犯罪者予備軍共

田原摩耶

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VSヤキモチ彼氏

06

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「いやーまさか天満クンを助けて記憶喪失なんて、班長殿もなかなかドラマチックな演出するっすね」
「んだよ、わりーかよ」
「いえいえ!滅相もない、褒めてるんすよ。班長殿にしてはなかなかでしたよ!」
「下っ端が上からもの言ってんじゃねえよ。当たり前だろ」

 組員寮自室。
 報告書をまとめ終わり、椅子に腰を下ろし一息吐く俺の向かい側。同様、椅子についた記憶操作班員は「流石安定の自信過剰」と笑う。相変わらずムカつく笑顔だ。
 それも束の間。

「それにしてもなんだったんすかね、あのオッサン」

 そうふと難しい顔をした記憶操作班員は「あの時間帯あそこ通る人間は全員補正掛けさせてもらったんすけどねえ」と首を捻る。
 オッサンと言われ、いきなり天満嵐の前に現れたサラリーマンを思い出す。記憶操作班員もあの男のことを言っているのだろう。

「さあな。今回は動き過ぎた分イレギュラーが発生したんだろう。俺としては渡しやすくなったし万々歳ってところだけどな」
「そのお陰で俺らは病院関係者や目撃者たちの記録改竄する羽目になったんすけどね」
「仕事増えてよかったじゃねえの」
「安月給なんてタダ働き同然じゃないっすか」

「無駄に疲れましたよもう」そう唇を尖らせる記憶操作班員。
 確かに、あの時間現れたイレギュラーはあのサラリーマンだけではなかった。もう一人、俺を轢いたトラックの運転手がいて計二名のイレギュラーが同時に現れたわけだ。
 そもそもイレギュラーなんて絶対有り得ないというわけではないがタイミングがタイミングなだけに嫌な可能性を考えてしまうが、イレギュラーの記憶改竄した記憶操作班員によるといずれも能力を持たない一般人で、本当にただのイレギュラーだったようだ。
 サラリーマンには軽いトラウマを植え付けてしまったようだが、その始末は予めイレギュラーを推定し防ぐことが出来なかった記憶操作班員に回ったようだ。
 心なしか記憶操作班員のテンションが低く感じるのはそのせいだろう。

「まあ、元気出せよ。こっちだって一気に何体も動かさなきゃで疲れたんだからお互い様だろ」

 励ましてやろうと思ったが上手い言葉が見付からず、自分でもよくわからないことを口にしてしまう。
 しかし、それだけでも記憶操作班員にとっては充分だったようだ。
 記憶操作班員は「そういやいつも一体だけでしたもんね」と納得するような顔をする。

「ついでに嬬恋クン一家を総引っ越しさせるためにご近所へ挨拶回った俺のことも褒めてくれたら嬉しいんすけど」

 そして、そう笑う記憶操作班員に「手ぇ抜いてねーだろうな」とにやにやしながら意地悪を言ってみれば「抜くわけないじゃないっすか!」と真顔で怒鳴られた。
 ちょっと気圧される。

「抜きたくても抜けませんって、これ以上減給されたらご飯食べていけませんしぃ」

 それも束の間。ひぐひぐと下手な泣き真似をする記憶操作班員。
 悲しんでいるのかはしゃいでいるのかわかりにくいやつだ。

「確かお前のやつって直接会わなきゃ意味なかったんだっけ」

 いつだっただろうか、初めて会った日、記憶操作班員が近くの通行人の頭を鷲掴むように指を突っんで能力を見せてくれたときのことを思い出す。
 面倒になったので咄嗟に話題を逸らせば、ピタリと泣き真似を止めた記憶操作班員は「そーっすよ」といつもの調子で頷く。

「直接脳味噌の海馬を弄んないといけないからもー指つりそうだしまじ辛いっす」
「ってことは俺もお前に脳味噌弄られたってことだよな。……なんかやだな、それ」
「なんすかもう、俺の技ディスんないで下さいよっ!」

「俺だってこう目を見詰めただけで催眠状態にするああいうカッコいいのがいいんすよ、俺だって」本人も不便に感じているようだ。
 そうしくしくと再び泣き真似を始める記憶操作班員にこいつ面倒臭いなと思いつつ、俺は「今のも充分カッコいいだろ」と続ける。そのときだった。

「えっ」

 またピタリと泣き真似を止めた記憶操作班員は今度は俺の顔を見てくる。
「えっ?」まさかそんな反応してくるとは思ってなくて、こちらまでつられて素っ頓狂な声を洩らしてしまった。
 まるで世界の終わりだとでもいうかのような顔で見詰めてくる記憶操作班員がなかなか不快で、「なんだよ」と舌打ち混じりで聞き返せば記憶操作班員は「いや普通に班長殿が褒めてくるもんだからなんか寒気が……」と自分の肩を抱き締めながら呟く。
 この野郎……。

