イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命１日〜

楽園はすぐそばに？

4.私の最初で最後の恋人

「ぼっちゃまはご存知なのですか？」
やはり山田氏はプロだ。自分の心情ではなく雇い主の事を第一に考える。
私は、頭痛を避けるために手だけ横に振って否定してみせた。
時計を見ると間もなく迎えの車がくる時間だった。

「山田さん」

私は、これで最後になるだろう、奴の綺麗な顔をそっと撫でた。

「こいつ、連れ帰ってくれませんか。邪魔で仕方が無いので」

顔を見て別れを言ってやろうかと思った。
あんたなんか嫌いだから別れたいと。
実際、時期が来たら割り切ってさよならを言うつもりでいた。
別れたら自殺する発言には戸惑いも隠せなかったのだが、それ以上に困ったのは、私から別れるという言葉を言う事に対して、ためらいを覚えるようになっていたのだ。

「山田さん」

もう一度、奴を今後も私なんかよりもずっと助けてくれる、スーパー執事の名前を、かみしめるように呼んだ。

「このワンピース、どうですか？」

人生最期のショッピングとして、一昨日こっそり買ったこれは、今の私が奴に残せる、一番可愛いと思えた貴重な一枚だったのだ。

「とてもよくお似合いです」
「こいつ、実は白が好きなんじゃないですか？」

キューピーが好きだとぼやいていた最初の頃を思い出しながら、当たってたら良いな……とギャンブル感覚で選んだのが白。

「……よく、ぼっちゃまの事をお分かりに……」

そう言うと、山田氏は「失礼」と後ろを向いて、メガネをふく動作をした。
私はその背中に囁くように言った。

「だって、私の最初で最後の恋人ですから」