お前が美少女になったら多方面に迷惑だと思わんでもない

余るガム

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TSEDふたなり美少女、爆誕

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 性差別が差別されている。

 ジェンダーレスだのダイバーシティだのと賢しらな横文字を並べて馬鹿を扇動する事で、筋の通った『区別』さえも不当な差別ということになる昨今。妊娠と出産は女性の負担が大きいので女性差別だ、などと批判する主張が生まれるのだから、そのイカレ具合はよくわかるだろう。

 嗚呼、されど我らは民主主義国家に生きる者。ならば大多数の意向に唯々諾々と従ってしかるべきである。例えその大多数の意向が少数によって偽造されたものだとしても、書類上は大多数なのだからしょうがない。
 
 しかしだ。
 たとえ少数派であろうと考える自由くらいはあるだろう。
 世の中『してはいけない事』で溢れてはいるが『考えてはいけない事』等存在しないのだから。

 故に私は確信する。
 例えこの言葉が多方面から『女性差別だ』『性差別だ』『人権弾圧だ』などと言われるのだとしても、私はこれは真理であると。

 つまりは。

 バイセクシャルで元美男子、現美少女の親友よ。扱いに困るから元に戻ってくれ。

◆◇◆◇

 さて……何から話したらいいのか。
 よし、まずは自己紹介と行こうか。

 私の名前は葛西 薫かさい かおる。今をときめく花の女子高生である。
 仕草や言動から『男っぽい』扱いを生まれついてより受けてきたので、今更その辺りを言われても私は特に気にはしない。

 ふむ? 男っぽい?
 成程、私は許そう。だが黄金の右コイツが許すと思うてか!

 花の女子高生を男扱いする不届き物を天誅したところで、渦中の人を紹介しよう。

 安藤 葵あんどう あおい。自他ともに認める超人である。
 あらゆるスポーツで専門家顔負けの記録を叩き出し、あらゆる学問で期待されている通りの正答を捻り出し、あらゆる人間を魅了してやまない美貌を曝け出す。おまけに人間性にも恵まれているというのだから、神の不平等を確信するに相応しい人材であろう。
 枕詞に『あらゆる』を付けておけば許されるとでも思っているのだろうか。

 彼を見ればどんな平等主義者も二度と平等など主張できまい。
 彼だけが露骨なほどに『上』なのだから。

 そんな一般的女子高生と超人男子高校生の関係であるが、何のことは無い。
 なぜか昔から一緒に居るだけだ。年齢こそ同じだが、精神的にはもはや兄弟の類ではないだろうか。

 お互いに相手を異性として扱っておらず、お互い『完成』する前からの付き合いなので割とぶっちゃけたことも言える。しかし本質的には血族の類でないので程よく距離感がある。

 そんな双方にとって都合の良い相手なのだ。

 例えば私はトリプルAもかくやの貧乳だが、この日本においての貧乳の絶対数たるや、まさに隔絶。
 故に色々と可愛らしいデザインのブラジャーもあるのだが、選択肢が多すぎて逆に選びづらい。
 完全に私の好みで決めてもいいが、異性との情事を鑑みると私個人の観点では測りかねる。

 そこでメンズとしての感性を有する葵に意見を貰う事で『そういうとき』のための準備とするのである。特に予定がなくともだ。

 当然、そこらの奴にこんな事聞けはしない。
 葵だからこそできる、不躾で曝け出した質問だ。

 そんなことを聞いても嫌な顔一つせずに――多少複雑そうな顔はしていたが、嫌という程ではなかったはずだ――応えてくれる。

 そんな人間性の葵だが、その人間性がどこでどう捻じ曲がったのか、博愛主義が高じて男女を平等に愛する性癖……つまりは、バイセクシャルとなっていた。
 冗談交じりに『じゃあ私も対象?』と聞いてみれば何度か口をパクパクさせてから『いや、ちょっと難しいかも』と言っていたので、ひとまず私の貞操は守られたが。

 かくて本日に至るわけであるが、私は本日『肉じゃがとカレーライスとハンバーグならば男子の心を最も掴む手料理はどれか』という質問をするべく、葵の家に向かった。
 そして勝手知ったるとばかりに不法侵入を決め込み、葵の部屋に押し入ったところである。

 すると葵はものの見事な美少女となってそこにいた。

 男性にしてはやや長い頭髪はワイヤーさながらの輝きを放ちながら肩甲骨の間を抜け、腰にまで伸びている。黒真珠を思わせる眼球は少し大きく、その光沢を増やして眼窩に嵌っていた。
 見上げる首の疲れを鑑みると身長はおよそ175㎝といったところか。どこもかしこも肉付きがよく、特に胸部に至っては貧乳の私が殺意を抱きたくなる程豊満であった。

