118 / 164
6.二人が結ばれしまった夜
こんなの、計画になかったのに……
しおりを挟む
そんな風に、自分に仕えるメイドが腹で何かを企てていることなど露知らず。
話題の中心人物は未だネグリジェを着たままベッドの上でぼーっとしていた。
手には、紙とペンを握りしめていた。
それは、推しても推してもまだ足りない、エドヴィン王子とアレクサンドラへの熱情で生み出した夢を書き起こすために、これまでも寝起きの習慣としてペンを取り続けていた。
だが、ここ数日は自分自身でも信じられない変化に驚いていた。
書けなくなってしまったのだ。今日、とうとう一文字も。
昨日は、書けてもたった10文字程度。おとといはもう少し書けた。
その前は数行程度は妄想を書けた。
そうして、リーゼはここ数日書く試みをした紙を並べながら頭を悩ませた。
「どうして、書けなくなったのかしら……」
理由を考えようと、目覚めたばかりの頭をフル回転させようとした時だった。
「あなたのお声は、どうしてそんなに愛らしいのでしょうか?」
と、毎回自分が推しカプへの愛を語るたびに、嫌な顔1つせず(と本人は声だけで解釈している)優しく話しかけてくれる男性の声が蘇ってしまう。
推しと似ている声だから(と本人は本気で信じている)なのだろうか。
本当の推しであれば許すまじ浮気発言であっても、推しに似ている男(と本人はガチで信じている)から推しを愛でることを肯定してもらえることが、本当に嬉しいとリーゼは思ったのだ。
そんな喜びが心を温め、「うふふふふ」と自分でも聞いたことがないような気味が悪い声が口から漏れるたびに、妄想の絵がどこかへ消えてしまう。
それが繰り返された結果の、今なのだ。
「はぁ……せっかく今日は、推しが結ばれる素晴らしき日になるというのに……」
リーゼにとって、今日の舞踏会はエドヴィン王子とアレクサンドラが正式に結ばれるための重大な日。
できることなら、しっかりクリアな視界で、ぴたりと5m程の距離感を守りながら、奇跡的瞬間をしかと確認したかったし、文字として残し、推し仲間(がいると本気で信じている)にも喜びを提供したい!なのに、脳がまったく動かない。それが、リーゼを悩ませてもいた。
「これはまさか……?」
前世の記憶があるリーゼとしては、心当たりがないわけではなかった。
まさか自分がもう一度こんな気持ちを取り戻すことになるなんてと、リーゼは自分がまず信じられなかった。
「こんなの、計画になかったのに……」
「何が、計画なのです?」
ぱっとリーゼが声に反応して顔を上げると、今自分が最も信用している素晴らしきメイドが、怪訝な顔でリーゼを見つめていた。
ツヤツヤと光る、着心地良さそうなドレスを抱えながら。
話題の中心人物は未だネグリジェを着たままベッドの上でぼーっとしていた。
手には、紙とペンを握りしめていた。
それは、推しても推してもまだ足りない、エドヴィン王子とアレクサンドラへの熱情で生み出した夢を書き起こすために、これまでも寝起きの習慣としてペンを取り続けていた。
だが、ここ数日は自分自身でも信じられない変化に驚いていた。
書けなくなってしまったのだ。今日、とうとう一文字も。
昨日は、書けてもたった10文字程度。おとといはもう少し書けた。
その前は数行程度は妄想を書けた。
そうして、リーゼはここ数日書く試みをした紙を並べながら頭を悩ませた。
「どうして、書けなくなったのかしら……」
理由を考えようと、目覚めたばかりの頭をフル回転させようとした時だった。
「あなたのお声は、どうしてそんなに愛らしいのでしょうか?」
と、毎回自分が推しカプへの愛を語るたびに、嫌な顔1つせず(と本人は声だけで解釈している)優しく話しかけてくれる男性の声が蘇ってしまう。
推しと似ている声だから(と本人は本気で信じている)なのだろうか。
本当の推しであれば許すまじ浮気発言であっても、推しに似ている男(と本人はガチで信じている)から推しを愛でることを肯定してもらえることが、本当に嬉しいとリーゼは思ったのだ。
そんな喜びが心を温め、「うふふふふ」と自分でも聞いたことがないような気味が悪い声が口から漏れるたびに、妄想の絵がどこかへ消えてしまう。
それが繰り返された結果の、今なのだ。
「はぁ……せっかく今日は、推しが結ばれる素晴らしき日になるというのに……」
リーゼにとって、今日の舞踏会はエドヴィン王子とアレクサンドラが正式に結ばれるための重大な日。
できることなら、しっかりクリアな視界で、ぴたりと5m程の距離感を守りながら、奇跡的瞬間をしかと確認したかったし、文字として残し、推し仲間(がいると本気で信じている)にも喜びを提供したい!なのに、脳がまったく動かない。それが、リーゼを悩ませてもいた。
「これはまさか……?」
前世の記憶があるリーゼとしては、心当たりがないわけではなかった。
まさか自分がもう一度こんな気持ちを取り戻すことになるなんてと、リーゼは自分がまず信じられなかった。
「こんなの、計画になかったのに……」
「何が、計画なのです?」
ぱっとリーゼが声に反応して顔を上げると、今自分が最も信用している素晴らしきメイドが、怪訝な顔でリーゼを見つめていた。
ツヤツヤと光る、着心地良さそうなドレスを抱えながら。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
年増令嬢と記憶喪失
くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」
そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。
ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。
「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。
年増か……仕方がない……。
なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。
次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。
なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。 ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる