犯罪者予備軍共

田原摩耶

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VS黒魔術崇拝者

07

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 事後報告。
 任務は成功。後遺症有り。

 後遺症について。
 霊、悪魔などのものによる精神的外傷。(悪魔恐怖症)

 そう書類にペンを走らせた俺は小さく溜め息をついた。
 まさかターゲットに後遺症を残すなんて。俺は食事係失格だ。

 数日前、いや、俺の主観によればたった数時間前のことだ。寿千樹の欲求を発散させることには成功した。が、どうやらその際寿千樹は自分がやろうとした黒魔術によって松浦川弥生に悪魔が降臨なさったと勘違いしたようだ。
 それもそうだろう。あちらの世界の人間からしてみればいきなり切腹して大腸引き摺りながら魔方陣を書こうとしてるやつがいたら魑魅魍魎かその類いだと思うはずだ。
 寿を喜ばせようと思って本物の黒魔術を生で見せてやろうとしたのがまずかったようだ。
 お陰で唯一の親友が自分の行おうとした黒魔術のせいで悪魔にとり憑かれたと勘違いした寿の心には恐怖心が植え付けられてしまい、それは記憶操作班員たちの能力を駆使しても塗りつぶすことはできないらしい。

 つまり、俺は形跡を遺してしまったわけだ。まあ、あれだけはしゃげば仕方ないのだろうが。

「ターゲットを萎えさせたと思えば今度は怖がらせるなんて班長殿まじパねえっす。俺みたいな若造にはそんな真似できないっすよぉ」

 ××県ほにゃらら区対犯罪者組織本部、救護室。
 清潔感溢れるそこの事務机を借りて今回のことに対する反省文を書いている俺の手元の用紙を覗いてくる記憶操作班員はそうせせら笑う。
 どう頑張っても喧嘩を売っているようにしか聞こえないが、ここで感情に身を任せたところで反省文の枚数が積み重なるだけだ。
 俺はぐっと唇を噛み、記憶操作班員を睨む。

「おっと、今回は俺なぁんも悪くないっすからね。班長殿がせっかちなのがいけないんすよ」
「そーですよ、全部俺が悪いんです。どーぞ好きなように罵ってくださーい」
「班長殿、大人げないっすよ」

 まさかこいつに真面目に突っ込まれるとは……。
 開き直ってみるのはいいが、いたたまれなくなっただけだったので俺は記憶操作班員の相手をするのを止め、手元の反省文に集中することにした。

 そして、そんなタイミングを狙ったかのように一番近くにあったベッドルームのカーテンが開き、更にやかましいやつが現れる。

「そうですよ、監視長。あなたは仮にも班長という役職についておきながらも判断力が乏しく、おまけに計画性がない。そんなだから一人のいたいけない青少年の運命を変えてしまうなんてことをしてしまうんです」

 ピリピリと硬質な空気を身に纏った白衣のそいつ、もといこの救護室の主はそう刺々しい口調でぐちぐちと文句垂れる。
 役職は治癒班長。俺と同じ班長クラスであり、別名エリート糞インテリ。俺は影でやつのことを略して糞野郎と呼んでいる。

「なんだよ、もう弥生ちゃんの怪我治したのかよ」
「勿論。あの位の傷なら数分も要しません」

 言いながら、大きくカーテンを開く治癒班長。
 無数の機械に繋がれた無駄にごつい無機質のベッドの上には数時間前まで俺が操っていた分身、松浦川弥生が眠っていた。
 元々俺の分身なので死ぬことはないのだが、『あなたが作った使い捨ての人形にも命がある!』だとかなんとか言い出したこの糞野郎もとい治癒班長を筆頭に小うるさい治癒班に詰られ渋々廃棄する前に救護室に連れてきた俺は弥生の復活を待つついでに遊びに来ていた記憶操作班員の相手をしながら反省文を書いていたというわけだ。

「おおお!噂の松浦川クンじゃないっすか!班長殿の脱け殻見んの初めてっす」

「触っていいっすか?」と興味津々になって目を輝かせる記憶操作班員に俺は「やめろ」と顔をしかめる。
 元はと言えば、この松浦川弥生という人形も記憶操作班たちが作り上げた設定のキャラクターなわけだから記憶操作班員は産みの親になるのだろうが、やはり自分の分身を他人にどうやこうやされるのは気分がよくない。
 出来るだけさっさと処分したいところだが治癒された今、それも難しいだろう。

「記憶操作班員、君はこの子を見るのが初めてなんですか?もう一人奥にいますよ。なんなら呼んできましょうか」
「まじっすか?頼みまっす」
「おい治癒班、余計なことすんじゃねえぞ」
「私があなたのような落ちこぼれに従う理由はありません。よって、その命令は却下させていただきます」

 そう言って、治癒班長は救護室の奥へ入っていく。
 あの高飛車野郎。
 八つ当たりに記憶操作班員の肩を殴ること暫く、見覚えのある青年を連れて治癒班長は戻ってきた。
 明るい茶髪に猫目がちな目。ラフな服を着たその青年の首には『新人 目比出』と書かれたなんともちゃちな名札がぶら下がっている。
 青年、もとい目比出は俺の姿を見つけるなりパッと表情を明るくさせとてとてと近寄ってきた。と思えば、そのままぎゅっと飛び付いてくる。

