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第一話:霊 瑞香
崩壊
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嘘だ。嘘だ。と現実逃避を始める司は、俺は他人の子を育てていたのか。自分の子供だと思っていたのに、他人の子だったのか。と信じられない。信じたくないと顔を大きく左右に振り続ける。
「なあ、教えてくれよ。妻はともかく、こどもらはまったく気づいてなかったんだよな。そうだろ、父親が違うなんて知らなかったんだろ」
太郎にすがりつくが、その手を軽くいなし、
「知ってたさ。時間をかけて説明したんだ。お前の妻は頭が良かっただろう。ゆっくり刷り込むようにして、理解させた。そしてお前が完全にこの家族に心を許すのを待った。家族が宝物に変わるのを待ってたんだ。復讐するためにな。だからお前に逆らわず、波風立てず、こどもたちだってお前に何もねだったりもしなかっただろう」
「それは俺の育て方がよかったから、」
「何言ってんだよ、父親のすることはぜんぶその男がしてたんだよ。本当の父親だからな。子供たちはその男に甘えてたんだ。つくずく馬鹿だなおまえは」
呆然とする司に、太郎は、
「やっぱおもしれえ。死んでからも悩むんだな人間てもんは。どうなるわけでもないのに」
と目をまん丸にして司を凝視した。
「太郎ちゃん、面白がってないで、この先をさっさと教えてやんなさいよ。ここからが一番おもしろいんだから」
昭子が太郎の着物の袖を引っ張り、話の先を聞かせろとねだる。司の慄く表情が見たいのだ。わかったと頷き、
「これからお前は殺される」
「どういうことだよ」
司の声は震えていた。己はもう死んでいるのだ。それなのに殺されるとは意味がわからない。
「お前は最近体調がよくなかっただろう? それはな、おまえの妻が長い年月をかけてお前の食い物に仕込みをしてたんだよ」
「仕込み? まさか毒を持ったってことか。俺の飯に毒を入れてたのか! は、犯罪じゃねえか」
「おもしろいこと言うなお前」
太郎が苦笑し体を強張らせている司をまじまじと見た。更に怖がらせるように、
「お前の妻はお前を痛めつけて苦しませて殺すはずだったんだけど、そこだけがうまくいかなかった。さぞ残念だろうな。おまえは苦しまずに死んだんだから、さぞやるせないだろう。それはさておきだ、これからお前は永遠にひとりぼっちになる。一人で闇の中に落ちて行く。そこで今まで殺した奴らに逆に殺され続ける。先は無い。殺されたあとにあるのは完全な闇だ。闇の中でも殺され続ける。その中にポツンと未来永劫居続ける。その死ぬ時の痛くて苦しい気持ちだけがお前の友達だ。この地球ってもんが終わりを迎え、みんなが違う世界へ移っても、お前の時間はここに貼り付けられたままだ。哀れだな」
「瑞香」
そうだ、瑞香を生き返らせればそうならないはずだ。
司は瑞香を生き返そうと、その体を探す。
しかし、己が八つにバラした瑞香はもうこの世にはいない。体もとうに朽ち果てて残っているのは骨のみだ。
生き返らせられるわけがないのだ。
恐怖に支配され、普通では考えられないことを実行しようとする。
そんな奇行に走った司には目もくれず、三人は瑞香の元へ歩く。
家がぼうっと音を立てた。
車のエンジン音が響く。
山の中にポツンと佇むこの家が赤々と燃えていようとも、誰にも気づかれな
い。
妻は馬鹿じゃない。家が燃え終わる頃には雨が降り出すことも計算しての決行だ。
あれだけ灯油を浴びせたら、残すことなく燃えつきるだろう。
慌ただしく動いたのはこのためだ。本当だったら死ぬのはまだ先の話だった。
弱って動けなくなってから生きたまま焼き殺すはずだった。しかし死んでしまったらすぐに燃やさないと死体はあっという間に腐る。
妻はすぐに天気を調べ、やるべきことを考えた。
「この先はおまえさんの仕事だ」
太郎が少しかがんで瑞香と視線を合わせた。
ゆっくりと首を引いた瑞香はどこかすっきりとしていた。
「ありがとうございます。最後に一つだけいいでしょうか」
「言ってみな」
自分が助けようとしていた子がちゃんと成仏できたのか気になって仕方ないと正直に言った。
「ああ、その子はここにはもういないよ。瑞香さんがそのことでいつまでも苦しんでたらその子もきっと悲しむぜ」
太郎はそれだけ言うと、瑞香の肩に手を置いて、
「この男はこれから苦しむから、ようく見ておくといい。残念ながらあんたがこの男に直接手をかけるのは今ではないけれど、それでも、惜しみない苦しみが未来永劫終わることなくこれからやってくるから」
二回、瑞香の肩を叩くと、あとは時間の問題だ。あんたはそれまで『また』消えることになると思うけど、こいつの苦しみはいつでも見られる状態にあることを忘れるんじゃ無いよ。
瑞香は太郎が言った『また』という言葉を反芻した。そして、眉間に皺を寄せて力強く頷くと、はっきりと怒りを込めた目を司に向けた。
