あなたが悪魔の証明と言う前に

A-T

文字の大きさ
1 / 1

あなたが悪魔の証明と言う前に

しおりを挟む
「日本にツチノコがいないことを証明することになった。手伝ってくれ」
 研究室に入ってきた教授は、いきなり助手に頼み込んだ。
「ツチノコって、あの未確認動物の?」
「そうだ。よく胴が太いヘビのような絵が描かれているだろ? あれだ」
「いないことを証明するのは大変ですよ。ツチノコがいることを証明するなら1匹捕まえれば可能ですが、いないこととなると日本全土をくまなく探す必要があるのでは?」
「問題は、そこだ」
 教授は腕組みをすると、一人ぶつぶつ言いながら歩き回り始めた。
「日本全土を探して“いませんでした”と言えればいいが、それに必要な人員も費用も確保することは叶わない。仮に確保できたとしても、調査方法の不備が指摘されるだろう。やれ、あの探し方では漏れがある。やれ、あの調査員は適当だっただの、くまなく探せないことを証明するのは非常に簡単だ」
「それじゃ、どうするんですか?」
「だから、考えるんだ。君も一緒に」
 助手も腕組みをして歩き回り始める。二人でぐるぐる回っているうちに、助手の方が先にひらめいた。
「日本という国がなくなれば、日本にいないことを証明できるのではないでしょうか? だって、日本という国自体が無いんですよ。そうしたら、日本にいるわけないじゃないですか」
「君は日本の領土を吹っ飛ばすつもりかね?」
「日本という名称がなくなれば、それで解決しませんか?」
「国名を変えるというのは容易ではないし、仮に変更できたとしても、日本という言葉の前に“旧”と付けられ、補足として使われ続けられるだろう。ソ連のようにね」
 再び、二人は辺りを回り始める。何周かしたところで、助手が新たな案を思いつく。
「ツチノコは架空の生物名だと明記すれば、いないことになるのではないでしょうか? ドラゴンやペガサスのように」
「目撃情報があるものを、架空の存在にするわけにもいかんだろ……」
「そうなりますか。でも、目撃情報って言っても、何かと見間違えたとか、そういうのが大半なんじゃないですか? 捕まえてみたら、ニホンマムシの亜種だったとか、単なる太った蛇だったとか。そんなオチですよ、きっと」
「多いだろね、誤認というのは。そもそも、我々はツチノコというものについて知らな過ぎる。これがツチノコだ、と定義できるものがない」
「それじゃ、どうするんですか?」
「まずは捕まえてみてだね、生物学的に新種であることを認めてもらう必要があるだろう」
「はぁ……」
「ということだから、日本にツチノコがいないことを証明するための第一歩として、ツチノコを捕まえようと思うのだが、君も手伝ってくれないか?」
 それはツチノコがいることを証明することになるのでは、という指摘をするべきか助手は迷った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...