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第二話:霊 猫夜と犬飼
七代、祟ります
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六
「へえ。そんな最期を迎えたのかいあんた。まあ、殺した相手が悪かったよ」
登は体をビクつかせた。
鈴の音のように綺麗な女の声が聞こえたのだ。
「動物を虐めたり殺したりしたら、あんただけじゃない。あんたの身内全てに不幸が降りかかるのを知らないのかい?」
声は後ろから聞こえてくる。
「お前だけじゃなくて、お前から後七代、祟られるんだよ」
登は自分の後ろから聞こえてきた声に驚き恐る恐る振り返ると、紅色の昔風の着物を着たお洒落な髪型の年増女が自分の髪の毛をするりと撫でながら立っていた。これはもちろん昭子のことだ。
「まあ、だいぶけったいな死に方をしたもんだねえ」
女は哀れなものを見るような目をしている。
更にその後ろから現れたのは、首に一周何かで切られた赤い傷がぱっくりとついていて、頭には髷をこしらえて変な着物を着ている男が眉間に皺を一本深く刻み、口をへの字にひん曲げてこっちを睨んでいた。その手にはメロンソーダが握られている。
首に切られた傷、メロンソーダといえば侍しかいないだろう。
しかし登にはこの二人にはまったく身に覚えがなかった。
二人を交互に見て記憶を呼び起こすが、やはり今までに関わったことはないという結論に至った。
「まあ、自分のやったことってえのは必ず我が身に返ってくるっていう証明ってこったな。これは面白いことに、いままでのやつらみんな同じだ。己がやったことは、いいいことも悪いことも必ず倍になって己に、もしくは何も関係ない子孫にそっくり返ってくるんだよ。自分の子供が不幸になって苦しむ様を心の臓がえぐられる思いで見させられながら死んでいくんだ。言わずもがな子供には恨まれる。これだから人間の世界はおもしれえ」
末恐ろしいことをさらりと言ってのけたデニムの着物に金髪の背の高い男は首をぽきぽきと鳴らしている。いまにも飛びかかってきそうで恐怖を感じた。
太郎が登を見下ろして口の周りを一周舐めた。
登は己の体に鳥肌が立ち、恐怖を感じているのを隠そうと、身体中に力を入れて硬くした。
「おやおや、こいつったらビビってるよ。今にも漏らしそうな顔してるよ。みてごらん、太郎のことを見て震えてるじゃないか。それを強がったってあたしらにはお見通しさ。バカだねえ」
昭子はそんな登を指さし、鼻で笑って挑発するように豪快に笑っている。
太郎も侍も登の様子を見て、けなすような、馬鹿にするような、痛いものを見るような目を向け、あからさまに嫌な空気を作った。
「お、おまえらは誰なんだよ。関係ねえ奴は引っ込んでろよ」
強がってみるがその声は震えまくっていた。声に力が入っていない。
その態度にまたしても昭子が豪快に笑う。侍もつられて笑い始め、太郎はにんまりと唇を引いたが、目はまったく笑っていなかった。
「檻の中はどんな気分だったのかしら? 楽しかったかい? どんなんだったか教えとくれよ」
「昭子さん、それはそれは楽しかったに違いないでしょう。だって檻の中に入れられる経験なんてそんなにあるわけじゃありませんよ。言ってみりゃあ貴重ですよ」
「死に行く恐怖を感じながら過ごす毎日か。考えるだけで震えるわな」
太郎と侍が目を背けたくなるような笑みを登に向ける。
「楽しいからこそ、どうぞとばかりにあの檻の中に犬、猫、鳥、小動物を閉じ込めて死に追いやったんだから、最期は自分も入らないとねえ」
昭子が突っ立ったままの登の周りを距離を保ちながら回り、頭のてっぺんからつま先まで眺め回す。
昭子が歩くだけでその場が凍るように冷たくなる。
登は昭子を目で追いながら、何かされるのではないかと体も精神も強がりながらもビクつかせていた。
太郎も、「動物殺しってえのはな、お前から先の一族、血の繋がりがあるもの余すことなくすべて、七代まで祟るんだよ。お前は死んでからも一族全員に祟られる運命だ。良かったな」と真顔で言い、侍ははるか昔に自分の身に起こったことを思い出したのか、体をぶるると震わせた。
