犯罪者予備軍共

田原摩耶

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VS黒魔術崇拝者

08

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 同級生と喧嘩して、教師たちに怒られたその日の夜。
 昼間にはぶっ殺してやると意気込んでいたはずなのに家に帰ってくるとなんだかどうでもよくなった。
 帰ってきた両親にこっぴどく叱られて不貞腐れつつも弟の相手をして遊んでいるとインターホンが鳴る。
 家事に追われている母親に言われ、渋々扉を開けばそこには担任のじいさんと見覚えのある連中がいた。
 俺をいじめていた同級生だ。
 担任が来ていると母親に言えば、何事かと目を丸くした母親は慌てて連中を家に上げる。

 開口一言、担任は母親に謝罪した。
 母親に言われ弟を子供部屋に連れていったので詳しくは聞いてなかったが、どうやら今回の騒動で指導を受けていた連中が俺をいじめていることについて溢したようだ。
 人様の家にいつまでもいるわけにはいかないと校舎の方へ移動して、更にはいじめっ子連中の親まで登場したりとなかなか面倒なことになったが既に事情聴取を済ませていたのであまり長引かなかった。
 最終的に、和解ということでお互いに謝罪して終わる。
 なんで俺まで謝らなきゃならないのかわからなかったが、無駄に抵抗して長引かせたくなかったのでその場の空気を読むことにした。

 そして、その日を境に虐められるようなことはなくなったがその代わり連中と話すこともなくなった。
 一人のときが多くなった。
 別に寂しくはなかったが、なんとなく連中とあっさりと終わったことだけが引っ掛かった。
 連中とはもっとなにかあるはずだと思っていたからだ。
 奴らからすんなりと手を引く俺に、今までうんざりしていた関係が終わる。
 なんだか上手く行きすぎて、その日から数日経つまでは報復されないだろうかと身構えていたがなにもなく数日が過ぎていった。

 そして翌日。
 学校へ行こうとしたら母親に呼び止められる。内容は、見覚えがないハンカチが俺の制服の中に入っていたとかそういうものだった。
 持ち主の子にちゃんと返してきなさいね。そう母親は言って、俺にその例のハンカチを渡してきた。
 センスのない柄の安っぽい悪趣味なハンカチ。ここ数日、人からものを借りた覚えもない。そう言い切れるはずなのに、何故だろうか。言い知れぬ既視感。

『洗濯して返してね』

 脳裏に響く声。
 体験したこともない記憶のはずなのに、何故だろうか。鮮明に蘇る。しかし、それ以上はなにも思い出せなかった。――思い出せなかった?
 自分で言って、混乱する。俺はなにか忘れているのか?
 記憶が錯誤し、なにがなんだか思考がこんがらがってくる。
 静まり返っていた水面に一つの小石が投げ入れられ、その波紋が大きく広がっていくようなそんな感覚だった。
 普通に考えてただの俺の妄想という可能性の方が大きいはずなのに、自分でもたかがこの一枚のハンカチに執着するのかわからなかった。
 母親からハンカチを受け取りそのまま玄関を出たときだ。

「本当に洗ってくれたんだ」

 声。聞き覚えのない男の声がすぐ背後で聞こえてくる。
 全く気配を感じていなかった俺はいきなり現れたその声のする方を振り返ろうとした。
 が、その瞬間、小さな立ち眩みを覚えた俺は反応に遅れる。
 そして振り返った先に人の影なんて一つもなく、俺の手の中にあったはずのハンカチはなくなっていた。

 ……ん?ハンカチ?ハンカチってなんだ。
 俺はそんなものを持ち歩く趣味はない。

 なにを言っているんだ、俺は。まだ寝惚けてるのか?
 空になった掌を見詰め、俺は一人小首を傾げる。
 まあいい。さっさと行くか。
 小さく息を吐き、俺はそのまま庭を出た。
 明るい日射しが目に焼き付き、思わず顔をしかめる。広がる青空を一瞥し、俺は相変わらず鉛のように重い足を動かした。

 ◇ ◇ ◇ 

「記憶操作班員、お前、寿千樹の記憶勝手に弄っただろう」
「なんすか、いきなり」
「さっき班長室に呼び出されて打ち上げやってきたぞ。『祝運命改良化』って」
「まじっすか、すげぇっすね」
「記憶操作班員」
「別にぃ弄ったっつーか、ちょこぉっとだけ改竄しただけっすよ」
「寿千樹のいじめをチクったのと、過去寿千樹のトラウマに関連するものを抹消するのがちょこぉっとか」
「ま、班長殿だって自分の忘れ物の尻拭いさせたんすからおあいこじゃないっすか。お互いにバレたらやばいっすよね。ってことで厳密にってことで」
「公私混同はよくないと習わなかったか?」
「まさか班長殿に公私混同を咎められるとは思わなかったっすよぉ。ほら、終わり良ければ全て良しっていうじゃないっすか」
「別に咎めてない。わざわざ俺の手柄にする必要もないはずだっただろう」
「んーなんのことっすかねぇ。自意識過剰も甚だしいっすよ班長殿。あっ嘘っすごめんなさい肩パンしないで」
「まさか上層部にまで記憶操作を使うなんてな。バレたらクビどころじゃないぞ」
「ほら班長殿最近モチベーション下がってたじゃないすか。んで、丁度いいんで恩売っとこうかと思いまして」
「なにが目的だ?」
「日頃の有り難い教育的指導への感謝の気持ちっすよ」
「……」
「なんっすかその目」
「いや、お前も立派になったもんだなって思って」
「あのこれ嫌味っすからね」
「俺も嫌味だバカ」
「ひどいっ。……っとまあ、そう言うわけなんで今回の件は貸し借り無しということで」
「なにを企んでいる」
「なんすかなんすか、別になんも企んでないっすよ」
「わざわざ貸し借りだとかまどろっこしいけとを言わず、その能力を使って俺の記憶を改竄したらいいだろう。利害関係が一致しない」
「そうやって利害メリットデメリットで考えるのはよくないっすよ班長殿。敢えて言うなら、二人共通の秘密があった方が燃えるじゃないっすか」
「…………」
「冗談っすよ、ドン引かないでくださいよ。傷付くじゃないっすか」
「紛らわしいやつだな」
「つーか真に受けないでくださいよ。……っていうか、ま、あんま気にしないでくださいよ。意味なんてないんで」
「そうか。ま、お前からの気持ちは有り難く俺が貰っといてやるよ」
「ま、まじっすか?」
「……なんでそこで驚くんだ」
「いや、なんとなく。ところで班長殿、一つお願い事があるんですが」
「……なんだよ」
「今から資料渡すんでこの通りに分身作って貰って「却下」……」
「じゃあ俺は帰るからな。戸締まり忘れんなよ」
「えっちょあの班長殿、話が違うじゃないっすか」
「なんの話なのかさっぱりわからん」
「俺班長殿のために働いたじゃないっすか!」
「無断でだろ。勝手な行動を取っておいて見返りを求めるな。あー打ち上げ楽しかった。デリヘル呼ぼ」
「班長殿のばかっ!鬼っ!ろくでなしっ!給料泥棒っ!」
「ふん、好きなだけ吠えてろ!お前が頼む相手を見誤っただけだ。ただし、今回の件はよくやったな。褒めてやろう。じゃあな、これからも献納に精を出してくれ」
「こっ……この……ッ班長殿のばかぁっ!」

 以上、記憶操作が行われる直前の部屋の高性能カメラに録音された組員二名の会話の記録より。
 上記の組員二名には減給・行動制限の処罰を下す。

≪数時間後行われた会議のレポートより≫

【 VS中二病】完
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