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第三話:霊 たまこ
小屋にぶち込まれましてん
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「だってそうだろう。妖怪は人の生き方に口出し出来ない、しちゃいけないって教えてくれたのはおまえさんがたじゃあないか」
人のやることには例えそれが破滅の方向に向いていても手を出しちゃいけないって決まりがあるって言ったよな昭子さん。と今にも侍を氷漬けにしようと口元に手をやって氷の息を吹いている昭子に向けて人差し指をぶんぶん振る。
侍のくせにその意が的を射ていることにムカついた昭子は、侍をどうバラしてやろうかと考えていた。
が、ちょっとそれを保留し、思わず太郎の様子をうかがってみた。
同じようにムカついた顔をしている太郎にほっとしたのか、
「そうさね、そんなもんわかってるさ。だから、どの妖怪がそんなバカな真似をしようとしたのか気になったんじゃないか。なあ、そうだろ太郎」
と取ってつけたように太郎に同意を求める。
「そりゃもちろんですよ」
太郎も昭子に話を合わせて薄ら怖い笑みを作る。そして二人は侍がまだ何も気づいていないことに対し、呆れた顔を見せ合ってケスケスと笑い声を漏らした。
「おっかねえ笑い声だな昭子さん、あんた今本気で俺のことどうにかしようと考えてたろ。あの目つきはそんな感じだった。なあ、そうだろ? やめてくれよそういうの。俺、結構怖がりなんだから」
昭子は、「ふん、生意気な真似するからだよ」と一蹴する。
侍もふんと鼻を鳴らすと、「で、そこでどんな妖怪に会ったんだい?」とようやく脱線させた話をまともな路線に戻した。
たまこは一つ頷き、続ける。
「それは大きくて黒くて真っ赤に燃えていて、例えるならまるで巨大な車みたいでした」
人差し指と中指を両のこめかみに当てて強く押す。うーんと唸り話を続けた。
私は暗い部屋の中にいました。辺り一面真っ暗だったので最初は部屋だと思ったんです。
ですが、少し埃っぽいにおいと土っぽいにおいから、もしかしたらここは外かもしれないって思ったりもしました。とにかく、どこにいるのかわからなかったんです。
その時の私は両手両脚を縛られていたんですが、脚は前後左右に激しく揺らしたり擦ったりしたら、なぜかすんなりとすぐに紐をすり抜けたんです。手の方はぜんぜんダメでした。
そうっと立ち上がって、外に耳をそばだてました。もしかしたら人がいるかもしれない。そう思うと恐怖で心臓が張り裂けそうでした。
外は、そうですね、たぶん夜でした。遅い時間だったと思います。
辺りはしんと静まり返っていて静かでしたが、外で鳴く虫の声が夜のものでした。
田舎に住んでいる人は虫の声で時間かわかるんですよ。だから、今が夜遅い時間だろうって推測することができたんです。
助けを呼ぶのに声を上げたらあいつが来ると思って、怖くて声は出せなかったんですが、脚は動くので小屋の中、四方八方を確認するため歩いてみました。
小屋のどの位置かはわからなかったんですけど、大きな箱のような物が一つ置いてあるきりで、あとは何もありませんでした。
次に、背を壁につけてドアが無いか探しました。手を後ろに縛られているので背を壁につけて上下左右に動きながらどこかに鍵がないか探しました。
最初は何もなかったんです。というかみつけられなかったんです。でも、諦めずに何周かしたとき、金具のようなものに触れました。
背伸びをしないと触れない位置にあったんです。
私は何度も爪先立ちをして手を近づけました。
そのうち指先に丸いものが当たり、それが鍵であることに気付きました。
うちの物置もこのタイプの鍵でしたので、すぐに気づきました。
横にスライドさせて開けて玉の部分を下げる昔ながらのあの鍵です。
今思えば、なんで内側に鍵があったのか、不思議に思わなければならないところでしたが、当時の私はそこまで頭が回りませんでした。
なので、玉を上下左右に動かしてどこかにひっかからないか試しました。何度か試していると鍵がスライドし、ドアが軽くなったんです。
開いた。
そう確信し、私はゆっくりと慎重にドアを開けました。
黄色い月明かりが誘うようにすうっと細く中に入り、うっすらと中を照らしました。でも私は怖くて中を見ることはできませんでした。
新しく澄んだ空気も一緒に入ってきたので、思わず肺いっぱいに吸い込みました。
それからまた辺りに気を張り、近くに男がいないかどうか、目を細くして見て、ようく耳を澄ませて辺りの音を聞きました。心臓がドキドキしていました。
体が通るくらいドアを開けてすり抜けると小屋に背をつけて周りがどうなっているのか見回しました。
辺りは雑草が茂っていて、これはいい隠れ蓑になると思いました。
小屋のドアを背にして右側に大きな家がありました。たぶん母屋でしょうか。見える範囲ではそれしかなかったので、あの男はきっと母屋にいるんだと思いました。
左側は、そうですね、細い木が何本か立っていて蔓状のものがありました。ああ、そうです、そうです、畑になっていたんです。家庭菜園かなにかだと。
え? だから妖怪はどこから出てくるのかって? 昭子さんまでそんなことを言うんですか。ちょっと待ってくださいよ。私だって少しずつ思い出してるところなんですから静かに聞いててもらっていいですか。
それで、そうそう、家庭菜園のような畑があったんです。
暗闇の中だったのでどのくらいの広さなのかはわかりません。ぐるっと見回して門がどこか探しました。
ええ、田舎の家は広いんですよ。門を入ってから母屋までが長いんです。