三人は登がただの腰抜けの弱虫で、自分よりも弱い立場のものにしか強気に出られない奴だと分かると、更にその嫌悪感を露わにした。
登は檻の中に横たわる己を今一度見下ろし、こんなことになるなんて、と独り言ちた。
三人に向かい直すと、そこには三人以外のものが自分の方をじいっと睨んでいるのが目に入った。
「猫夜? それに犬飼じゃないのか? ああそうだ。おまえたちだ。久しぶりだなあ。おまえたち、俺を迎えにきてくれたのかい? ああ、そうだ、そ前に俺を助けてくれ。見ろ、ここにいるこの三人は本当に怖い。俺をどうにかしようとしてるんだ。どうかしてるだろ」
見知った猫夜と犬飼にほっとし、己がしたことは忘れてしまったのか、笑顔すら浮かべて二匹に寄っていく。当然、猫夜も犬飼も登を冷たく睨んだまま寄ろうとはしない。
太郎がすいと登の前に出る。
「何勘違いしてんだよ。誰もおまえなんか助けるわけねえだろうが。目ん玉ひんむいてよく見ろ。見えねえなら早速食ってやるぜ」
登の体がびくりと跳ね、ひゅっと息を飲んだ。
「いいかい、おまえは生前いろんなもんを殺しすぎた。それも快楽のためにやっただろう。犬、猫、鳥、亀、うさぎ、ハムスター、数えきれないな。そんなことをしたのにお前だけ綺麗に助かるとでも思ってんのか? そんなわけないだろうが。いいか、おまえはこれから殺されるんだよ。まずこの二匹に。次におまえが殺してきた動物たち全てに、おまえがその動物らにしたことをそっくりそのままやられるんだよ。それから未来永劫、闇の中でただひたすら一人で死ぬのを繰り返す。この地球がなくなってみんないなくなってもおまえは一人で闇の中に置き去りにされる。誰もいない。あるのは、殺され続ける記憶、闇の中で感じる孤独と恐怖と死の痛さの繰り返しだ。殺される時にだけ、おまえが殺した動物たちとおまえのせいで不幸になって死んでいった一族が出てくる。おっと、また勘違いしないように先に言っとくぜ。みんなおまえを殺ろしに来るんだからな。せいぜい楽しんできな」
にいっと唇を左右に引き、目を大きく開いた太郎の黒目は昼間の猫のように細く伸びていた。
「へえ。そんな最期を迎えたのかいあんた。まあ、殺した相手が悪かったよ」
登は体をビクつかせた。
鈴の音のように綺麗な女の声が聞こえたのだ。
「動物を虐めたり殺したりしたら、あんただけじゃない。あんたの身内全てに不幸が降りかかるのを知らないのかい?」
声は後ろから聞こえてくる。
「お前だけじゃなくて、お前から後七代、祟られるんだよ」
登は自分の後ろから聞こえてきた声に驚き恐る恐る振り返ると、紅色の昔風の着物を着たお洒落な髪型の年増女が自分の髪の毛をするりと撫でながら立っていた。これはもちろん昭子のことだ。
「まあ、だいぶけったいな死に方をしたもんだねえ」
女は哀れなものを見るような目をしている。
更にその後ろから現れたのは、首に一周何かで切られた赤い傷がぱっくりとついていて、頭には髷をこしらえて変な着物を着ている男が眉間に皺を一本深く刻み、口をへの字にひん曲げてこっちを睨んでいた。その手にはメロンソーダが握られている。
首に切られた傷、メロンソーダといえば侍しかいないだろう。
しかし登にはこの二人にはまったく身に覚えがなかった。
二人を交互に見て記憶を呼び起こすが、やはり今までに関わったことはないという結論に至った。
「まあ、自分のやったことってえのは必ず我が身に返ってくるっていう証明ってこったな。これは面白いことに、いままでのやつらみんな同じだ。己がやったことは、いいいことも悪いことも必ず倍になって己に、もしくは何も関係ない子孫にそっくり返ってくるんだよ。自分の子供が不幸になって苦しむ様を心の臓がえぐられる思いで見させられながら死んでいくんだ。言わずもがな子供には恨まれる。これだから人間の世界はおもしれえ」
末恐ろしいことをさらりと言ってのけたデニムの着物に金髪の背の高い男は首をぽきぽきと鳴らしている。いまにも飛びかかってきそうで恐怖を感じた。
太郎が登を見下ろして口の周りを一周舐めた。
登は己の体に鳥肌が立ち、恐怖を感じているのを隠そうと、身体中に力を入れて硬くした。
