犯罪者予備軍共

田原摩耶

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VS黒魔術崇拝者

02

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 自らの分身を作り、それらを自在に操る。
 それが俺の持っている能力で、その分身を一個人として完全に独立させることも不可能ではなかった。

 そして今、仕事のために松浦川弥生という分身の中に入り込んだ俺は着慣れた制服に袖を通す。
 何回目だろうか、この制服を着るのは。
 前回の草食系食人野郎もとい日暮一色のときも目比出としてこの制服を着た。
 この高校は死神か疫病神か飼ってるんじゃないのだろうかと心配になるほど生徒から殺人犯が出ている。
 まあ、現役女子高生を生で見れるからそれはそれで嬉しいが。
 やはり、中学・高校に通う生徒の中から多数殺人犯が出るのは精神が大人になりかけの情緒不安定期の少年少女が集まる場所だからだろう。
 たまにはぴっちりとスーツを着こなしたOLのいる職場に侵入したいところだが何故か俺の元には青臭い青少年の仕事ばかり回ってくる。
 お陰で同僚たちにそういう趣味なのかと誤解されそうになるときも屡々あったが、やつらもやつらでターゲット層が片寄っているのも事実だ。
 恐らく、お食事係個々の能力や得意分野で仕事の内容が振り分けられているのだろう。
 それで青少年というのはあまり嬉しくはないが、あくまでもこれは仕事だ。
 自分自身の性的欲求を満たすためではない。
 それなら風俗へ行く。

 制服を着替え終わり、気分を引き締めた。

 取り敢えずまあ、さっさと終わらせますか。
 まだ慣れていない分身の体をぐっと伸ばし、関節をゴキリと鳴らす。
 見慣れない部屋の中。肺に溜まった息を吐き出した俺はそのまま鞄を手に取り玄関へと向かった。



「さっきからぶつぶつぶつぶつうっせーんだよ、まじ気持ちわりい。さっさと死ねよ!」

 校舎内。
 同じ制服を着た他の生徒に紛れて校舎に侵入した俺はターゲットである寿千樹を探してさ迷っていた。
 そして、人気のない廊下を通りかかったときだ。その怒声が聞こえてきたのは。
 何事かと目を丸くし、つられて廊下の陰に隠れた俺はそこに出来ていた小さな人垣を見付ける。
 数メートル前方。複数の体格のいい男子生徒たちの周りには数人の女子生徒たちが携帯電話片手に笑いながらなにかを撮っている。男子生徒だ。
 床の上に踞る一人の男子生徒を男子生徒たちはボールでも蹴るように爪先を捩じ込ませていた。
 全身を蹴られ、呻く男子生徒は口許を手で押さえる。
 みるみる内にいじめられっ子の顔色は青くなり、不自然に両頬が膨らんだ。それに気付いているのは俺だけのようだ。
 一人の男子生徒は構わずいじめられっ子の腹を蹴り上げた。そして、いじめられっ子のダム的ななにかが決壊したようだ。俺はさっと顔を逸らす。

「ゔぼぇっ」

 腹の底から捻り出すような声とともにビチャビチャと水っぽい音が響いた。
 辺りに静けさが走りいじめられっ子の嗚咽だけが聞こえてくる。
 凍り付く周囲を無視していじめられっ子が腹の中のもんを口から捻り出したとき、周囲は阿鼻叫喚に包まれた。
 制服にかかっただとか騒ぐ男子生徒はいじめられっ子から離れ、遠巻きに眺めていた女子生徒はヒステリックに罵詈雑言を投げ掛ける。

 そんな中、濡れた口許を手の甲で拭ういじめられっ子……もとい寿千樹が人知らずひっそりとほくそ笑んだのを俺は見逃さなかった。
 嘔吐に嫌悪感を抱き、ドン引きした生徒たちは悪態を吐きながらその場から逃げていく。
 俺の目の前を通り抜けていく生徒たちは隠れていた俺の方を見ようともしない。
 無理もない。俺のこの姿は特定の人間にしか見えないようになっているわけだからな。
 そして、俺は生徒たちの間をすり抜けるようにしてこの場で唯一俺の姿を見ることが出来る人間に歩み寄っていく。

「……寿君、大丈夫?」

 吐瀉物がぶち撒けられた廊下に一人残されたいじめられっ子の元に近付き、踞る相手に目線を合わせるようその場にしゃがみ込んだ俺は制服から一枚のハンカチを取り出した。それをターゲット・寿千樹に差し出せば、寿はゆっくりとこちらを見上げる。充血し、真っ赤になった目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
 蹴られた痛みか、込み上げてきた吐瀉物が別の器官に入ったのか、いじめられて悲しかったのか、俺にはわからなかったがとにかくやつはちょっと泣いていた。

「……」

 俺からハンカチを乱暴に奪った寿は、そのままなにも言わずに口許をゴシゴシと拭う。
 そして、ご丁寧に鼻まで取っていた。
 てめぇそれ俺の私物だぞと掴みかかりそうになるのを必死に堪えつつ、俺はそれを見守る。

「……ありがと」

 そして、躊躇いもなくハンカチを分泌物まみれにする寿は鼻を赤くしてそう呟いた。
 なんだ、素直なところもあるじゃないのか。データの先入観に囚われていた俺はその寿の言動に少し目を丸くし、小さく笑い返す。

「洗濯して返してね」

 さあ、仕事の始まりだ。
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