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√α:ep.3『守りたかったもの』
12【side:志摩】
「……い……」
遠くから声が聞こえる。
せっかく人が眠っているのになんなんだ、もう少し気を使うということは出来ないのだろうか。
「おい……!」
次第に大きくなるその声。
煩いな、と舌打ちしながら寝返りを打とうとする。が、体が動かない。この窮屈な感覚には身に覚えがあった。
「おいっ!」
三度目。今度はハッキリと聞こえた。
目を開ければ、薄暗い室内。そこでようやく自分の身に起きたことを思い出す。
「齋藤」
「……おい、まだ寝惚けてんのか」
暗闇の中、どこからか聞こえてくるその呆れたような声。その腹の力が抜けたようなだるそうな声は、生徒会のいけ好かない天パ野郎だろう。
なぜ栫井平佑がここに、と思ったがすぐに理解する。まあ、自分から騒ぎでかくしたんだし自業自得だろう。
「ねえ、ここどこ」
「知らねえよ」
「あんた生徒会だろ。学園内の建物把握しとくぐらいしなよ」
「生徒会にそんな決まりはない」
「役立たず」と吐き捨てれば、「勝手に言ってろ」とご丁寧に返事が返ってきた。本当に腹立つやつだ。
もういい、栫井平佑の存在は無視しよう。
こんな役立たずと話したところで得られるものなどなにもない。ここは取り敢えず辺りを調べることを先決すべきだろう。
首は動かせるが、上半身は柱に括りつけられているみたいで、思うように動くことはできなかった。
自分の腹部に目を向ければ、どうやら縄で縛られてるようだ。下手な拘束具に比べればましだ。
なにか切れそうなものがあれば、と後ろ手にポケットを探るが、やはり取り上げられているようだ。
最悪縄一本ぐらいなら引き千切ろうと出来たのだろうが、胴、腹部、脚と何重にも縛られ柱に固定されている今首以外はろくに動かない。
――栫井の方はどうなのだろうか。
姿は見えないものの、声の位置が変わらないところを見る限りどうせ縛られているのだろうが。
無駄に動いて体力消耗したくはない。ここは一旦考えてみることにした。
学園内、部屋の中に柱がある場所なんて限られているはずだ。
まず一般教室は除外する。そして一階から最上階までの特別教室の内装を思い浮かべてみた結果――思い当たる場所はあった。
だけど、ここが仮にあそこだとしたら不可解な部分が出てきてしまう。
俺は確か、芳川知憲たちに待ち伏せされて捕まったはずだ。それで、思いっきり頭ぶん殴られて……。
そこまで考えたときだった、まるでタイミングを見計らったかのようにどこからか扉が開く音が聞こえてきた。
空気が震動する。薄暗い室内に差し込む光の眩しさに目を細めたとき。
「よお、気分はどうだ」
鼓膜にねっとりと絡みつくような不愉快極まりない低い声。
開かれた扉の向こう、逆光で影になったその長身のシルエットに『最悪だ』と口の中で呟いた。
こんなことなら芳川たちに捕まっていた方がましだ、と思ったが正直どっちもどっちだ。
「良い夢見れたか?」
そう言って笑う赤髪の男――阿賀松伊織の姿に驚きはしなかった。
ここが、四階・学生寮一人部屋だと理解した時からある程度こいつが出てくるのは想像ついていた。
想像ついていたが、だからといって喜ばしいものではなにもない。寧ろ、よりややこしくなっている現状に脳の奥が痛むのを感じた。
――齋藤、頼むから無事でいてくれよ。
そう、ここにはいない齋藤の身が気になって仕方なかった。
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