司は一心不乱に土を掘り起こしていた。厳密には土に触れることはできないけれど、自分に火をつけて置き去りにした家族のことをなかったことにしようと、瑞香を生き返らせようと狂ったように土の中に手を突っ込んでいた。
「なあ、教えてくれよ。妻はともかく、こどもらはまったく気づいてなかったんだよな。そうだろ、父親が違うなんて知らなかったんだろ」
太郎にすがりつくが、その手を軽くいなし、
「知ってたさ。時間をかけて説明したんだ。お前の妻は頭が良かっただろう。ゆっくり刷り込むようにして、理解させた。そしてお前が完全にこの家族に心を許すのを待った。家族が宝物に変わるのを待ってたんだ。復讐するためにな。だからお前に逆らわず、波風立てず、こどもたちだってお前に何もねだったりもしなかっただろう」
「それは俺の育て方がよかったから、」
「何言ってんだよ、父親のすることはぜんぶその男がしてたんだよ。本当の父親だからな。子供たちはその男に甘えてたんだ。つくずく馬鹿だなおまえは」
呆然とする司に、太郎は、
「やっぱおもしれえ。死んでからも悩むんだな人間てもんは。どうなるわけでもないのに」
と目をまん丸にして司を凝視した。
「太郎ちゃん、面白がってないで、この先をさっさと教えてやんなさいよ。ここからが一番おもしろいんだから」
昭子が太郎の着物の袖を引っ張り、話の先を聞かせろとねだる。司の慄く表情が見たいのだ。わかったと頷き、
「これからお前は殺される」
「どういうことだよ」
司の声は震えていた。己はもう死んでいるのだ。それなのに殺されるとは意味がわからない。
「お前は最近体調がよくなかっただろう? それはな、おまえの妻が長い年月をかけてお前の食い物に仕込みをしてたんだよ」
「仕込み? まさか毒を持ったってことか。俺の飯に毒を入れてたのか! は、犯罪じゃねえか」
「おもしろいこと言うなお前」
太郎が苦笑し体を強張らせている司をまじまじと見た。更に怖がらせるように、
「お前の妻はお前を痛めつけて苦しませて殺すはずだったんだけど、そこだけがうまくいかなかった。さぞ残念だろうな。おまえは苦しまずに死んだんだから、さぞやるせないだろう。それはさておきだ、これからお前は永遠にひとりぼっちになる。一人で闇の中に落ちて行く。そこで今まで殺した奴らに逆に殺され続ける。先は無い。殺されたあとにあるのは完全な闇だ。闇の中でも殺され続ける。その中にポツンと未来永劫居続ける。その死ぬ時の痛くて苦しい気持ちだけがお前の友達だ。この地球ってもんが終わりを迎え、みんなが違う世界へ移っても、お前の時間はここに貼り付けられたままだ。哀れだな」
「瑞香」
そうだ、瑞香を生き返らせればそうならないはずだ。
司は瑞香を生き返そうと、その体を探す。
しかし、己が八つにバラした瑞香はもうこの世にはいない。体もとうに朽ち果てて残っているのは骨のみだ。
生き返らせられるわけがないのだ。
恐怖に支配され、普通では考えられないことを実行しようとする。
そんな奇行に走った司には目もくれず、三人は瑞香の元へ歩く。
家がぼうっと音を立てた。
車のエンジン音が響く。
山の中にポツンと佇むこの家が赤々と燃えていようとも、誰にも気づかれな
い。
妻は馬鹿じゃない。家が燃え終わる頃には雨が降り出すことも計算しての決行だ。
あれだけ灯油を浴びせたら、残すことなく燃えつきるだろう。
慌ただしく動いたのはこのためだ。本当だったら死ぬのはまだ先の話だった。
弱って動けなくなってから生きたまま焼き殺すはずだった。しかし死んでしまったらすぐに燃やさないと死体はあっという間に腐る。
妻はすぐに天気を調べ、やるべきことを考えた。
「この先はおまえさんの仕事だ」
太郎が少しかがんで瑞香と視線を合わせた。
ゆっくりと首を引いた瑞香はどこかすっきりとしていた。
「ありがとうございます。最後に一つだけいいでしょうか」
「言ってみな」
自分が助けようとしていた子がちゃんと成仏できたのか気になって仕方ないと正直に言った。
「ああ、その子はここにはもういないよ。瑞香さんがそのことでいつまでも苦しんでたらその子もきっと悲しむぜ」
太郎はそれだけ言うと、瑞香の肩に手を置いて、
「この男はこれから苦しむから、ようく見ておくといい。残念ながらあんたがこの男に直接手をかけるのは今ではないけれど、それでも、惜しみない苦しみが未来永劫終わることなくこれからやってくるから」
二回、瑞香の肩を叩くと、あとは時間の問題だ。あんたはそれまで『また』消えることになると思うけど、こいつの苦しみはいつでも見られる状態にあることを忘れるんじゃ無いよ。
瑞香は太郎が言った『また』という言葉を反芻した。そして、眉間に皺を寄せて力強く頷くと、はっきりと怒りを込めた目を司に向けた。
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