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第一話:霊 瑞香
メロンソーダ侍
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「やっぱり今日もおでんだ。昨日もおでんだったし、一昨日もそう。太郎さんは一つにハマると飽きるまで続けるところがある。おでんも好きだけど他のも食べたいのに」
分厚いノートを端に避け、おでんのたまごに箸をぶっさし、たまこが太郎にちくりと嫌味をこぼす。こう毎日続くとさすがに飽きる。おでんじゃないものが食べたかったのだ。
「そんなこと言ってもたまこちゃんはいつも全部ペロッと食ってるぜい」
ふふんと得意げに鼻を鳴らして太郎がたまこの皿を指した。
欲しいことばはそれじゃない。知らない。聞こえないとばかりにたまこは横を向いておでんの皿を腕の中に隠し、太郎に見えないようにしてかっこみ始めた。
侍も昭子も同様に勢いよくおでんをかっこんでいる。
たまご、大根、ちくわ、こんぶが各々から出て混ぜ合わさった出汁をよく吸って美味しく育っていた。
具材は半分を残し、その半分におかわり自由の自家製甘味噌をつけて食べるのが三人の間で流行っていた。
みんなの食べっぷりに、太郎は満足げに頷いている。
長い年月をかけて編み出した太郎なりのおでんレシピで作ったおでんはここ最近毎日のように出されている。
具も、たまご、大根、ちくわ、こんぶのみといったところであった。
一通り腹も心も満たされたところで、たまこが皆の食べ終わった皿を重ねて台所へ持っていく。腕まくりをした。洗い物をするのはたまこの仕事になっているのだ。
手際よく洗い物を終えると布巾できれいに拭いて元のところに戻し、こたつに戻ったところで、たまこが切り出した。
「で、侍さんはどうして妖怪になってしまったの?」
分厚いノートを自分の前に引き寄せてえんぴつの先をペロンと舐めた。
「おいおいたまこちゃん、そんないきなりどうして妖怪になってしまったの? は、ねえわなあ。話には前置きってもんがあんだろうよ。ま、俺は自らが好き好んでこうなってんだけどな。それに、なんで俺が妖怪だって思うんだい? まだちゃきちゃきの人間かもしれないんだぜ」
侍があやふやな言い方でたまこに言うと、爪楊枝を歯間に食い込ませた。
「ううん、それはないです。絶対人間じゃない。わかるもん。だって侍なのにメロンソーダが好きなのってなんか変だし、首の周りに一周切られた傷があるのに生きてるし、それに影の内からぬうって出てくるもん。だから妖怪決定」
たまこがえんぴつで侍の首の傷を指さした。
「そんなずばっと言っちゃあ、身も蓋もねえってもんだわな」
侍が目尻に烏の足跡をこしらえて残りのメロンソーダを飲み干した。
着物の襟を首元まで上げてわざとらしく傷を隠す。
「そうよねえ、メロンソーダが好きな落ち武者なんて聞いたことないよねえ」
昭子が日本酒をくいっとやって侍にしてやったり顔を向ける。
「おい、昭子さん、聞き捨てならねえな、俺は落ち武者じゃねえぞ。それに言っとくがな、侍でもねえからな。俺は単なる放蕩息子だ。そこらへんの輩と一緒にしてもらっちゃあ困る」
「放蕩息子だって胸を張って言えることじゃないと思いますよ、侍さん」
太郎がやんわりと正論を述べる。そんな太郎の言葉に侍は背を向けて聞こえないふりをした。
「それじゃあ、侍さんがどうしてメロンソーダが好きな侍さんになったのか、死んだのになんで成仏しなかったのかを教えてください」
玉子がえんぴつの先をまた舐めて、書く体勢を整えた。
「言い方にしっくりこねえがここは一つ我慢しちゃるか。面倒くせえが、それがお前との約束の一つだしな。少しだけだったら教えてやってもいいぞ。というよりだな、ここに長く居すぎて昔のことは朧げなところもあんのよ。だから、そういうところは端折るからな。それでいいな」
