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VSヤキモチ彼氏
5.5
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『奇跡的命は取り止めましたが、頭を強く打ったお陰で障害が出てくるかもしれません』
『それでも、冬樹が生きてくれるなら構いません。だから……っ』
声が響く。それと、映像が。
ここはどこだろうか。
薄暗い室内。医者らしき白衣の男と向かい合う自分がいて、俺は泣きそうになりながらなにかを言っていた。
ああ、これは夢か。違う、記憶だ。昨日、医者と話した。多分その記憶なのだろう。なんのことで話したんだっけ。ああ、そうだ。確か……。
そう、思い出そうとしたときだった。不意に、頭部になにかが触れる。
そっと瞼を持ち上げれば、そこには
「ふゆ、き?」
「…………」
俺の頭部に触れていたのは冬樹の手だった。どうやら俺はいつの間にかに眠っていたようだ。
白い服を着た冬樹は目が合うと柔らかく微笑み、そしてまたくしゃりと俺の髪を撫でる。
いつもと変わらない笑み。変わったのは周りの状況だけで。擦り傷一つない冬樹は目を細め笑う。
ああ、冬樹だ。冬樹がいる。
もう二度と目を覚まさない。そう心配していた相手が今は目の前にいて、俺に触れている。
夢じゃない。そう再確認したとき、胸の奥底からどっと暖かいものが込み上げてきた。
「よかった、冬樹……っお前が死んだら俺、どうしようかと……っ」
堪らず、無意識の内に冬樹に手を伸ばした俺はそのまま冬樹の体を抱き締める。
ああ、冬樹の臭いだ。痛がるわけでもなく、受け入れてくれる冬樹は優しく俺の背中を撫でてくる。
変わらない冬樹の優しい手。暖かい。
心地よくなって、目を伏せたとき俺はあることに気付き、はっと冬樹の顔を覗き込んだ。
「冬樹、なんで黙ってるんだよ。また名前呼んでくれよ」
先程から一言も冬樹の声を聞いていない。そう冬樹にしがみついたまま懇願すれば、冬樹は寂しそうに笑った。
相変わらず、名前は呼んでくれない。
まさか。そう思って俺は目を見開いた。
嫌な予感に背筋が滲む。
「……お前、まさか喋れないのか?」
そう、恐る恐る尋ねれば冬樹は少しだけ困ったような顔をし、小さく頷いた。
一瞬、頭部を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
が、それも束の間。
「っそうか、でも、よかった。無事でよかった」
泣きそうになるのを堪え、必死に冬樹を抱き締める。
そうだ、無事なだけましなんだ。ここに、冬樹がいるだけで。
「これからはもう危ない場所にも、外にも出さないからな。ごめんな、俺のせいで……っ」
俺が階段で転ぶから、冬樹を巻き込んでしまって。
あのとき、俺が転ばなければ冬樹が声を失わずに済んだ。
終わったことだと分かっていても悔やまずにはいられず、冬樹に心配かけないようにと頑張って笑みを浮かべた顔の筋肉は引きつり、目からはじわりと涙が溢れてくる。
「責任は取るから、ちゃんと、だから、お願いだから捨てないでくれ……っ」
気が付いたら、懇願していた。みっともないとわかっていても、捨てられるのが怖かったからそう口に出して俺は冬樹に懇願していた。
抱き締める指先に力が入り、それでも冬樹は困ったように笑い、言葉の代わりに優しく俺の背中を撫でてくれる。
「……なんだよ、慰めてくれてるのか?お前、優しいな。ありがと、っ……ありがとう、冬樹……ッ」
声に涙が混じり、掠れる。それでも、言わずにはいられなかった。
「冬樹……っ好きだ、大好きだ……っ」
包み込むように回された愛しい腕に負けないくらいの強さで冬樹を抱き締める。
腕の中に収まる、逞しさとは無縁のどこか線の細い体。今はただ、それを抱き留めるのが精一杯で。