「新人、こら止めなさい。なにをしているのですか」
「おーよしよし久しぶりだなー出ちゃん」

 目の敵にしている俺に甘えてくる目比出が気に入らないようだ。
 そう眉尻をつり上げる治癒班長ににやりと笑った俺は言いながら出の頭をわしわし撫でてやる。

 不死身である自分の分身を自由自在につくることができ、それらに憑依すること・独立させ人格を持たせる。それが俺の能力だ。
 つまり、前回の日暮の件で奇跡的ほぼ無傷で済んだ目比出という脱け殻は処分する前に脱け殻処分反対派のエコ集団治癒班に引き取られ、今現在出はこの組織の一員としての調教もとい育成を受けさせられているらしい。
 別に処分する手間が省けるのは嬉しかったが、わざわざ脱け殻の治療費まで俺が負担しないといけないのは頂けない。

「むむむ目比クン……!その子の設定考えたの俺なんすよ!」
「だからなんだ」
「俺にもぎゅってさせてくれたっていいじゃないっすかぁっ」

 あの意味不明なドシリアス設定、やはりこいつが考えたやつだったのか。
 なんて思いながらにじり寄ってくる記憶操作班員を追い払う。
 出は俺の背後に隠れていた。
 どうやら記憶操作班員が苦手なようだ。ざまあみろ。

「ええっ、なんで班長殿だけになついてるんすかっ!なにしたんすかっ!マインドコントロールっすか!」
「なにをまさか。自分にもなついていますよ」
「お前だけなつかれてないんだろ」

 そうとどめを刺せば「そんなぁ」と弱々しい声を上げて記憶操作班員は泣き崩れる。
 無駄に白熱した演技だった。無視した。

「新人、そろそろ監視長から離れなさい。みっともないですよ」

 子供をあやすように優しくしかりつける治癒班長。似合わない猫なで声に噴き出せば、顔を真っ赤にした治癒班長に睨まれた。
 まあ、子供には変わりないがな。
 俺の分身とは言えど、独立させれば分身の人格は設定を元に一から造り出されるわけだから精神年齢は赤子に等しい。
 見た目が青年なだけに色々ギャップがキツいが、すぐに中身が伴うようになるだろう。俺が言うのだから間違いない。

 俺から離れようとしない出に、たまたま手持ちにあった今巷で話題の菓子を治癒班長に向かって投げればあっさりと出は離れそちらに近付いた。そして治癒班長に首根っこを掴まれていた。

「では、新人を部屋に戻してきます。恐らくもうすぐそちらの脱け殻も目を覚ましますでしょうが、騒がないようにお願いします」

 そう言って小さく会釈した治癒班長はそのまま出を引き摺って再び奥へ引っ込んだ。
 脱け殻とは松浦川弥生のことだろう。どうせ治癒班長のことだ。弥生も一から育成するつもりだろう。
 お食事係が極端に少ないこの組織で、不死身である俺の不死身の脱け殻を育成するというのは一つの手段としてはいいのだろうが、俺は断固反対だった。いくら非人道的だろうと罵られようとだ。
 赤子同然な脱け殻を育成するのには人材から資金までさまざな方向に負担がかかる。
 それを治癒班長は人材は自分達、資金諸々は俺個人が負担するとかそんなこんなで上に話をつけてきた。
 即決だった。
 お陰でここ最近まともに遊びにいけない上に今回のミスだ。もう治癒班長のせいとしか思えない。

「ああ……いいっすね班長殿も治癒長殿もなんかこうリアル育成シミュレーションみたいな……俺も幼女を一から自分好みに調教したいっす。ずるいっす」

 嘆きながらさらっと気持ち悪いことを口にする記憶操作班員に「俺からしてみれば記憶操作のがよっぽど有意義なんだけどな」と言い返す。
 例えばこういうとき。俺なら仕事のポカミスを記憶操作で隠蔽するために乱用しまくるだろう。
 なんて下らない会話をしていると、不意にベッドの上の弥生が反応した。
「お?おおっ?」とアホみたいな顔してベッドに寄る記憶操作班員につられるようにして俺から弥生に目を向ける。
 弥生の薄い瞼が小さく痙攣し、うっすらと開いた。

「班長殿、起きましたよっ」

 自我を持ち、目を覚ます松浦川弥生。
 それを目の当たりにして興奮気味に記憶操作班員が声を上げたとき、服の中に仕舞っていた監視班専用携帯型通信機がぶるぶると震え出すと同時に無機質なアラーム音を響かせる。
 どうやら呼び出しがかかったようだ。

「おい記憶操作班員、弥生ちゃんに変なことすんなよ」
「俺が見境ない変質者かなにかと勘違いしてないっすか班長殿……って、呼び出しっすか?」
「ああ、ちょっと出てくる」
「了解。松浦川クンは俺に任しといてくださいっすね」

 それが心配なんだよ。とは敢えて口に出さず、俺はそのまま救護室を後にする。
 呼び出された先は班長室。各班の長たちが集まりなんやかんや話し合ったりお菓子食べたり飲み会したりするために使われる部屋だ。

 まさか班長解任とかじゃないだろうな。確かにここ最近たるんでいたがいやまさかな。
 なんてぐるぐる考えているうちにいつの間にか上層階にある班長室の前に辿り着く。
 内心冷や汗を滲ませながらその部屋の扉を開いたとき、煩いくらいのクラッカー音と『祝☆運命改良化成功』とかかれた手作り感溢れる段幕が目に入った。
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