない、自分の言語力にがっかりしてしまった。
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