「……もう、二度と離さない」
そう、自分に言い聞かせるよう呟けば、冬樹は薄い唇の両端を吊り上げ、笑みを浮かべた。
『それでも、冬樹が生きてくれるなら構いません。だから……っ』
声が響く。それと、映像が。
ここはどこだろうか。
薄暗い室内。医者らしき白衣の男と向かい合う自分がいて、俺は泣きそうになりながらなにかを言っていた。
ああ、これは夢か。違う、記憶だ。昨日、医者と話した。多分その記憶なのだろう。なんのことで話したんだっけ。ああ、そうだ。確か……。
そう、思い出そうとしたときだった。不意に、頭部になにかが触れる。
そっと瞼を持ち上げれば、そこには
「ふゆ、き?」
「…………」
俺の頭部に触れていたのは冬樹の手だった。どうやら俺はいつの間にかに眠っていたようだ。
白い服を着た冬樹は目が合うと柔らかく微笑み、そしてまたくしゃりと俺の髪を撫でる。
いつもと変わらない笑み。変わったのは周りの状況だけで。擦り傷一つない冬樹は目を細め笑う。
ああ、冬樹だ。冬樹がいる。
もう二度と目を覚まさない。そう心配していた相手が今は目の前にいて、俺に触れている。
夢じゃない。そう再確認したとき、胸の奥底からどっと暖かいものが込み上げてきた。
「よかった、冬樹……っお前が死んだら俺、どうしようかと……っ」
堪らず、無意識の内に冬樹に手を伸ばした俺はそのまま冬樹の体を抱き締める。
ああ、冬樹の臭いだ。痛がるわけでもなく、受け入れてくれる冬樹は優しく俺の背中を撫でてくる。
変わらない冬樹の優しい手。暖かい。
心地よくなって、目を伏せたとき俺はあることに気付き、はっと冬樹の顔を覗き込んだ。
「冬樹、なんで黙ってるんだよ。また名前呼んでくれよ」
先程から一言も冬樹の声を聞いていない。そう冬樹にしがみついたまま懇願すれば、冬樹は寂しそうに笑った。
相変わらず、名前は呼んでくれない。
まさか。そう思って俺は目を見開いた。
嫌な予感に背筋が滲む。
「……お前、まさか喋れないのか?」
そう、恐る恐る尋ねれば冬樹は少しだけ困ったような顔をし、小さく頷いた。
一瞬、頭部を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
が、それも束の間。
「っそうか、でも、よかった。無事でよかった」
泣きそうになるのを堪え、必死に冬樹を抱き締める。
そうだ、無事なだけましなんだ。ここに、冬樹がいるだけで。
「これからはもう危ない場所にも、外にも出さないからな。ごめんな、俺のせいで……っ」
俺が階段で転ぶから、冬樹を巻き込んでしまって。
あのとき、俺が転ばなければ冬樹が声を失わずに済んだ。
終わったことだと分かっていても悔やまずにはいられず、冬樹に心配かけないようにと頑張って笑みを浮かべた顔の筋肉は引きつり、目からはじわりと涙が溢れてくる。
「責任は取るから、ちゃんと、だから、お願いだから捨てないでくれ……っ」
気が付いたら、懇願していた。みっともないとわかっていても、捨てられるのが怖かったからそう口に出して俺は冬樹に懇願していた。
抱き締める指先に力が入り、それでも冬樹は困ったように笑い、言葉の代わりに優しく俺の背中を撫でてくれる。
「……なんだよ、慰めてくれてるのか?お前、優しいな。ありがと、っ……ありがとう、冬樹……ッ」
声に涙が混じり、掠れる。それでも、言わずにはいられなかった。
「冬樹……っ好きだ、大好きだ……っ」
包み込むように回された愛しい腕に負けないくらいの強さで冬樹を抱き締める。
腕の中に収まる、逞しさとは無縁のどこか線の細い体。今はただ、それを抱き留めるのが精一杯で。
「……もう、二度と離さない」
そう、自分に言い聞かせるよう呟けば、冬樹は薄い唇の両端を吊り上げ、笑みを浮かべた。
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