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第二話:霊 猫夜と犬飼
侍の死に様を昭子にバラされた理由とは
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登は太郎が言った言葉に恐怖で腰を抜かした。
見える景色はいつのまにか己れが閉じ込められた部屋の中になっていた。
支離滅裂な言葉を叫びながら力の入らない足で床を何度も繰り返し蹴り、なんとか逃げようとする。目には涙すら浮かべていた。
「このときをどんなに待ったか。長かった。本当に長かった。でもやっときた。我らの感じた恐怖と苦しみをおまえにも余すことなく味わってもらう」
猫夜が飛びかかる態勢を整えた。
「おまえなんかに拾われなければ、我らはもっと生きられたのだ。野良猫として生きたほうが幸せだった」
犬飼も猫夜を守るようにその巨体で猫夜を懐にかばう。
登はあっけにとられた。
目の前で動物がしゃべったのである。
そんなことが起こるのは漫画の中だけの話だと思っていた。それが目の前で起こっている。
「おまえたち、しゃべれるのか」
今までのことはすっぽり抜け落ちたのか、目の前の状況にその顔にはうっすら笑みすら浮かべている。この二匹は自分が手にかけたのだ。自分が殺したものを怖がるような男ではない。
昭子と太郎と侍には恐怖を感じるがそれは『人』だと思っているからだ。人以外であったらこの期におよんでもまだ自分は勝てると思っている。
それを感じ取った三人は、
「こいつはあたしらを人間だと思ってるよ。まったくバカにつける薬がないとはこのことだねえ」
「頭が足りないとは思っていたがここまでの足りなさだとは知らなんだ」
「どれ、では俺らは本来の姿に戻るとしましょうか。人に間違われるなんて、ああ、こいつ、殺してやりたい」
昭子、侍、太郎が順に言いながらその体を黒く変色させながら影の内に入り込む。
「きききき消えた。そんな……」
慌てふためく登はやっと今、あの三人が人でないことを理解した。
猫夜と犬飼の後ろには既に影のうちに消えている三人がいる。
このやりとりの結末をワクワクしながら待っているのだ。
「この男は死んでからもどうしようもない。やはりあたしが殺してやりたいねえ」
「ダメですよ昭子さん。それはもうしない約束をしましたでしょ」
と、太郎と昭子が、自分たちの声が影から聞こえるのなぞお構いなしにぺちゃくちゃやっている。侍はそんな二人は無視し、二匹と登の姿を見続け腕組みをしながら影の内で足を肩幅に広げて立っている。
「おまえが我らにしたことをそのまま返してやる。おまえだけじゃなく、おまえの家族、親戚諸々、おまえの血が繋がっているもの、それに関わるものら七代に渡り呪ってやる。まずはおまえからだ」
猫夜が飛びかかった。
登は飛びかかってきた猫夜を咄嗟に足蹴にした。猫夜は地に叩きつけられるがすぐに起きる。登が猫夜のほうに気を取られているうちに犬飼が登の腹に体当たりした。
登は己の胸に突進してきた犬の衝撃に耐えきれず、背中ごと床に叩きつけられた。
あろうことか痛みを感じるのだ。死んでいるのに痛みを感じる。
もしかしたらまだ死んでいないのではないか。そんな希望が見えてきて、横たわる自分の体に視線を向けるが、まったくピクリともしない。
猫夜がその隙に己の鋭く尖った爪を登の首にぶっさした。そのまま横に引く。
その瞬間、真っ赤な血が飛沫をあげた。
登は悲鳴をあげた。首に鮮烈な痛みが走るのだ。手で拭うと真っ赤な血が己の手の甲についた。
「クソ。なんで痛いんだよ。死んでからも痛みはあるのかよ」
首をおさえ、血を止めようとシャツを首まで伸ばしてみたり袖で拭いてみたりする。
「いいねえ、猫夜。約束通りの行動だ。もっと派手に切り裂いててやってくれ」
もみ手の侍は細い肩を小刻みに上下に揺らしながら猫夜を褒める。
「ちょっと侍、なんだいその約束通りの行動ってやつは」
侍の一言に即座に反応した昭子と太郎は影の内で侍と向き合った。
自分ばかり楽しげな約束をしていた侍に、昭子が少しばかりむっとした顔をする。
太郎も同じく侍の目を真正面から睨みつけた。
「おいおい太郎、そんな間近で睨むなよ。お前が睨むと本気で怖いじゃねえか。昭子さんもそんな怒んなって。二人に睨まれたら俺死んじゃうよ?」
ムッとしている二人を宥めようと侍はまあまあまあまあ、今から話すから。と手の平を上下した。
「俺がこいつらに会ったときに事の次第を聞いてね、復讐のときになったら是非にもその男の首に真一文字に赤い線をこしらえておくれと約束したんだよ」
侍は己の首についてる真一文字に入った傷をその男にもつけろと言ったのだ。
客観的にどうなるのか見てみたかったと言った。己の最後を己で見れないぶん、どうなるのかを見たかっただけだ。ただそれだけだよ。と言って開き直った。
「ああ、そうかい。あんたは元は人間だもんねえ。今じゃあたしらと同じ妖怪になったが、そうか、昔を遡れば甘ったれの世間しらずの大店の長男坊だったっけねえ。遊び放題遊びまわって金を手当り次第使って、終いには裏博打に手を出して借金をこしらえたあげく、とっつかまり、闇の内に首を切り捨てられたんだもんねえ。首は土の中、体は刀の試し切りに使われたから死体はもう見つかるはずもない。己の最後を見たくなるのもわかるわ。ええ、そうだったねえ」
