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第一話:霊 瑞香
契約
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瑞香が口をもごつかせながら昭子が言ったことを繰り返す。
「あたしは昭子って言うの。これは太郎って言ってあたしの古くからの仲間でね、威圧感があると思うけど気にするこたないよ。害はないさ。そんなことより女同士いろいろお話ししようじゃないか。良ければあんたの名前と、なんで殺されたかってのを話してくれないかい? あんたは今まで長いことこの世から遠ざかっていたから忘れちゃったと思うけどね、あんたはきっとそういう約束をしたはずだよ。え? なんでかって聞くのかい? そりゃああたしなんかより太郎に聞いた方がいいさ。ねえ、そうだろ?」
昭子はお洒落な髪をするりと手で撫で、太郎に水を向けた。
「おやおや、俺にふるのかい? それじゃせっかくのご指名なんでなんでここに出てきたかってえのをざっくり話すとしましょうか」
太郎が口を開く。
わかってると思うけどあんたは既に死んでいてね、この世に残っているある男に恨みを残しているんだよ。で、どうにもこうにもそいつをなんとかしてやらないと上に逝くにしても逝けない。でもだ、どうやったらいいのかやり方がわからない。呪い殺したくてもやり方がわからない。首を締めようにも相手に触れもしないんだから全く話にならない。なにもできずにあんたはもどかしい思いを募らせていた。
そんなもんもんとしていたある日、道端である人に出会ったんだ。そこで交わした約束により、あんたはしばらく無になって消えていてね、時がくるのを待っていたのさ。長ーい時間無になっていたんだ。忘れていても仕方ない。
「でだ、今日がその恨んでいる男の死ぬ日なんだよ。だから、ここに出てきたってえわけさ。ん? この家かい? ここはあんたみたいな霊が最後の仕事をする為に作られた言わば最後の憩いの場ってところだよ。ずっといてもいいぜ」
嘘か本当か判断できぬようなことをさらりと言い、得意気に話した太郎が鼻を鳴らしたすぐ後で、
「なあにが憩いの場だよまったく。ここのどこに憩いがあんのさ。遊びやがって」
黙って聞いていた昭子が太郎に突っかかったが、その顔には笑みが乗っかっていた。
「まあ、ずっといられちゃあ困るってもんですけどね」
太郎はニタニタ笑っている。
「いいかい、あんたが霊になってからもう随分と長いけど、自分を殺した男の霊にもう一回殺されるなんてまっぴらごめんだろう? こっちが霊であっちが人間だったらあんたの勝ちさ。怖がらせて取り憑くことだってできる。あんたはそれをしなかったけどねえ」
しかしだ、お互い霊になっちまったら対等さ。人殺しをしてきてる奴なんだ。いいようにかまされて二度殺されるよ。
だからあたしたちがいるんだよ。と昭子は胸を張った。
「あたしらがあんたの後ろに控えてるから、おまえさんは思う存分、やりたいように恨みを晴らせるんだよ。でも、ただってわけじゃないよ」
昭子が凄みをきかせ、瑞香は思わず固唾を飲む。
「最後までしっかり決着をつけられるように俺たちがいてやるってわけだ。言わば守り神みたいなもんさ」
太郎が、自分たちはお前さんを守れる守り神だとまた適当なことを言った。
「あれ、久し振りに良いことを言ったよ。確かにそうとも言えるねえ、あたしたちは守り神だ。神なんて名乗るなんて気分がいいねえ」
昭子も調子に乗る。守り神という響きが気に入ったようだ。
「ここまで話せばこれからあんたがやるべきことはわかってるわね?」
「あいつをやっつける」
「可愛い言い方だね」
おもわず吹き出した昭子に瑞香がムッとした顔をする。唾を飲み、気持ちを切り替える。
「もう一つ確認したいことがあります」
思い出したついでとばかりに瑞香の喋りが徐々に滑らかになっていく。
「私が彷徨っているときに、変な格好の侍さんと会ったんです。その人が何か言っていた。その侍さんにばったりと畑で出くわして、そうですよ、道じゃない、畑で会ったんです。それで、いろいろ話を聞いてもらっているうちに、なにかの契約をしたんです。その契約が交わされた時点で私は消えたんです。なるほど。私はその侍さんと何かの契約を交わしたんですね」
