犯罪者予備軍共

田原摩耶

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VS黒魔術崇拝者

05

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「……松浦川、お前は俺の友達か?」

 来た。

 夕暮れに赤く照らされた畦道。
 寿と並んで帰っていると、いきなり寿はそんなことを尋ねてきた。わざわざそんなことを聞いてくるなんて、こいつあれか。結構自分に自信がないタイプか。
 血縁の弟から全く血の繋がりのない俺に生け贄の対象が変わった今、寿にとっての最終確認なのだろう。
 ここで俺が寿の言葉を否定すれば生け贄は事実通り寿の弟が選ばれるはずだ。それをわかった上で、俺は「そうじゃないの?」と聞き返す。
 どうやら質問を質問で返されるとは思わなかったようだ。

「……ああ、そうだな。って、いや、違う。違う違う!松浦川は俺の下僕だ。どうせお前バカだから立場も弁えずに友達なんて勘違いしてるんじゃないだろうなって思って確認したが……ふっ、やはり勘違いをしてたようだな。身の程を弁えろ!」

 最初素で返してしまったようだ。
 慌てて恥ずかしそうに咳払いをする寿はそう声高らかに叫ぶ。近くを通りかかっていた買い物帰りの中年女性が何事かとこちらを見る。
 やはり中身はただの十六歳といったところか。素直になればいいのにと思いつつ、俺は「なるべく心掛けるね」と控え目に微笑む。

「ふん、わかればいい、わかれば。……時に松浦川」
「なに?」
「……そうだな、えっと」

 ふと話題を切り換えてくる寿に俺は直感を働かせた。
 恐らく、俺を現場である自宅に誘おうとしているのだろう。先程までの威勢は何処へ、いきなり勢いを無くす寿に俺は敢えてなにも言わずに続きの言葉を待つことにした。
 運がいいことに俺はあちらの世界でも気が長いことで有名だ。大人の余裕といったところだろう。少年よ、ゆっくり悩むがよい。

「……その、なんつーか……ほら……んんん……っえーと……」

 前言撤回。思っていたより俺の気は長くないようだ。
 あまりにも本題までに辿り着けないことにイラつきがピークに達した俺は、寿の唸るような声を遮るように「あっそうだ」とわざとらしく思い付いたような声を上げる。

「僕、寿君の家に行ってみたいなあ」

「確か一回も行ったことないよね?」そう笑顔で続ければ、寿は「え?」と目を丸くした。
 まるで自分の心が読まれたような驚きと、言えなかったことを相手の方から切り出してきたことへの安心感が混ざったような複雑な顔をする寿だったが、慌ててにやりと不敵に笑んで見せる。

「な、なんだ?松浦川、そんなに俺の部屋に来たいのか?本来ならばIQ200以下のバカはお断りしてるのだが、そこまで言うのなら致し方ない。この俺、寿千樹に免じて特別に招待してやらないこともないぞ!」

 要約すれば「どうぞ来てください」ということのようだ。
 くくくと忍び笑いを浮かべる寿に冷や汗を滲ませつつ、順調に進んでる物事に内心ほっとする。
 自分から寿に申し出たとき、もしかしたらいつの日かのどっかの誰かさんのように萎えられるんじゃないだろうかと心の中で怯えていたようだ。
 あの食人野郎のお陰ですっかりトラウマになってしまっている。
 この俺のプライドを傷付けた罪は重い。

 と言うわけで、俺は寿千樹の実家へ向かうことにした。


 元々、寿千樹には友達がいない。
 いくら俺が寿の親友だという記憶を植え付けたところで、寿本人にコミュニケーション能力はない。
 だからだろう。俺と接するとき、寿自身の挙動が怪しくなるのは。
 脳に焼き付けられた俺との偽の記憶に対して、初めての人間相手にどう接したらいいのかわからないというギャップに苦しんでいるように思えた。

 だからと言って、俺に出来ることは寿の欲求を満たすことしかない。
 確実にするにはもっとゆっくり時間をかけて慣れさせ、本当の友人になってからした方がいいのだろうがあくまでもこれは仕事だ。多少粗いのは仕方ない。
 記憶操作班員たちも大丈夫と太鼓判を押していたし、多少記憶と精神のムラがあっても大丈夫だろう。


 と言うわけで、俺は寿家にやってきた。
 超豪邸というわけでもなく、極ありふれた一般の住宅街の中にある洒落た雰囲気のある一軒家。それが寿家だった。
 玄関から家の中に入れば既に帰ってきていた寿弟が出迎え、それを軽くあしらった寿はそのまま二階にある自室へと通す。

 寿以外に俺の姿は見えない。恐らく寿弟からしてみれば兄がベラベラと一人で透明人間の相手をしているように見えたのだろう。俺が階段を上りきるまで不思議そうにこちらを見上げていた。因みに、寿は家族の前では普通のようだ。
 寿曰く普通を偽っているといっていたが素なのだろう。俺は敢えて深く追求しないことにした。


 寿家、千樹の自室にて。
 いかにも高校生らしい部屋を見渡しながら俺はソファーに腰を下ろす。
 今寿は一階にお茶を取りに行っており、部屋には俺一人だけが残されていた。
 好奇心に負け、黒魔術に関してのなにか書物などがないか本棚を調べてみたがそれらしきものは一つもない。
 テーブルの上にノートパソコンがあったので、恐らくインターネット経由で黒魔術のことを調べているのだろう。流石にパソコンまで扱う気にはなれなかった。
 そして、しばらくもしない内に二人分のコップを乗せたトレーを手にした寿が戻ってくる。どことなく緊張しているように見えた。

「凡人のお前にこの高貴な味を理解できるかわからないが、好きなだけ飲むがいい。……お代わりは自由だ」

 後半素に戻りつつ、グラスを差し出してくる寿に「ありがとう」と断りを入れ、俺はそれを受け取る。瞬間、寿の表情が若干険しくなるのを俺は見逃さなかった。恐らくなにか入っているのだろう。確か、寿弟が殺されたときの状況を思い出せば睡眠薬を使って眠らされていたはずだ。
 臆病な寿のことだ。それは多分俺にも代用してきているだろう。
 気付いてて、敢えて俺はそのグラスに口をつけた。
 常時張り付けていたニヒルな笑みを忘れた寿が緊張した面持ちでこちらを見詰めてくる。
 どのくらい飲めば薬は効くのだろうか。そもそも俺は一般の人間と細胞の造りが違うのだからそれが効くかすらも定かではないが、寿を安心させるには飲み干すのが一番いいだろう。
 ゴクゴクゴクと喉を鳴らし、グラスの中身を飲み干した俺は小さく息をつきながらグラスをトレーに置いた。

「い……いい飲みっぷりだな」

 しまった。一応今は食が細い設定だった。
 つい飲み屋に行ってる感覚で一気飲みしてしまった俺は少しだけ引いたような顔をする寿にハッとする。ここは設定を貫いてちびちび飲むべきだったか。

 そう後悔した瞬間、脳味噌がぐらりと揺れた。催す吐き気に目眩。視界が大きくぐらつき、近くでごとりとなにか落ちたような音が聞こえた。
 いや、違う。落ちたのは俺だ。
 不安げにこちらを見下ろしてくる寿が視界に入る。
 即効性かよ。なんて思いつつ、おのぞみ通り俺は目を閉じた。
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