「まあ、名誉挽回できて良かったじゃないっすか。これでもう天満クン、足洗えばいいんすけどね」

 そして、俺からなにか察したのかあからさまに話題を逸らしてくる記憶操作班員。
 多少ムカついたが、俺もねちねちねちねち根に持つような性格はしていない。

「心配しなくてもいいだろ、あいつはもう」

「都合がいい嬬恋冬樹のドッペルゲンガー用意したんだから殺す必要無くなるわけだからな」そう続ければ、記憶操作班員は「バレなきゃいいんすけどねえ」と心配そうな顔をしながら腕を組んで見せる。
「そのときはそんときだ」としか言えない。

「まあ、わざわざ戸籍まで変えたんだからそこは他人の空似で終わるだろう」
「流石班長殿、アバウトっす。そういうのが原因で都市伝説がバンバン増えていくわけっすね」

 人が真面目に答えてやっているというのに相変わらず減らず口な記憶操作班員に俺はむっと顔をしかめる。

「お前俺だけが悪いみたいに言うけどなあここ最近神隠しの噂、ちらほら聞くぞ」

 そう指摘すれば、すっとぼけたような顔をする記憶操作班員は「神隠しっすか」と復唱する。
 いまいちピンと来ないのか、なにを言い出すんだこいつとうとう痴呆入ってきたのかでも言いたそうな顔してこちらを見てくる記憶操作班員に俺は「ああ、神隠しだ」と頷き返した。
 すると、なにか思い出したようだ。ようやく気付いたらしい。

「そーいや俺もよく神隠しに合うっすよ。この前なんか上に届けるための書類がなーぜか神隠しにあっちゃっててー、そこの神社のところまで探しに行っちゃいましたよ」
「んなわけあるか!なにが神隠しだお前の不届きのせいに決まってるだろ!」

 と思った矢先まるでお門違いなことを言い出す記憶操作班員に堪えきれなくなった俺はそう声を張り上げる。
「班長殿声うっさいっすよぉもう、そんな怒鳴らなくても若者なんで聞こえますって」その声に反応してびくっと肩を跳ねさせた記憶操作班員はそう耳を塞ぎながらぶーぶーと唇を尖らせた。
 まるで人が若者ではないような言い方は是非やめて頂きたい。

「で?書類がっすか?」
「人の話だ、人の!」
「あーなるほど」
「あーなるほどじゃないぞ、どういうことだ。あれ程痕跡を残すなって言われてるだろうが」
「って言われてもー記憶操作班俺だけじゃないですしい」
「残念ながら全てお前の範囲だ」

 そう、先日記憶操作班長と立ち話したときに聞いた話を口にすれば顔を青くした記憶操作班員は「うっわそこまでバレてんのかよ」と声を洩らす。こいつ……。

「やる気無くすのは結構だがやることやってから無くせ。俺の仕事がしにくくなる」
「はいはいわかったんでそんなプリプリしないでくださいよぉ。治癒長殿の短気が移ったんじゃないんすか?ほら、白髪増えますよー」

 適当なことを言って都合の悪い話を流そうとしてくる記憶操作班員を睨み「生えてねえよ」と吐き捨てれば、記憶操作班員はいたずらっ子のような顔して笑った。
 そして、携帯型通信機を取り出しそれを一瞥する。

「んじゃ、俺今から出張なんでそろそろおいとまさせていただきますねえ」
「出張?ああ、嬬恋家か」
「ええ、仕事ちょーっと抜け出して来たんでそろそろ空けてたら流石にバレそうでやばいんで」
「バレろ」
「酷いっすよ、もう。あ、ここに遊びに来たことうちの班長にも秘密にしといて下さいっすねえ」
「心配しなくてもそこの監視カメラがしっかりお前を見てるから大丈夫だ」
「うわわっいつからカメラつけたんすか班長殿の部屋に!」
「この前の行動制限の件からカメラつけられてたはずだろ。お前まさか気付いてなかったのか」

 どこまでも詰めが甘い記憶操作班員に頬を緩ませた俺は、にやにやと笑いながら「精々呼び出し覚悟しとくことだな」と続ける。
「ひぃい、こんなのプライバシーの侵害っす!」そして、そう記憶操作班員が喚いたときだった。
 静まり返っていたはずの室内にアラームの音が響く。慌てて持っていた携帯型通信機に目を向ける記憶操作班員。すると、その顔からはみるみる内に血の気が引いていった。

「げっ!班長からだ……」

 噂をすればなんとやら。
 案の定記憶操作班長からお呼びだしが来たようだ。
「じゃーな、元記憶操作班員」そう笑いながらヒラヒラと手を振れば、ばつが悪そうな顔をする記憶操作班員は「縁起でもないこと言わないでくださいよ!」と吠える。
 それも束の間。鳴り止まないアラーム音に堪えきれなくなった記憶操作班員は椅子から重い腰を持ち上げた。

「……うぅ、じゃあお邪魔するっす」

 そうしょんぼりしながら自室を後にする記憶操作班員のその背中、満面の笑みを浮かべた俺は「ああ、健闘を祈る」と手を振った。
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