この家は裏門がない造りになっていましたから逃げるためには母屋の前を通過して表門まで行かなきゃならなかったんです。
何も身を隠すものがないところを歩いて行くのは恐怖しかありませんでした。
人のやることには例えそれが破滅の方向に向いていても手を出しちゃいけないって決まりがあるって言ったよな昭子さん。と今にも侍を氷漬けにしようと口元に手をやって氷の息を吹いている昭子に向けて人差し指をぶんぶん振る。
侍のくせにその意が的を射ていることにムカついた昭子は、侍をどうバラしてやろうかと考えていた。
が、ちょっとそれを保留し、思わず太郎の様子をうかがってみた。
同じようにムカついた顔をしている太郎にほっとしたのか、
「そうさね、そんなもんわかってるさ。だから、どの妖怪がそんなバカな真似をしようとしたのか気になったんじゃないか。なあ、そうだろ太郎」
と取ってつけたように太郎に同意を求める。
「そりゃもちろんですよ」
太郎も昭子に話を合わせて薄ら怖い笑みを作る。そして二人は侍がまだ何も気づいていないことに対し、呆れた顔を見せ合ってケスケスと笑い声を漏らした。
「おっかねえ笑い声だな昭子さん、あんた今本気で俺のことどうにかしようと考えてたろ。あの目つきはそんな感じだった。なあ、そうだろ? やめてくれよそういうの。俺、結構怖がりなんだから」
昭子は、「ふん、生意気な真似するからだよ」と一蹴する。
侍もふんと鼻を鳴らすと、「で、そこでどんな妖怪に会ったんだい?」とようやく脱線させた話をまともな路線に戻した。
たまこは一つ頷き、続ける。
「それは大きくて黒くて真っ赤に燃えていて、例えるならまるで巨大な車みたいでした」
人差し指と中指を両のこめかみに当てて強く押す。うーんと唸り話を続けた。
私は暗い部屋の中にいました。辺り一面真っ暗だったので最初は部屋だと思ったんです。
ですが、少し埃っぽいにおいと土っぽいにおいから、もしかしたらここは外かもしれないって思ったりもしました。とにかく、どこにいるのかわからなかったんです。
その時の私は両手両脚を縛られていたんですが、脚は前後左右に激しく揺らしたり擦ったりしたら、なぜかすんなりとすぐに紐をすり抜けたんです。手の方はぜんぜんダメでした。
そうっと立ち上がって、外に耳をそばだてました。もしかしたら人がいるかもしれない。そう思うと恐怖で心臓が張り裂けそうでした。
外は、そうですね、たぶん夜でした。遅い時間だったと思います。
辺りはしんと静まり返っていて静かでしたが、外で鳴く虫の声が夜のものでした。
田舎に住んでいる人は虫の声で時間かわかるんですよ。だから、今が夜遅い時間だろうって推測することができたんです。
助けを呼ぶのに声を上げたらあいつが来ると思って、怖くて声は出せなかったんですが、脚は動くので小屋の中、四方八方を確認するため歩いてみました。
小屋のどの位置かはわからなかったんですけど、大きな箱のような物が一つ置いてあるきりで、あとは何もありませんでした。
次に、背を壁につけてドアが無いか探しました。手を後ろに縛られているので背を壁につけて上下左右に動きながらどこかに鍵がないか探しました。
最初は何もなかったんです。というかみつけられなかったんです。でも、諦めずに何周かしたとき、金具のようなものに触れました。
背伸びをしないと触れない位置にあったんです。
私は何度も爪先立ちをして手を近づけました。
そのうち指先に丸いものが当たり、それが鍵であることに気付きました。
うちの物置もこのタイプの鍵でしたので、すぐに気づきました。
横にスライドさせて開けて玉の部分を下げる昔ながらのあの鍵です。
今思えば、なんで内側に鍵があったのか、不思議に思わなければならないところでしたが、当時の私はそこまで頭が回りませんでした。
なので、玉を上下左右に動かしてどこかにひっかからないか試しました。何度か試していると鍵がスライドし、ドアが軽くなったんです。
開いた。
そう確信し、私はゆっくりと慎重にドアを開けました。
黄色い月明かりが誘うようにすうっと細く中に入り、うっすらと中を照らしました。でも私は怖くて中を見ることはできませんでした。
新しく澄んだ空気も一緒に入ってきたので、思わず肺いっぱいに吸い込みました。
それからまた辺りに気を張り、近くに男がいないかどうか、目を細くして見て、ようく耳を澄ませて辺りの音を聞きました。心臓がドキドキしていました。
体が通るくらいドアを開けてすり抜けると小屋に背をつけて周りがどうなっているのか見回しました。
辺りは雑草が茂っていて、これはいい隠れ蓑になると思いました。
小屋のドアを背にして右側に大きな家がありました。たぶん母屋でしょうか。見える範囲ではそれしかなかったので、あの男はきっと母屋にいるんだと思いました。
左側は、そうですね、細い木が何本か立っていて蔓状のものがありました。ああ、そうです、そうです、畑になっていたんです。家庭菜園かなにかだと。
え? だから妖怪はどこから出てくるのかって? 昭子さんまでそんなことを言うんですか。ちょっと待ってくださいよ。私だって少しずつ思い出してるところなんですから静かに聞いててもらっていいですか。
それで、そうそう、家庭菜園のような畑があったんです。
暗闇の中だったのでどのくらいの広さなのかはわかりません。ぐるっと見回して門がどこか探しました。
ええ、田舎の家は広いんですよ。門を入ってから母屋までが長いんです。
この家は裏門がない造りになっていましたから逃げるためには母屋の前を通過して表門まで行かなきゃならなかったんです。
何も身を隠すものがないところを歩いて行くのは恐怖しかありませんでした。
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