犯罪者予備軍共

田原摩耶

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VS黒魔術崇拝者

03

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 寿千樹。
 罪状は殺人。
 とは言っても殺したのは先ほどのいじめっ子たちではない。
 被害者はまだ幼い寿千樹の弟だ。
 寿千樹は弟を部屋に連れ込み、そのまま刺殺。
 どうやら寿はいじめっ子どもを痛め付けるための黒魔術の生け贄を目的として殺人を行ったようだ。
 本人としてはなるべく苦しまずに逝く方法を調べ、実行したようだがやつがとった行動とその結果は変わらない。

 記憶操作班員に言われ、寿がやろうとしていた黒魔術について調べた。
 一番親しい人間の血を必要としたその黒魔術は自分の憎い相手を確実に抹消だとかそんな感じだった。
 目が滑ってよく覚えていない。
 ただ、それがただの意味のない一連の行動を綴ったものだったのはわかった。
 魔術というものが身近な世界にいる俺にとってそれは一目瞭然だった。
 つまり、寿千樹の弟は無駄死にだったわけだ。

 そして、今回俺に任されたのは寿千樹の弟よりも親しい人間となり、その黒魔術の生け贄になること。
 ……なのだが。

「あんなやつら、俺が本気出せば一発だったんだ。本当だからな。でも俺が本気出したらあいつらだけではなく他の人間に害が及ぶ恐れがあったから敢えて俺は戦闘回避をした。でも、最終的にあいつらは逃げてったわけだからな!所詮は群れてないとなにも出来ない低俗どもだ。くくくっ、見ただろ松浦川も!あのときのやつらの間抜け面といいブヒブヒ這いつくばる姿といいまるで豚だったな!豚!」

 そりゃあゲロぶち撒けられたらだれでも逃げるわとか這いつくばってはなかったなとか色々言いたいことを堪え、俺は弁当箱を片手に声高らかに笑う寿に「そうだね」とだけ答える。周りの視線が痛い。

 昼休み。
 俺は寿に引っ張られるがまま中庭へとやってきていた。昼食を食べるためだ。
 ターゲットである寿千樹に接触して数時間経つが、正直こいつと仲良くなれる気がしない。
 色々強烈というか、アクが強すぎて胸焼けしそうだ。


 本来、俺が介入する前の寿は便所の個室に籠り、一人で昼食を取っていた。
 この性格のせいで周りからは引かれ、なにをするにも一人で、たまに友達を作ろうとするがその性格が災いしていつの間にか普通の人間は寿と距離を取るようになる。
 その代わり、先ほどのように寿のことを嫌い、面白がる人間が近付いてきた。
 まあ、そこまで珍しい話でもない。
 今までこなしてきた仕事の中でいじめられていた人間が殺人に走る例もたくさんある。

 今目の前で生き生きと話している寿を見てるとなんとも言えない気分になった。
 寿が幼い弟と接しているときの顔と同じような楽しそうな顔をしてる。
 記憶操作班員たちのお陰で既に俺と寿の仲は弟よりも深いものになっているはずだ。
 寿の記憶では俺は昔からの親友なのだろうか。
 やはり、不思議だ。

「……なんだ松浦川、お前食べないのか?」

 弁当箱を片手にむしゃむしゃおかずを頬張っていた寿はふと手ぶらの俺に気付いたようだ。
 尋ねてくる寿に、俺は「あんまり食欲ないから」とだけ答える。
 嘘ではない。
 不死身の俺にとって食は然程重要なものではなく、今この松浦川弥生という使い捨て人形の中に入っている今それは無用だ。
 それに、この仕事が終わったらこの分身は処分するつもりだし今までもそうやってきた。
 組織内部からそんな俺のやり方に文句を言ってくる連中もいたが、今それは関係ない話だ。

「日本男児のくせにダイエット中の女児みたいなことを言うな!ほら、そんなお前にはこの卵焼きを授けてやろう」

 そう相変わらずの尊大口調で続ける寿は、言いながら弁当箱の蓋に卵焼きをひょいと乗せる。
 そして、「遠慮せず食え!」と卵焼きを乗せた弁当箱の蓋を押し付けてきた。
 もしかしたら寿なりに俺を気遣ってくれているのかもしれない。
 有無を言わせない強引な態度が珠に瑕だが、俺からしてみれば可愛らしいものだ。
「ありがとう」そう微笑む俺は遠慮がちにそれを受け取り、そのまま指で摘まみ卵焼きを口に運ぶ。
 あまりこちらの世界の食べ物を食べる機会がなかっただけにその卵焼きの味は未知だったが、まあ、なかなか悪くない。
 もぐもぐと口を動かす俺に、寿は「どうだ?」としつこく尋ねてくる。

「……美味しい」
「だろう?なかなかわかってるじゃないか」

 そう答えれば、寿は嬉しそうにはにかむ。そして俺の態度に気をよくしたらしい寿は「ほら、これもやろう!」と言いながら次々と弁当箱の蓋におかずを乗せていった。
 もうどっちが弁当箱の本体かわからなくなるくらい弁当を分けられた俺は頑張ってそれを完食させる。
 人が食欲がないと言っているのになんてやつだ。
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