18 / 56
第一話:霊 瑞香
家族の本当の顔2
しおりを挟む
司は家族の後をおろおろと着いて歩いては「何してんだよ。おい、どういうことだよ。なんでこんなことしてるんだ、説明しろ!」と、怒鳴る。罵る。威嚇する。己のことば全てが聞こえていないことがもどかしいのか、髪の毛を掻き毟りながら子供や妻に摑みかかるがその手は届かない。もどかしくもすり抜ける。地団駄を踏む。
一線を越え、こちら側とあちら側の住人になったのだ。通じるものはなにもないことをこの時まざまざと思いしらされた。
「いいわね。全部持ったわね。自分たちの証拠となるものは全て、片付けたわね?」
妻が無造作に自分の夫の眠る柩の中に投げ捨てたのは、家族写真だった。その他、晩年になって司が作った家族旅行で撮ったたくさんのアルバム、大切に取っておいたお土産、こどもが書いた作文、司が一番大事にしていた家族の写真が、ゴミのように投げ捨てられた。自分の亡骸の上に。
「なんでだよ」
解せない。家族の行動の意味がわからない。
頭を抱えて自分の亡骸の横に膝をつく。顔に乗っかっているのは、息子にあげた時計だ。格好つけて自分の形見だと言い、生前に渡していた。
時計を顔からどかそうとしてもその手に時計の硬さを触ることはできない。
お腹の上には娘に買ったネックレスが引きちぎられて投げ捨てられている。
足元には、妻に送った結婚指輪が、そして結婚十周年の記念に買った指輪までもが投げられていた。
思い出のすべてが捨てられている。
司は自分が死んでから家族に捨てられたことをこのとき悟った。
要らない物に埋もれている己の顔は哀れだった。
物がなくなった家は声がよく響いて、そして空気が乾いていて冷たかった。
妻が赤いポリタンクを運んできた。
娘も息子も同じようにポリタンクを運んでくる。
「嘘だろ。何やってんだよ。これはどういうことだよ。なんで俺の中に物を投げ込むんだよ。なあ! それに、なんでそんなもん持ってくるんだよ」
司はよろよろと立ち上がり、妻の肩を掴むが無論それは不可能で、息子の肩を掴むも同じようにすり抜ける。悔しさにイラつき、娘の首に両手を回し締めようと力を込めた。
「それがダメなやつなんだなあ」
突然聞こえた声にびくりと跳ね、急いで娘の首から手を離す。
「遅い遅い。今更手を離してももう遅いのよ。もう見ちゃったし」
太郎に続き、昭子も顔の前で手を振り、司をこ馬鹿にして笑う。
「誰なんだよおまえらはさっきから」
そこで三人のことを思い出し、自分の怒りの矛先を三人に向けなおした。一歩前に歩み寄る。
三人は新しいおもちゃをもらった猫のように好奇心丸出しの顔をしている。
「状況がわからないのも無理はない」
太郎がバカにして笑う。
そんな太郎の態度が気に入らなかったのか、司は汚く罵ると太郎の肩を鷲掴みにした。
掴めたことに面食らっていると、
「な。俺は触れるだろ」
にぃっと口を耳まで裂き、慄き逃げようとする司の手を素早く掴んで逃さない。
「おいおいどこ行くんだよ。これからお前の身に起こることを教えてやるから、ここにいろよ。ほら、おまえの家族の方を見てみな」
くるりと体を回され、家族の方に向けられた。更に息を飲む。
家族が自分に恨めしい目を向けていたのだ。娘が柩を蹴っ飛ばした。それを咎めるものはいない。
自分の後ろには得体の知れない三人がいる。
俺に味方はいないのか。そうだ、瑞香がいる。
瑞香を探すが、さっきまで立っていたところ、瑞香の頭が埋められているところには何も、誰もいない。
「いいか、よく見てろ。これからお前は大事だと思っていた家族の手によって、燃やされるからな」
なんでかって? そりゃ家族がお前のことを大嫌いだからだよ。お前がしたことはこの家族はすべてお見通しだった。最初にこの畑に埋まっている腕を発見したのは誰だと思う? あそこにいるお前の妻だ。まだお前と結婚して間もない頃だ。でも、彼女は離れなかった。なぜだかわかるか? 見たかったんだよ。お前が本当に人を殺したのか、どうやって殺すのか。
瑞香さんのときと違うのはここだ。
彼女はお前の本性を暴いたところで自分も殺されるとわかっていた。
だから機会をうかがっていたんだ。しかしだ、お前のような子を産むのは嫌だ。お前の血は残したくない。だから、お前にわからないように他の男のこどもを産んだ。
その男がお前の妻を守っていたんだよ。陰ながらずっと。
「お前が息子や娘だと思っていた子は、その男のこどもだ」
何を言われているのか理解できない司は頭を抱え、妻へ目を向けた。ありえない、ありえないとぶつぶつ言っている。
灯油を自分の入っている柩に並々と注ぐ。こどもらも同じように自分が横たわっている部屋に撒き、司自身の部屋にはくまなく撒き散らす。
「やめろ。やめてくれ。燃やすな。火をつけるな」
太郎のことばが届いているのかいないのか、司は肩を上下に乱す。
「お前が大事に育てていたのは、赤の他人のこどもだ」
太郎が司の耳元に囁いた。
なるほど。そこまではわからなんだ。と手を打った昭子は、侍と頷きあい、ああでもないこうでもないと話に花を咲かせ始めた。
「お前の妻は、畑に埋まっているものを掘り返したんだよ。お前の目を盗んで」
一人じゃ怖い。でも二人なら?
