あなたのオッサン好きが止められない

A-T

文字の大きさ
1 / 1

あなたのオッサン好きが止められない

しおりを挟む
「兄ちゃん、また漫画のキャラに興奮してんの?」

 リビングで萌え4コマを読んで鼻息を荒くしている兄に、弟が侮蔑の眼差しを送る。弟にとっては、兄の嗜好は理解しがたいものだった。

「いいだろ別に。お前だってアイドル見て、ハスハスしてんだろ?」
「ハスハスって何だよ? あの子を汚す意味だったら許さないからな」
「汚してないし。つーか、お前が、その欲望で汚すんじゃね?」
「全然、意味わかんねぇ……」

 こんな漫画のどこがいいんだと、弟は兄が読んでいない巻を手に取って、パラパラとページをめくってみた。

「ちょ、お前……勝手に触るなよ」

 漫画を取ろうとする兄の手をかわし、弟は読みながらリビングを歩いた。ページをめくった際、挟まっていたカードが落ちる。

「あっ」

 と思う間に、弟は落としたカードを踏んでいた。そこには瞳の大きい少女が描かれている。

「俺の嫁がぁーっ!」

 兄からタックルを食らい、弟は尻もちをついて尾てい骨を強打する。兄は痛がる弟に目もくれず、踏まれたカードを手に取って撫でた。

「痛ってぇ……。何も、ぶつかってくることないだろ」
「お前にはわからんのだよ、このカードの貴重さが。普段は露出度控えめなのに、限定特定のときだけに見せる肌色多めのサービスの良さが、お前にわかってたまるか!」
「何だよサービスって、絵なんだろ? 絵を見て興奮するってのが、そもそも俺にはサッパリだ」

 弟は手にしたままの漫画を返そうと思ったが、さっき倒された衝撃で本に折れ目が付いているのを見てやめる。
 幸いにも兄はカードに話しかけているので、そのことに気づかれていない。弟は折れ目をなくしてから返そうと、逆に折ってみたりしたが、誤魔化しきれるものではなかった。
 困ったなと思ってページを眺めていると、作者の情報が書かれているのが目に留まる。

 作者はオッサンだった――

「兄ちゃん、この作者ってオッサンだよ。兄ちゃんはオッサンが作ったものに興奮してんだね」

 弟の言い方は兄を小馬鹿にしたものだったが、兄は意に介さない様子だった。それどころか、得意げに高笑いすると弟をビシッと指差した。

「笑止! 弟よ、この兄をオッサンが作ったもので興奮する輩と笑うなら、お前も同じ穴のムジナだと教えてやろう!」
「どういう意味だよ?」
「何を隠そう、お前が好きなアイドルの父親は、この作者なのだ!」
「父親が漫画家だって言ってたけど、この漫画だったのか……。でもさ、だからって、オッサンが作ったもので興奮することに何の関係が?」
「本当に馬鹿だな、お前は。この作者の娘ということは、彼女もまたオッサンが作った存在だということだ! 世に溢れる少女も少年も、その辺のオッサンがオバサンと生み出した存在だと知るがいい」

 子供が年頃になる頃には、親もいい年になっている。ある意味、それは逃れられない現実だった。

「何だか、悔しいな……」
「何を悔しがるか、弟よ。世の男はオッサンが作ったものに興奮している。オッサンが生み出したものが好きな、略してオッサン好き同志なのだ。あぁ……。人類みな兄弟とは、よく言ったものだ」
「兄弟は一人いるだけでも嫌なのに、人類全部とか……もう勘弁」

 弟は頭を抱えたまま、スッと本を兄の足元に置いた。本を兄に踏ませて、折り目は兄が付けたと言い張るつもりで。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...