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第二話:霊 猫夜と犬飼
死神降臨
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「悪かったって。勝手な約束したのは謝るから、そんな昔のこと言うなよ。悲しいじゃねえか」
この通りだと顔の前で拝んでみる。
「親兄弟からも探してもらえず勘当だったってんだから笑えるさ。殺され方を考えりゃあ死体も上がらないはずだよ」
「もしかしたら見つけられてたかもしれないぜ。それを知らなかったふりをされたのかもしれないねえ」
昭子と太郎が侍を追い込むような言い方をする。
「そんなに言うなよ。本当に悲しくなるじゃねえか」
侍が目元を拭った。
「これくらいにしてやるよ。今回だけは許してやる。次はあたしらもちゃんとその中に入れるんだよ」
涙目になりながら頷く侍を見て昭子がにっこりと笑った。
「よかったじゃねえか。さっさと謝ったからどうやって切られたか事細かに昭子さんに言われなくてすんで。まあ、侍さんは刀でこいつは猫の爪でだけどな」
と、猫がひっかく真似をした太郎は、自分たちが話しいている間にも登を痛めつけている二匹を見て、
「お。そろそろじゃねえか」
濃紺の空に指を向け、「ほら、来た」と、薄く紫色に光った空から黒いどろどろした何かがひらりひらりと舞い降りてくるのが見える。
「あら、本当だ。今日は死神のやつやけに早いじゃないか。そろそろ死ぬねあの男も」
黒いものとは、死神のことだ。昭子が降りてくる死神を確認してから登がどうなっているのかと見れば、血だらけになって息も絶え絶え這いつくばって逃げようとしているところだった。
「やれ早いな。瑞香さんのときは、あの男をいたぶるように、土を一心不乱に掘っているその上から纏わり付いたけど、今回はどうなんのかねえ」
侍は降ってくる死神を目で追いながら、楽しいお遊びが終わりを迎えようとしているのをつまらなく感じていた。
瑞香のときにも空から降ってきた黒いものは、今、登の頭上に降り立った死神と同じだ。
それは姿形はなく、柔らかい布のように風に揺れている。
しかし、司も登もそれを見て悲鳴をあげ、口からは泡、穴という穴から血を吐き、息をする度に内臓が口から出たり入ったりするのを己の目で見ると、発狂した。
這いつくばる指先からは指の骨が指先の皮を破いてずるりと出てきて、その手はくしゃりと音を立てて動きを止めた。肘が地につく。その勢いにおされて指先の皮をぶちぬいて腕の骨が飛び出した。顎が地につく。土がもぞりと動いた。何かが弾けるような軽い音を立てて土の中から白くて細いものが波を打ちながら立ち上る。迷わず鼻の穴から体内へ入り込む。そして内臓に食らいつき、外へ引き出してくる。登は悲鳴をあげ胃の中の内容物と内臓を辺りに吐き散らかす。
いつのまにか目の前には自分がかつて手にかけた小動物らが自分のことを取り囲んでいて、今吐き出した内容物を噛みちぎって食らいついていた。
罵声をあげても止まらない。その中にはもちろん猫夜と犬飼の姿もある。この二匹が先頭だって食らいついていた。
死神はこの動物らが登を殺すのを待ち、完全に生き絶えると動物らを離した。死神が横に長く伸びた。小動物の姿が薄くなっていく。
猫夜と犬飼を残し、ほかの動物が全て消えると死神は血まみれの体の上に被さると登を自分のうちに飲み込んだ。
死神が登の体から離れると登はむくりと起き上がる。
自分がどこにいるかわかっていないようだ。
目の前にいる猫夜と犬飼をその目の中に捉えると、肩をお大きく跳ね、尻を擦りながら後ずさる。その目には恐怖が映っている。
独り言を言い続け後退り続けるとふと氷のような冷たさが手に伝わる。
振り返ればそこにはまっ黒い闇が大きく口を開けて自分を飲み込もうとしていた。その中から聞き覚えのある動物の最期の声が聞こえてきた。
自分が手にかけたものが待ち構えている声だと理解するとさきほどの記憶が蘇った。
「俺は死んだんじゃねえのか。今殺されたじゃねえか。痛い。辛い。あんな痛い思いはもう嫌だ。あんな恐怖はもう嫌だ。なあ、猫夜、犬飼、助けてくれ。俺を助けてくれよ」
この後に及んでもまだ助けろという登に猫夜は、
「お前はこれから闇の中で、お前が今までに殺した動物たちにまた殺される。そこには我らも含まれている。お前は未来永劫殺され続けて苦しむんだよ」
「これ猫夜、それは俺の台詞じゃねえか」
太郎が自分の台詞を取られたとばかりに軽く猫夜の頭をはたく。
「なんなんだよお前らは」
登は何が何だかわからないまま、自分の後ろにぽっかり空いている穴から逃れようと今度は猫夜の方に這いつくばろうとしたところで、死神に捕まった。ひぃという悲鳴をあげる前に、登の体は凍り始めた。首から上だけは凍らず頭も正常に動いている。恐怖を感じるということだ。
闇の内から真っ赤な目をした犬が一匹ゆっくりとぬめりと現れ、真っ赤な口を大きく開き、登の腕をやんわりと噛む。そのまま弄ぶようにゆっくりと、恐怖を煽るように闇の内に引きずり込む。
登は泣き叫んでこの世に留まろうとするが体はすでに凍っていて動かない。気持ちだけがこの世に留まり、体は無情にも闇の中に飲み込まれていく。