その男とは以前からの知り合いだった。
ん? どんな知り合いかって? まあ待てよ。あとで教えるからそんなに焦るな。
お前の妻は畑を掘り返したいとそう言った。でも一人じゃ無理だ。二人なら、そして相手が男ならなにかと心強い。それでその男に頼んだんだ。
掘り返していくうちにその男は今までに起こったニュースを思い出し、こう思ったそうだ。
「ここに埋まってるのって、もしかして、もしかしたらだけど俺の……」
男は体が震えた。もちろん女の方も同じさ。信じたくなかったんだ。そんなことは思いたくなかった。
だから、掘る度に出てくる土色をして指のような太くて短いものではなく、頭を探したんだ。頭だけを探した。ちゃんと確認したかったからな。
何日もかけてお前が睡眠薬を盛られてすやすやと眠っている間に畑中を掘り返して頭がどこに埋まっているか探しまくった。
それで、ようやく最後に見つけたんだ。
「二人は泣き崩れた。顔はもう男か女かの区別もつかなくなっていた。でもな、お前が最初の頃に殺したこどもは服を着せたまま埋めただろう? その服をみつけたときにやはりそうだと確信したんだ。この辺りで昔、こどもが連れ去られた事件を覚えていたんだ。お前の妻はな、それを見て、自分の死んだ妹のこどもだって気づいて泣き崩れた。手伝った男ってのは、妹が子を産んでからすぐに別れた旦那だ。すごい偶然だな。これだから人間は面白いんだよ」
と楽しそうに笑った。
一線を越え、こちら側とあちら側の住人になったのだ。通じるものはなにもないことをこの時まざまざと思いしらされた。
「いいわね。全部持ったわね。自分たちの証拠となるものは全て、片付けたわね?」
妻が無造作に自分の夫の眠る柩の中に投げ捨てたのは、家族写真だった。その他、晩年になって司が作った家族旅行で撮ったたくさんのアルバム、大切に取っておいたお土産、こどもが書いた作文、司が一番大事にしていた家族の写真が、ゴミのように投げ捨てられた。自分の亡骸の上に。
「なんでだよ」
解せない。家族の行動の意味がわからない。
頭を抱えて自分の亡骸の横に膝をつく。顔に乗っかっているのは、息子にあげた時計だ。格好つけて自分の形見だと言い、生前に渡していた。
時計を顔からどかそうとしてもその手に時計の硬さを触ることはできない。
お腹の上には娘に買ったネックレスが引きちぎられて投げ捨てられている。
足元には、妻に送った結婚指輪が、そして結婚十周年の記念に買った指輪までもが投げられていた。
思い出のすべてが捨てられている。
司は自分が死んでから家族に捨てられたことをこのとき悟った。
要らない物に埋もれている己の顔は哀れだった。
物がなくなった家は声がよく響いて、そして空気が乾いていて冷たかった。
妻が赤いポリタンクを運んできた。
娘も息子も同じようにポリタンクを運んでくる。
「嘘だろ。何やってんだよ。これはどういうことだよ。なんで俺の中に物を投げ込むんだよ。なあ! それに、なんでそんなもん持ってくるんだよ」
司はよろよろと立ち上がり、妻の肩を掴むが無論それは不可能で、息子の肩を掴むも同じようにすり抜ける。悔しさにイラつき、娘の首に両手を回し締めようと力を込めた。
「それがダメなやつなんだなあ」
突然聞こえた声にびくりと跳ね、急いで娘の首から手を離す。
「遅い遅い。今更手を離してももう遅いのよ。もう見ちゃったし」
太郎に続き、昭子も顔の前で手を振り、司をこ馬鹿にして笑う。
「誰なんだよおまえらはさっきから」
そこで三人のことを思い出し、自分の怒りの矛先を三人に向けなおした。一歩前に歩み寄る。
三人は新しいおもちゃをもらった猫のように好奇心丸出しの顔をしている。
「状況がわからないのも無理はない」
太郎がバカにして笑う。
そんな太郎の態度が気に入らなかったのか、司は汚く罵ると太郎の肩を鷲掴みにした。
掴めたことに面食らっていると、
「な。俺は触れるだろ」
にぃっと口を耳まで裂き、慄き逃げようとする司の手を素早く掴んで逃さない。
「おいおいどこ行くんだよ。これからお前の身に起こることを教えてやるから、ここにいろよ。ほら、おまえの家族の方を見てみな」
くるりと体を回され、家族の方に向けられた。更に息を飲む。
家族が自分に恨めしい目を向けていたのだ。娘が柩を蹴っ飛ばした。それを咎めるものはいない。
自分の後ろには得体の知れない三人がいる。
俺に味方はいないのか。そうだ、瑞香がいる。