「か、薫……」

 葵の人生史上初ともいえる程不安げな声と表情は物珍しくもあるが、その原因となった事象は更に珍しく、私の好奇は既に一杯一杯だ。

「落ち着け、葵。まずは棒が付いてるか確認しろ」
「薫も相当慌ててるだろ!?」

 そう言いながらもトランクスを引っ張るあたり、お前の慌て具合も大概だよ。

「……うわぁ」

 確認し終わったのだろう。酷い表情をしていた。

「付いてる」
「嘘だろオイ」

 じゃあいよいよ『なんだこれ』以外の感想が思い浮かばないのだが。

「えー……整理しよう。まずお前は元々男で、恋愛対象は両方。で、朝起きたら体が女になってたけど性自認は男のまま。しかし生殖器は男性のもので、恋愛対象は未だ両方のままで……」
「あ、よく見たら女性器もある」
「じゃあ性自認は男だけど女性の体になっているけど男性器も併せ持つバイセクシャルだから……心身ともに二刀流ってことか」
「でも男性器の方は勃起しないっぽいからただの飾りなんだけど」
「あっと……心身共に二刀流で一本は錆び付いてるけどもう一本はキレッキレの隙を生じぬ二段構え?」

 なんだこれは、どうすればいいのだ。
 頭が痛い。なんというか大容量と言われて100GBを想定して10TB用意したら1PBぶち込まれた様な気分と言えば伝わるだろうか。

「アレだ、多分例えを続けるからこんがらがるんだよ。ただ事実だけをまとめればいい」
「事実……バイセクシャルの美男子がふたなりの美少女になったけど、生殖機能は怪しい所」
「きっと精神の男女平等が肉体にまで及んでしまったんだろうね……」

 男女平等を追求した結果が勃起不全の雌雄同体なら、私は喜んで差別主義者になるよ。

「というか現状を一言で表す語彙が欲しいんだが、葵は何かないか?」
「TSEDふたなり美少女、爆誕」
「……もうそれでいいわ」

 この男(?)、案外楽しんでやがるな?
 まあ元々バイセクシャルなのだ、ふたなりというのはある種本望ですらあるだろう。

「あっ! 薫、今俺の事『なに呑気してやがるこの美少女め』とか思っただろ!?」
「そこまで私の思考が読めるならその後私が考えたことも分かるな?」
「YEAH! OF COURSE! ゴボス!?」

 最後のは私の鉄拳が葵のみぞおちを貫いた結果だ。
 かつてないレベルで鬱陶しかったのだから仕方ないだろう。『かつてない』が頻繁に更新される基準だとしてもだ。

「さて、これからどうするか考えないとな」
「ぬおおぉぉぉぉおおお……」
「五月蠅いぞ。服は……ボーイッシュスタイルと言い張れるな。顔が良いとそれだけで得をして羨ましい事だ」
「顔で言えば薫も大概な癖に……」
「お互いユニセックスな顔を持つと大変だな」

 まあ、見てくれについてはどうとでもなる。この際気にする必要はない。
 問題となるのは中身の部分だ。

「まず下着を買う所からだな。そうでもしないと将来悲惨な事になるぞ」
「今以上に悲惨な状況がどんなものか教えて欲しい」
「上の『玉』まで機能不全にするつもりか?」
「元々なかったものが増えてもなぁ……」

 それを渇望してやまない人間も多くいるのだがな。
 『要らないものは要らない』ってのも分からんでもないが。

「後は……『穴』の方はちゃんと機能するのか?」
「さあ?」

 軽く調べた所、『どちらも碌に機能しない』というのが多いらしい。
 機能しないでもないが、完全性のないそれらでは『棒』はともかく『穴』の方はほぼ不可能とのこと。

 つまり『棒』の方もほぼ機能していない葵の生殖機能は本当に0に近いという事になる。

「まあ所詮は適当なネット知識だ。鵜呑みにしない程度で良いだろう」
「ああ……薫が頼もしい」
「こんな程度に恩に着るな」

 大体自分でも調べられただろうに。

「『棒』があるってことはパンツはそのままで良いとして……ブラだな。こっちはきっちり買いに行こう。必要無い可能性も高いが、一応生理用品もな」
「はーい……女性下着売り場って気乗りしないんだよなぁ」