昭子が一気にまくしたてた。太郎はざまあみろと言わんばかりにくくくと笑っている。
侍は眉と口を八の字にして泣きそうな顔になる。
見える景色はいつのまにか己れが閉じ込められた部屋の中になっていた。
支離滅裂な言葉を叫びながら力の入らない足で床を何度も繰り返し蹴り、なんとか逃げようとする。目には涙すら浮かべていた。
「このときをどんなに待ったか。長かった。本当に長かった。でもやっときた。我らの感じた恐怖と苦しみをおまえにも余すことなく味わってもらう」
猫夜が飛びかかる態勢を整えた。
「おまえなんかに拾われなければ、我らはもっと生きられたのだ。野良猫として生きたほうが幸せだった」
犬飼も猫夜を守るようにその巨体で猫夜を懐にかばう。
登はあっけにとられた。
目の前で動物がしゃべったのである。
そんなことが起こるのは漫画の中だけの話だと思っていた。それが目の前で起こっている。
「おまえたち、しゃべれるのか」
今までのことはすっぽり抜け落ちたのか、目の前の状況にその顔にはうっすら笑みすら浮かべている。この二匹は自分が手にかけたのだ。自分が殺したものを怖がるような男ではない。
昭子と太郎と侍には恐怖を感じるがそれは『人』だと思っているからだ。人以外であったらこの期におよんでもまだ自分は勝てると思っている。
それを感じ取った三人は、
「こいつはあたしらを人間だと思ってるよ。まったくバカにつける薬がないとはこのことだねえ」
「頭が足りないとは思っていたがここまでの足りなさだとは知らなんだ」
「どれ、では俺らは本来の姿に戻るとしましょうか。人に間違われるなんて、ああ、こいつ、殺してやりたい」
昭子、侍、太郎が順に言いながらその体を黒く変色させながら影の内に入り込む。
「きききき消えた。そんな……」
慌てふためく登はやっと今、あの三人が人でないことを理解した。
猫夜と犬飼の後ろには既に影のうちに消えている三人がいる。
このやりとりの結末をワクワクしながら待っているのだ。
「この男は死んでからもどうしようもない。やはりあたしが殺してやりたいねえ」
「ダメですよ昭子さん。それはもうしない約束をしましたでしょ」
と、太郎と昭子が、自分たちの声が影から聞こえるのなぞお構いなしにぺちゃくちゃやっている。侍はそんな二人は無視し、二匹と登の姿を見続け腕組みをしながら影の内で足を肩幅に広げて立っている。
「おまえが我らにしたことをそのまま返してやる。おまえだけじゃなく、おまえの家族、親戚諸々、おまえの血が繋がっているもの、それに関わるものら七代に渡り呪ってやる。まずはおまえからだ」
猫夜が飛びかかった。
登は飛びかかってきた猫夜を咄嗟に足蹴にした。猫夜は地に叩きつけられるがすぐに起きる。登が猫夜のほうに気を取られているうちに犬飼が登の腹に体当たりした。
登は己の胸に突進してきた犬の衝撃に耐えきれず、背中ごと床に叩きつけられた。
あろうことか痛みを感じるのだ。死んでいるのに痛みを感じる。
もしかしたらまだ死んでいないのではないか。そんな希望が見えてきて、横たわる自分の体に視線を向けるが、まったくピクリともしない。
猫夜がその隙に己の鋭く尖った爪を登の首にぶっさした。そのまま横に引く。
その瞬間、真っ赤な血が飛沫をあげた。
登は悲鳴をあげた。首に鮮烈な痛みが走るのだ。手で拭うと真っ赤な血が己の手の甲についた。
「クソ。なんで痛いんだよ。死んでからも痛みはあるのかよ」
首をおさえ、血を止めようとシャツを首まで伸ばしてみたり袖で拭いてみたりする。
「いいねえ、猫夜。約束通りの行動だ。もっと派手に切り裂いててやってくれ」
もみ手の侍は細い肩を小刻みに上下に揺らしながら猫夜を褒める。
「ちょっと侍、なんだいその約束通りの行動ってやつは」
侍の一言に即座に反応した昭子と太郎は影の内で侍と向き合った。
自分ばかり楽しげな約束をしていた侍に、昭子が少しばかりむっとした顔をする。
太郎も同じく侍の目を真正面から睨みつけた。
「おいおい太郎、そんな間近で睨むなよ。お前が睨むと本気で怖いじゃねえか。昭子さんもそんな怒んなって。二人に睨まれたら俺死んじゃうよ?」
ムッとしている二人を宥めようと侍はまあまあまあまあ、今から話すから。と手の平を上下した。
「俺がこいつらに会ったときに事の次第を聞いてね、復讐のときになったら是非にもその男の首に真一文字に赤い線をこしらえておくれと約束したんだよ」
侍は己の首についてる真一文字に入った傷をその男にもつけろと言ったのだ。
客観的にどうなるのか見てみたかったと言った。己の最後を己で見れないぶん、どうなるのかを見たかっただけだ。ただそれだけだよ。と言って開き直った。
「ああ、そうかい。あんたは元は人間だもんねえ。今じゃあたしらと同じ妖怪になったが、そうか、昔を遡れば甘ったれの世間しらずの大店の長男坊だったっけねえ。遊び放題遊びまわって金を手当り次第使って、終いには裏博打に手を出して借金をこしらえたあげく、とっつかまり、闇の内に首を切り捨てられたんだもんねえ。首は土の中、体は刀の試し切りに使われたから死体はもう見つかるはずもない。己の最後を見たくなるのもわかるわ。ええ、そうだったねえ」
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