嬉しそうに鳴き叫ぶ動物の声が闇から漏れる。すっぽりと登の体が闇に飲まれると闇は登の悲鳴を結び取るように萎んでいった。
この通りだと顔の前で拝んでみる。
「親兄弟からも探してもらえず勘当だったってんだから笑えるさ。殺され方を考えりゃあ死体も上がらないはずだよ」
「もしかしたら見つけられてたかもしれないぜ。それを知らなかったふりをされたのかもしれないねえ」
昭子と太郎が侍を追い込むような言い方をする。
「そんなに言うなよ。本当に悲しくなるじゃねえか」
侍が目元を拭った。
「これくらいにしてやるよ。今回だけは許してやる。次はあたしらもちゃんとその中に入れるんだよ」
涙目になりながら頷く侍を見て昭子がにっこりと笑った。
「よかったじゃねえか。さっさと謝ったからどうやって切られたか事細かに昭子さんに言われなくてすんで。まあ、侍さんは刀でこいつは猫の爪でだけどな」
と、猫がひっかく真似をした太郎は、自分たちが話しいている間にも登を痛めつけている二匹を見て、
「お。そろそろじゃねえか」
濃紺の空に指を向け、「ほら、来た」と、薄く紫色に光った空から黒いどろどろした何かがひらりひらりと舞い降りてくるのが見える。
「あら、本当だ。今日は死神のやつやけに早いじゃないか。そろそろ死ぬねあの男も」
黒いものとは、死神のことだ。昭子が降りてくる死神を確認してから登がどうなっているのかと見れば、血だらけになって息も絶え絶え這いつくばって逃げようとしているところだった。
「やれ早いな。瑞香さんのときは、あの男をいたぶるように、土を一心不乱に掘っているその上から纏わり付いたけど、今回はどうなんのかねえ」
侍は降ってくる死神を目で追いながら、楽しいお遊びが終わりを迎えようとしているのをつまらなく感じていた。
瑞香のときにも空から降ってきた黒いものは、今、登の頭上に降り立った死神と同じだ。
それは姿形はなく、柔らかい布のように風に揺れている。
しかし、司も登もそれを見て悲鳴をあげ、口からは泡、穴という穴から血を吐き、息をする度に内臓が口から出たり入ったりするのを己の目で見ると、発狂した。
這いつくばる指先からは指の骨が指先の皮を破いてずるりと出てきて、その手はくしゃりと音を立てて動きを止めた。肘が地につく。その勢いにおされて指先の皮をぶちぬいて腕の骨が飛び出した。顎が地につく。土がもぞりと動いた。何かが弾けるような軽い音を立てて土の中から白くて細いものが波を打ちながら立ち上る。迷わず鼻の穴から体内へ入り込む。そして内臓に食らいつき、外へ引き出してくる。登は悲鳴をあげ胃の中の内容物と内臓を辺りに吐き散らかす。
いつのまにか目の前には自分がかつて手にかけた小動物らが自分のことを取り囲んでいて、今吐き出した内容物を噛みちぎって食らいついていた。
罵声をあげても止まらない。その中にはもちろん猫夜と犬飼の姿もある。この二匹が先頭だって食らいついていた。
死神はこの動物らが登を殺すのを待ち、完全に生き絶えると動物らを離した。死神が横に長く伸びた。小動物の姿が薄くなっていく。
猫夜と犬飼を残し、ほかの動物が全て消えると死神は血まみれの体の上に被さると登を自分のうちに飲み込んだ。
死神が登の体から離れると登はむくりと起き上がる。
自分がどこにいるかわかっていないようだ。
目の前にいる猫夜と犬飼をその目の中に捉えると、肩をお大きく跳ね、尻を擦りながら後ずさる。その目には恐怖が映っている。
独り言を言い続け後退り続けるとふと氷のような冷たさが手に伝わる。
振り返ればそこにはまっ黒い闇が大きく口を開けて自分を飲み込もうとしていた。その中から聞き覚えのある動物の最期の声が聞こえてきた。
自分が手にかけたものが待ち構えている声だと理解するとさきほどの記憶が蘇った。
「俺は死んだんじゃねえのか。今殺されたじゃねえか。痛い。辛い。あんな痛い思いはもう嫌だ。あんな恐怖はもう嫌だ。なあ、猫夜、犬飼、助けてくれ。俺を助けてくれよ」
この後に及んでもまだ助けろという登に猫夜は、
「お前はこれから闇の中で、お前が今までに殺した動物たちにまた殺される。そこには我らも含まれている。お前は未来永劫殺され続けて苦しむんだよ」
「これ猫夜、それは俺の台詞じゃねえか」
太郎が自分の台詞を取られたとばかりに軽く猫夜の頭をはたく。
「なんなんだよお前らは」
登は何が何だかわからないまま、自分の後ろにぽっかり空いている穴から逃れようと今度は猫夜の方に這いつくばろうとしたところで、死神に捕まった。ひぃという悲鳴をあげる前に、登の体は凍り始めた。首から上だけは凍らず頭も正常に動いている。恐怖を感じるということだ。
闇の内から真っ赤な目をした犬が一匹ゆっくりとぬめりと現れ、真っ赤な口を大きく開き、登の腕をやんわりと噛む。そのまま弄ぶようにゆっくりと、恐怖を煽るように闇の内に引きずり込む。
登は泣き叫んでこの世に留まろうとするが体はすでに凍っていて動かない。気持ちだけがこの世に留まり、体は無情にも闇の中に飲み込まれていく。
嬉しそうに鳴き叫ぶ動物の声が闇から漏れる。すっぽりと登の体が闇に飲まれると闇は登の悲鳴を結び取るように萎んでいった。
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