「おやおや、こいつったらビビってるよ。今にも漏らしそうな顔してるよ。みてごらん、太郎のことを見て震えてるじゃないか。それを強がったってあたしらにはお見通しさ。バカだねえ」
昭子はそんな登を指さし、鼻で笑って挑発するように豪快に笑っている。
太郎も侍も登の様子を見て、けなすような、馬鹿にするような、痛いものを見るような目を向け、あからさまに嫌な空気を作った。
「お、おまえらは誰なんだよ。関係ねえ奴は引っ込んでろよ」
強がってみるがその声は震えまくっていた。声に力が入っていない。
その態度にまたしても昭子が豪快に笑う。侍もつられて笑い始め、太郎はにんまりと唇を引いたが、目はまったく笑っていなかった。
「檻の中はどんな気分だったのかしら? 楽しかったかい? どんなんだったか教えとくれよ」
「昭子さん、それはそれは楽しかったに違いないでしょう。だって檻の中に入れられる経験なんてそんなにあるわけじゃありませんよ。言ってみりゃあ貴重ですよ」
「死に行く恐怖を感じながら過ごす毎日か。考えるだけで震えるわな」
太郎と侍が目を背けたくなるような笑みを登に向ける。
「楽しいからこそ、どうぞとばかりにあの檻の中に犬、猫、鳥、小動物を閉じ込めて死に追いやったんだから、最期は自分も入らないとねえ」
昭子が突っ立ったままの登の周りを距離を保ちながら回り、頭のてっぺんからつま先まで眺め回す。
昭子が歩くだけでその場が凍るように冷たくなる。
登は昭子を目で追いながら、何かされるのではないかと体も精神も強がりながらもビクつかせていた。
太郎も、「動物殺しってえのはな、お前から先の一族、血の繋がりがあるもの余すことなくすべて、七代まで祟るんだよ。お前は死んでからも一族全員に祟られる運命だ。良かったな」と真顔で言い、侍ははるか昔に自分の身に起こったことを思い出したのか、体をぶるると震わせた。
三人は登がただの腰抜けの弱虫で、自分よりも弱い立場のものにしか強気に出られない奴だと分かると、更にその嫌悪感を露わにした。
登は檻の中に横たわる己を今一度見下ろし、こんなことになるなんて、と独り言ちた。
三人に向かい直すと、そこには三人以外のものが自分の方をじいっと睨んでいるのが目に入った。
「猫夜? それに犬飼じゃないのか? ああそうだ。おまえたちだ。久しぶりだなあ。おまえたち、俺を迎えにきてくれたのかい? ああ、そうだ、そ前に俺を助けてくれ。見ろ、ここにいるこの三人は本当に怖い。俺をどうにかしようとしてるんだ。どうかしてるだろ」
見知った猫夜と犬飼にほっとし、己がしたことは忘れてしまったのか、笑顔すら浮かべて二匹に寄っていく。当然、猫夜も犬飼も登を冷たく睨んだまま寄ろうとはしない。
太郎がすいと登の前に出る。
「何勘違いしてんだよ。誰もおまえなんか助けるわけねえだろうが。目ん玉ひんむいてよく見ろ。見えねえなら早速食ってやるぜ」
登の体がびくりと跳ね、ひゅっと息を飲んだ。
「いいかい、おまえは生前いろんなもんを殺しすぎた。それも快楽のためにやっただろう。犬、猫、鳥、亀、うさぎ、ハムスター、数えきれないな。そんなことをしたのにお前だけ綺麗に助かるとでも思ってんのか? そんなわけないだろうが。いいか、おまえはこれから殺されるんだよ。まずこの二匹に。次におまえが殺してきた動物たち全てに、おまえがその動物らにしたことをそっくりそのままやられるんだよ。それから未来永劫、闇の中でただひたすら一人で死ぬのを繰り返す。この地球がなくなってみんないなくなってもおまえは一人で闇の中に置き去りにされる。誰もいない。あるのは、殺され続ける記憶、闇の中で感じる孤独と恐怖と死の痛さの繰り返しだ。殺される時にだけ、おまえが殺した動物たちとおまえのせいで不幸になって死んでいった一族が出てくる。おっと、また勘違いしないように先に言っとくぜ。みんなおまえを殺ろしに来るんだからな。せいぜい楽しんできな」
にいっと唇を左右に引き、目を大きく開いた太郎の黒目は昼間の猫のように細く伸びていた。
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