麻布十番の妖遊戯

酒処のん平

文字の大きさ
4 / 56
第一話:霊 瑞香

小林瑞香

しおりを挟む
      三

 小林瑞香(こばやしみずか)はこたつについていた。
 正面にいる金髪にデニムの着物を着ている男と目が合うと、びくりと身体を跳ねさせた。
 見た目が怖いのだ。風体からしてどこかのちんぴらにしか見えない。
 輪をかけて、瑞香のことをじいっと鋭い目つきで睨みつけてくるのだ。

「太郎ちゃん、女の子をそうやってじいっと見るのやめなさいよ。気持ち悪がられるわよ。それでなくても見た目が怖いんだから。ねえ」
 自分の左から耳心地のよい声が聞こえた。そこには紅色の着物を着たお洒落な髪型をした色っぽい女がいた。言わずもがな、昭子のことだ。
 グラスを片手に揺らしながら先程の金髪の男にちくりと言葉を刺した。

 目が合うと、切れ長の目を細めて色っぽい笑みを向けられた。自分以外にも女性がいることに安心し思わず小さく頭を下げる。そして、

「あの、ここは一体……」

 どこなんだろう。
 家の一室のようにも見えるし、どこかの店のようにも見える。
 見回した部屋の中は壁も天井も床も全てが木でできている。見える限りではこの部屋しかない。この大きなこたつ以外に何も置いていない。
 明かりは落とされていて、目の前にある蝋燭の炎がチロチロと揺れている。目の前の二人の顔は蝋燭の火に照らされて揺れていた。

「今すぐにはなんでここに現れたのか思い出せなくても、すぐに思い出しますよ。何もかもね」
 太郎が瑞香の顔を覗き込んでゆったりと唇を左右に引き延ばす。
 その顔が化け物に見えた瑞香ははっと小さく息を飲み体を強張らせて後ろに引く。昭子にちらりと目を向けた。「理由があるはずなのよ。大丈夫よ怖がらなくても」と昭子が瑞香ににっこり笑って頷いてみせる。

 ここへ来た理由か。
 ええと、確か私はある男の後を毎日毎日寝ても覚めてもずっとつけていたんだよね。
 でもなんでそうしたんだろう。ええと、確か……
 ああ、そうだ。私はあの男に凄まじい殺意を持っていたんだ。殺したくても殺せなくて悔しくて悔しくて仕方なかった。
 そうだ、私は殺されたんだ。あの男に殺された。でも、どうやって殺されたんだっけ。
 ええと、殺されてからというものどうしていいかわからずにただひたすらずうっとあいつの背後に張り付いていた。

 それがある時、なぜだか張り付くことができなくなって、なんでだっけ。ええと。
 ああ、そうだ、あいつの体から眩い光が噴き出したんだ。その光に当てられて私は、

「そうか、私は彼に祓われたんだ」
 独り言ちる。膝の上で手を組んだ。ぎゅっと力を入れこめて唇を噛んだ。瞬きが早くなる。
「やられたんだ」
 組んだ手に力が入る。
「そうと決まっちゃあいないってもんですよ」
 素早く太郎が言葉をはさむ。

「ここにこうやって現れたということは、まだあなたは「この世」にいるんですよ。安心してください、成仏なんざしちゃいません。ちゃんとまだ死んでますからね」
 瑞香が思い出している間に太郎はいつも通りに台所へ行き、飲み物を用意した。
 瑞香の前に静かにグラスを置く。

「契約の『時』が来ただけです」
 にたついた太郎の笑みに瑞香はまだ落ち着くことができない。自分の前に出された飲み物も気になる。

「祓われていないならなんで私はここにいるんでしょうか。 契約の時ってなんですか? 私が誰かと契約をしたんですか?」
 瑞香は疑わしい目を太郎に向け、隣の昭子にも目を向けた。

「あんたを殺した人の寿命が尽きるのが、今日なのさ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。 「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」 「それは……しょうがありません」 だって私は―― 「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」 相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。 「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」 この身で願ってもかまわないの? 呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる 2025.12.6 盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

処理中です...