「話が見えてきたじゃねえか」
太郎が大きく首を上下させた。
「あたしは昭子って言うの。これは太郎って言ってあたしの古くからの仲間でね、威圧感があると思うけど気にするこたないよ。害はないさ。そんなことより女同士いろいろお話ししようじゃないか。良ければあんたの名前と、なんで殺されたかってのを話してくれないかい? あんたは今まで長いことこの世から遠ざかっていたから忘れちゃったと思うけどね、あんたはきっとそういう約束をしたはずだよ。え? なんでかって聞くのかい? そりゃああたしなんかより太郎に聞いた方がいいさ。ねえ、そうだろ?」
昭子はお洒落な髪をするりと手で撫で、太郎に水を向けた。
「おやおや、俺にふるのかい? それじゃせっかくのご指名なんでなんでここに出てきたかってえのをざっくり話すとしましょうか」
太郎が口を開く。
わかってると思うけどあんたは既に死んでいてね、この世に残っているある男に恨みを残しているんだよ。で、どうにもこうにもそいつをなんとかしてやらないと上に逝くにしても逝けない。でもだ、どうやったらいいのかやり方がわからない。呪い殺したくてもやり方がわからない。首を締めようにも相手に触れもしないんだから全く話にならない。なにもできずにあんたはもどかしい思いを募らせていた。
そんなもんもんとしていたある日、道端である人に出会ったんだ。そこで交わした約束により、あんたはしばらく無になって消えていてね、時がくるのを待っていたのさ。長ーい時間無になっていたんだ。忘れていても仕方ない。
「でだ、今日がその恨んでいる男の死ぬ日なんだよ。だから、ここに出てきたってえわけさ。ん? この家かい? ここはあんたみたいな霊が最後の仕事をする為に作られた言わば最後の憩いの場ってところだよ。ずっといてもいいぜ」
嘘か本当か判断できぬようなことをさらりと言い、得意気に話した太郎が鼻を鳴らしたすぐ後で、
「なあにが憩いの場だよまったく。ここのどこに憩いがあんのさ。遊びやがって」
黙って聞いていた昭子が太郎に突っかかったが、その顔には笑みが乗っかっていた。
「まあ、ずっといられちゃあ困るってもんですけどね」
太郎はニタニタ笑っている。
「いいかい、あんたが霊になってからもう随分と長いけど、自分を殺した男の霊にもう一回殺されるなんてまっぴらごめんだろう? こっちが霊であっちが人間だったらあんたの勝ちさ。怖がらせて取り憑くことだってできる。あんたはそれをしなかったけどねえ」
しかしだ、お互い霊になっちまったら対等さ。人殺しをしてきてる奴なんだ。いいようにかまされて二度殺されるよ。
だからあたしたちがいるんだよ。と昭子は胸を張った。
「あたしらがあんたの後ろに控えてるから、おまえさんは思う存分、やりたいように恨みを晴らせるんだよ。でも、ただってわけじゃないよ」
昭子が凄みをきかせ、瑞香は思わず固唾を飲む。
「最後までしっかり決着をつけられるように俺たちがいてやるってわけだ。言わば守り神みたいなもんさ」
太郎が、自分たちはお前さんを守れる守り神だとまた適当なことを言った。
「あれ、久し振りに良いことを言ったよ。確かにそうとも言えるねえ、あたしたちは守り神だ。神なんて名乗るなんて気分がいいねえ」
昭子も調子に乗る。守り神という響きが気に入ったようだ。
「ここまで話せばこれからあんたがやるべきことはわかってるわね?」
「あいつをやっつける」
「可愛い言い方だね」
おもわず吹き出した昭子に瑞香がムッとした顔をする。唾を飲み、気持ちを切り替える。
「もう一つ確認したいことがあります」
思い出したついでとばかりに瑞香の喋りが徐々に滑らかになっていく。
「私が彷徨っているときに、変な格好の侍さんと会ったんです。その人が何か言っていた。その侍さんにばったりと畑で出くわして、そうですよ、道じゃない、畑で会ったんです。それで、いろいろ話を聞いてもらっているうちに、なにかの契約をしたんです。その契約が交わされた時点で私は消えたんです。なるほど。私はその侍さんと何かの契約を交わしたんですね」
「話が見えてきたじゃねえか」
太郎が大きく首を上下させた。
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