イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命１日〜

夏の暑さと君の熱さと

4.奨学生

この勉強漬けの生活の中、私は自分の趣味を見つける事ができた。
塾に入ってから、小学校の教科書でしか活字を読めなかった時に比べて、遥かに多くの文章に目を通したことで、文を読む行為をしている時が、一番自分の心が癒される事に気づいた。

そして、国語の模試で見つけた、いじめに遭った小学生が懸命に生きようとしてる姿を題材にした小説の存在を知り、こっそりと学校の図書室で借りて全てを読み終わった時に、こんな小説を私も書いて、今の自分の様に悩んでいる人の助けになりたいという、人生で初めて夢というものを持つことができたのだ。

ちょっとの癒しもありながらも、大変な受験生生活を潜り抜けて、帝東学園の一般入試をトップで潜り抜け、中等部に奨学生として、全額無料で入学する事ができた。

思い出すだけなら「懐かしい」の一言で済ませられるが、当時は何か問題を解いていないと吐き気に悩まされていたので、やはりそれなりに辛い出来事だった。

さて、そんな経緯で入学した中学校だったが、全額無償という有難すぎる特典により、母も私の学費の心配をする必要が無くなり、母は残業が少ない職場へと移った。

大好きな母との時間も増えたこともあり、最初の一年間は、平安な毎日を過ごしていた。

例えクラスメイト達のほとんどが、私の生活水準よりも遥かに高い。
鞄や洋服はブランド物で年に一度の海外旅行は当たり前。
飛行機のエコノミークラスの狭さを体験したことも無い、年収5000万円以上の家庭で育った、良家のおぼっちゃんお嬢ちゃんばかり。
彼らが交わす会話の殆どが宇宙語の様に概念すら分からないものだとしても、もうみじめに感じていた小学生時代とは違うのだ。

奨学生として、やっと巡り合った素晴らしい「夢」に向かう一人の人間として、黙々と机に向かっていれば幸せだった。
そのおかげで全国模試全教科1位という私を手に入れた学校の先生達もまた、幸せになれていたのだ。
そのままただ穏やかに時を過ごせればよかったのに、奴が現れた。