たまこは大きく頷いた。
分厚いノートを端に避け、おでんのたまごに箸をぶっさし、たまこが太郎にちくりと嫌味をこぼす。こう毎日続くとさすがに飽きる。おでんじゃないものが食べたかったのだ。
「そんなこと言ってもたまこちゃんはいつも全部ペロッと食ってるぜい」
ふふんと得意げに鼻を鳴らして太郎がたまこの皿を指した。
欲しいことばはそれじゃない。知らない。聞こえないとばかりにたまこは横を向いておでんの皿を腕の中に隠し、太郎に見えないようにしてかっこみ始めた。
侍も昭子も同様に勢いよくおでんをかっこんでいる。
たまご、大根、ちくわ、こんぶが各々から出て混ぜ合わさった出汁をよく吸って美味しく育っていた。
具材は半分を残し、その半分におかわり自由の自家製甘味噌をつけて食べるのが三人の間で流行っていた。
みんなの食べっぷりに、太郎は満足げに頷いている。
長い年月をかけて編み出した太郎なりのおでんレシピで作ったおでんはここ最近毎日のように出されている。
具も、たまご、大根、ちくわ、こんぶのみといったところであった。
一通り腹も心も満たされたところで、たまこが皆の食べ終わった皿を重ねて台所へ持っていく。腕まくりをした。洗い物をするのはたまこの仕事になっているのだ。
手際よく洗い物を終えると布巾できれいに拭いて元のところに戻し、こたつに戻ったところで、たまこが切り出した。
「で、侍さんはどうして妖怪になってしまったの?」
分厚いノートを自分の前に引き寄せてえんぴつの先をペロンと舐めた。
「おいおいたまこちゃん、そんないきなりどうして妖怪になってしまったの? は、ねえわなあ。話には前置きってもんがあんだろうよ。ま、俺は自らが好き好んでこうなってんだけどな。それに、なんで俺が妖怪だって思うんだい? まだちゃきちゃきの人間かもしれないんだぜ」
侍があやふやな言い方でたまこに言うと、爪楊枝を歯間に食い込ませた。
「ううん、それはないです。絶対人間じゃない。わかるもん。だって侍なのにメロンソーダが好きなのってなんか変だし、首の周りに一周切られた傷があるのに生きてるし、それに影の内からぬうって出てくるもん。だから妖怪決定」
たまこがえんぴつで侍の首の傷を指さした。
「そんなずばっと言っちゃあ、身も蓋もねえってもんだわな」
侍が目尻に烏の足跡をこしらえて残りのメロンソーダを飲み干した。
着物の襟を首元まで上げてわざとらしく傷を隠す。
「そうよねえ、メロンソーダが好きな落ち武者なんて聞いたことないよねえ」
昭子が日本酒をくいっとやって侍にしてやったり顔を向ける。
「おい、昭子さん、聞き捨てならねえな、俺は落ち武者じゃねえぞ。それに言っとくがな、侍でもねえからな。俺は単なる放蕩息子だ。そこらへんの輩と一緒にしてもらっちゃあ困る」
「放蕩息子だって胸を張って言えることじゃないと思いますよ、侍さん」
太郎がやんわりと正論を述べる。そんな太郎の言葉に侍は背を向けて聞こえないふりをした。
「それじゃあ、侍さんがどうしてメロンソーダが好きな侍さんになったのか、死んだのになんで成仏しなかったのかを教えてください」
玉子がえんぴつの先をまた舐めて、書く体勢を整えた。
「言い方にしっくりこねえがここは一つ我慢しちゃるか。面倒くせえが、それがお前との約束の一つだしな。少しだけだったら教えてやってもいいぞ。というよりだな、ここに長く居すぎて昔のことは朧げなところもあんのよ。だから、そういうところは端折るからな。それでいいな」
たまこは大きく頷いた。
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