 私もだよ。
 明確なカップ数を見ると殺意が湧きそうってのもある。

◆◇◆◇

 私は激怒した。
 必ずかの邪知暴虐の巨乳を除かねばならぬと決意した。

「あのー……薫?」

 私は巨乳が分からぬ。私は学校の女生徒である。ペンを持ち、友人と遊んで暮らしてきた。

「おーい」

 けれども巨乳の弾みには人一倍敏感であった。

「えい」
「もるすぁ」

 葵がいきなり私の顎と頬を一緒に掴み上げる。
 変な声が出ると同時に、私は正気に戻った。

「悪い悪い。錯乱していた」
「そんなになるほどかな……? たかがGだよ?」
「私は激怒した」
「ごめんって、落ち着いて」
「もるすぁ」

 昔からこれをされるとなんとなく落ち着いてしまうのは何なのだろうか。
 条件反射?

◆◇◆◇

 不慣れな葵に手伝う形で、バカデカいブラを装着させた。
 ここがどれだけ大きかろうとどうでもいい事だ。人間、大切なのは中身だよ、中身。

「へー……こういう構造になってるんだ」
「葵なら既に彼女とかので熟知してると思ったんだがね」
「いたこともないのに、どうやって剥けっていうのさ」
「……いたことないのか?」
「ホイホイ誰かを好きになれない質でね」
「ああ……そういえば幼馴染純愛モノだったな」
「なんで知ってるのさ!?」
「本当にそうなのか」
「え、あっ……」

 単にカマかけただけである。
 こういう状況の事をなんと表現すべきだろう。『皆まで言うな』か、『語るに落ちる』か。

「うああ……」

 少なくとも今の葵は『顔から火が出る』が正しかろう。

「そんなに恥ずかしい事か? 割と真っ当な性癖じゃないか」
「性癖を薫に知られたって部分がね……」
「ふーん?」

 生憎私はそういう羞恥心とはずいぶん前に決別した手合い。
 今更理解しろなど無理のある話だ。

「しかしそういうのっていないから性癖になるもんじゃないのか? 実際の妹持ってる奴が妹萌えになってる所見たことないぞ」
「……」
「本質的な所はともかく、定義的には私たちの関係性は幼馴染だろうに。妙な話さ」

 まあ、世の中には実際にそうなる剛の者もいるのかもしれないが。

「いや……なるもんだよ、薫」
「うん?」

 静かに、何か決意するかのようにこぼす葵。

「だって俺は、薫の事が好きだから!」
「はぇ?」

 あまりにも予想外な言葉に、流石の私も硬直してしまう。

「そりゃ薫から見れば今の俺は男でありながも女性的魅力を兼ね備えつつ、両方を愛する心根の超越的美人かもしれないけど! それでも俺は本気なんだ!」
「待て待て。以前そういう話をしたときに私はそういう目で見れない、みたいな事言ったじゃないか」
「アレは照れ隠しだよ」
「照れ隠し……ってことは女体化(?)のショックで錯乱してるとかではなくて、随分前から?」
「基本的に女性が好きだけど! でも好きになったのは薫だけだ!」

 嗚呼、情熱的だな。
 実に想いに溢れた、最高の告白だったよ。

 だがな、葵。お前は一つ忘れているぞ。

「私は男だぞ?」
「だから俺はバイセクシャルになったんだろうが!」

 私は心根こそ女だが、肉体はれっきとした男だ。
 ブラも買うし、スカートも履くし、戸籍上も改変して女ってことになってるし、性自認も女だが、れっきとした男だ。

 男っぽい? それは当然だ。だって男だから。

「思えば、この女体化(?)は俺にとって最高の転機! パッと見の肉体が女性の俺と男性の肉体を持つ薫! もはや俺たちの間を妨げるものは何もない! 確か戸籍上薫は女だったな! なら戸籍上男の俺とは結婚も可能! 葵、愛している! 結婚してくれ!」

 うあー……これは、困ったな。
 何が困ったって、そう言われて悪い気はしていない事だ。

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします……」

◆◇◆◇

 この日、世にも奇妙なカップルが誕生した。
 戸籍を見れば、男と女。だが外見を見れば、女と女。しかしその本質は、両性具有と男性。それなのに性自認は男と女。

 何を言ってるか分からない?
 私も何を言っているのかよくわかっていない。
 頭がどうにかなりそうな中、超スピードだとか催眠術だとか、そんなチャチなものに頼ってでも語っておきたかった。

 全てを整理して俯瞰した私は、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だった。
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