瑞香を探すが、さっきまで立っていたところ、瑞香の頭が埋められているところには何も、誰もいない。
「いいか、よく見てろ。これからお前は大事だと思っていた家族の手によって、燃やされるからな」
なんでかって? そりゃ家族がお前のことを大嫌いだからだよ。お前がしたことはこの家族はすべてお見通しだった。最初にこの畑に埋まっている腕を発見したのは誰だと思う? あそこにいるお前の妻だ。まだお前と結婚して間もない頃だ。でも、彼女は離れなかった。なぜだかわかるか? 見たかったんだよ。お前が本当に人を殺したのか、どうやって殺すのか。
瑞香さんのときと違うのはここだ。
彼女はお前の本性を暴いたところで自分も殺されるとわかっていた。
だから機会をうかがっていたんだ。しかしだ、お前のような子を産むのは嫌だ。お前の血は残したくない。だから、お前にわからないように他の男のこどもを産んだ。
その男がお前の妻を守っていたんだよ。陰ながらずっと。
「お前が息子や娘だと思っていた子は、その男のこどもだ」
何を言われているのか理解できない司は頭を抱え、妻へ目を向けた。ありえない、ありえないとぶつぶつ言っている。
灯油を自分の入っている柩に並々と注ぐ。こどもらも同じように自分が横たわっている部屋に撒き、司自身の部屋にはくまなく撒き散らす。
「やめろ。やめてくれ。燃やすな。火をつけるな」
太郎のことばが届いているのかいないのか、司は肩を上下に乱す。
「お前が大事に育てていたのは、赤の他人のこどもだ」
太郎が司の耳元に囁いた。
なるほど。そこまではわからなんだ。と手を打った昭子は、侍と頷きあい、ああでもないこうでもないと話に花を咲かせ始めた。
「お前の妻は、畑に埋まっているものを掘り返したんだよ。お前の目を盗んで」
一人じゃ怖い。でも二人なら?
その男とは以前からの知り合いだった。
ん? どんな知り合いかって? まあ待てよ。あとで教えるからそんなに焦るな。
お前の妻は畑を掘り返したいとそう言った。でも一人じゃ無理だ。二人なら、そして相手が男ならなにかと心強い。それでその男に頼んだんだ。
掘り返していくうちにその男は今までに起こったニュースを思い出し、こう思ったそうだ。
「ここに埋まってるのって、もしかして、もしかしたらだけど俺の……」
男は体が震えた。もちろん女の方も同じさ。信じたくなかったんだ。そんなことは思いたくなかった。
だから、掘る度に出てくる土色をして指のような太くて短いものではなく、頭を探したんだ。頭だけを探した。ちゃんと確認したかったからな。
何日もかけてお前が睡眠薬を盛られてすやすやと眠っている間に畑中を掘り返して頭がどこに埋まっているか探しまくった。
それで、ようやく最後に見つけたんだ。
「二人は泣き崩れた。顔はもう男か女かの区別もつかなくなっていた。でもな、お前が最初の頃に殺したこどもは服を着せたまま埋めただろう? その服をみつけたときにやはりそうだと確信したんだ。この辺りで昔、こどもが連れ去られた事件を覚えていたんだ。お前の妻はな、それを見て、自分の死んだ妹のこどもだって気づいて泣き崩れた。手伝った男ってのは、妹が子を産んでからすぐに別れた旦那だ。すごい偶然だな。これだから人間は面白いんだよ」
と楽しそうに笑った。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―
くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。
「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」
「それは……しょうがありません」
だって私は――
「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」
相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。
「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」
この身で願ってもかまわないの?
呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる
2025.12.6
盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる