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エロ

笹山×原田で誘い受け※

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 笹山×原田
 ※駅弁/甘め/誘い受け/仲直りH


 笹山のことは好きだ。良いやつだし、優しいし、俺のこと馬鹿にしないし。けれど、けれどだ。

「さ、笹山、待って…っ」

 押し倒されればビックリするしやっぱり縦がでかい分威圧感もあるわけで。

「どうしたんですか?」

 服の中、弄っていた笹山の手が止まる。

「なっなんか、笹山……怖い……」

 恥ずかしさのあまり、テンパった俺は無意識の内にそう口にしていた。
 瞬間、笹山の笑顔が凍りつくのを俺は見た。

 思い返せば、あの日からだ。
 笹山が俺を避けるようになったのは。

 結局、あの日「ごめんなさい」って謝られて何もされなかったけど、本当はそんなつもりではなかった。
 よくあるじゃないか、嫌よ嫌よも好きの内と。
 けれど、優しい笹山はまじで俺が嫌がったと思ったようで、今更「さっきのはやっぱりなしでヤりたいです」なんて言えるほど素直な性格ではない俺はここ数日、笹山のことで頭を痛めていた。

「あ、あの、笹山!」
「どうしました?」
「教えてもらいたいことあるんだけど…」
「ああこれなら…」

 話し掛けたら普通に応えてくれる。
 けれど、その距離は余所余所しく。

「……原田さん?」
「あ、いや、なんでもないんだ。ありがとな、忙しいのに」
「いえ、これくらい気にしないでください」


 笑い、笹山はその場からそそくさと立ち去った。
 …やっぱり、避けられてる、よな。
 いつもどっか行け離れろと言っても離れようとしない翔太や兄と一緒にいたからか、こういう時、どうすればいいのかわからなかった。

 一人悶々しながら俺は仕事に戻る。


 * * *


 バイトが終わり、階段を登る。
 何時も笹山がいたからだろうか、無言で登る階段は余計長く感じた。

「はぁ……」

 俺があんなこと言ったせいだろうか。
 でも、でも、だって、仕方ないじゃないか。あんな状況で何言えばいいのかなんてわからないし。
 思い出しては溜息、それを何度か繰り返していた時だった。

「あ……原田さん」

 後方、笹山の声が聞こえてきた。
 まさか、と思い咄嗟に振り返ったときだった。

「って、のわッ!」

 つるーんと滑る足。
 声に気を取られ、見事段差を踏み外した俺。

「原田さん!」

 後方へ投げ出されそうになり、あ、死ぬ、と思った時だった。
 伸びてきた腕にしっかりと抱きとめられる。
 懐かしい、薫り。

「だ、大丈夫ですか?どこか捻ったとか打ったとか…」

 笹山だ。
 笹山が、受け止めてくれた。

「なんとか…ありがとう、笹山」
「それなら良かったです」

 まじで死ぬかと思った。まだバクバクと煩い心臓を抑える。そして、俺は自分たちの体勢に気付いた。
 傍から見れば笹山に腰を抱き締められてるようにしか見えないこの体勢に、不謹慎ながらも久し振りの密着に更に心拍数が跳ね上がる。


「ここは暗いので足元気を付けて下さいね」
「おう…」

 それも、束の間。笑って、笹山は手を離す。
 また、逃げられる。そう思い、咄嗟に俺は笹山の手を掴んだ。

「あの、笹山」

 驚いたような、笹山の目がこちらを見上げる。

「一緒に帰らないか」
「…いいんですか?」
「あ…当たり前だろ!……お前が良かったら、だけど」

 断られるだろうか。
 怖かったが、今ここで手を離して疎遠になるくらいなら。
 そう、勇気を振り絞ってゴニョゴニョ口籠れば、笹山の表情が一瞬、柔らかくなった。

「それなら、ご一緒させていただきます」


 * * *


 いつも、笹山と帰るときは他愛のない話をしていた気がする。
 料理の話とか、大学の話、バイトの話とかもしてた。
 なのに、なんだろうか。
 今、隣に笹山がいるというだけで頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。

「笹山、あの」
「どうしました?」
「い、いや…なんでもない…」
「……」
「……」

 こんな沈黙を繰り返しては、笹山を困ったように笑わせてしまう。
 本当はそんな顔を見たいわけではないのに、意識すればするほどいつも通りから掛け離れていくのがわかって、余計戸惑う。

「原田さん…」
「は、はい!」
「……ふふ、どうして敬語なんですか」
「あ…つい…」

 恥ずかしくなって、笑って誤魔化す俺に笹山はまた笑った。
 そして。

「そんなに緊張しないで下さい。…もう、原田さんが嫌がるようなことはしませんので」

 一瞬、笹山の言葉の意味が分からなかった。
「え」と凍り付く俺に、笹山は足を止めた。

「……着いちゃいましたね、原田さんと一緒にいるとあっという間です」
「…笹山…」
「名残惜しいですが、また、店で」
「笹山!」

 つい、声が大きくなってしまう。
 驚いたように目を丸くする笹山。
 自分でも驚いたが、今はそんなことに構っていられない。

「…部屋、上がっていけよ」


 * * *


「いいんですか、でも、中谷さんと一緒に住んでるんじゃ…」
「住んでるってよりも部屋一角貸してもらってるだけだから別に同居ってわけじゃない。それに、今あいつイベントに行っててこっちにいねえし」
「それなら、余計…」
「いいから、上がれよ」

 翔太に対して遠慮しているのか、俺と一緒に居たくないのか、分からない、分からないけどこのままタダで帰すわけには行かなかった。
 鍵を使い、扉を開く。翔太はいない。

「原田さん、やっぱり俺…」

 まだ何かを言おうとする笹山の胸倉を掴み、そのまま唇を塞ぐ。
 瞬間、笹山の全身が硬直するのが分かった。

「……っ」

 見開かれる笹山の目。
 恥ずかしかった、死ぬほど恥ずかしかったけど、それでも笹山から目を逸らすことは出来なかった。
 ゆっくり唇を離した俺は、笹山を睨む。

「上がれって言ってんだよ…これでも、分かんないのかよ…っ」

 形振りなんて構っていられない。
 なにか誤解してる笹山を放っておくにはいけなかった。

「…原田さん」
「ああ、もう、どうしてお前はそんなに優しいんだよ…っ!あ、あんなヤッてる時の言葉真に受けんなよ…っ知ってるだろ、俺は、お前が好きだって…」
「……」
「俺は、笹山になら、何されても…」

 良いんだよ、と言い掛けた時だった。
 伸びてきた手に、背中を抱き締められる。
 笹山、と相手を見上げようとした瞬間、重ねられる唇。

「っ、ん、んん…ッ」

 さっきとは違う、離れようとしても離れない、貪るようなキスに動けなくなる。
 一歩下がれば追い詰められて、扉から手が離れた瞬間、バタンと一人でに扉が閉まった。

「っ、ささ、やま……ッ」

 一瞬、笹山の唇が離れた瞬間、その名前を口にすれば再び唇を重ねられる。
 唇から溢れる唾液を絡め取る舌先が擽ったくて、身じろぎをすればそのまま唇を吸われる。

「ぅ……ん…っ、ふ……」

 薄暗い玄関口。
 どんどん押され、壁にまで追い詰められられてしまえば逃げる場所などどこにもなくなってしまう。
 それに、逃げる必要もないのだけれど。

 確かに背丈がある分迫力もあるのだけれど、その分あの笹山に余裕がなくなってると思えば、多少の力づくなキスも愛しく感じた。

「あ、頭打っただろうが…」
「ごめんなさい…俺、嬉しくて、原田さんがそこまで俺のことを思ってくれてるなんて思わなくて…」
「思ってるよ!俺はお前が大好きなんだよ、なんで分かんねえんだよ…っ」

 俺はどんだけ冷血漢に思われてるのだろうか。
 恥ずかしさよりもムカついて、ぱしっと笹山の胸を叩けば笹山は小さく笑って、そして寂しそうに眉尻を下げる。

「原田さんに嫌われたくないんです。……泣かせたくないし、怖い思いもさせたくない」
「そんなこと…」
「原田さんに怖いって言われた時、目の前が真っ暗になりました。…俺は、好きな人相手に自制も出来ないのかって思って」

 笹山がそこまで考えてくれていたと思わなくて、何も言えなくなる。
 言いながらも落ち込む笹山に、正直、俺は嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
 恥ずかしさと嬉しさでにやけそうになる口元を必死に引き締めていると、「でも」と笹山と目が合った。

「貴方はどんな俺でも受け入れてくれるって言ったから…」
「っさ、笹山…」

 いつもとは違う、柔らかいその笑顔に心臓の辺りがぎゅっと締め付けられる。
 ずっと、笹山の笑った顔が好きだった。
 誰にでも優しい笹山が俺にとって癒やしで、それでも、その笑顔が俺だけに向けられてると思ったら、やばい、俺はここまで笹山に惚れ込んでいたということだろうか。
 さっきまでの胸の蟠りが一気に消化され、その代わり、言葉にし難い感情が胸の奥からどっと湧き上がる。

「…いいんですね、俺は、原田さんの『嫌』と言う言葉を信じなくても」
「え、あ、あぁ…」

「原田さん」と、強請るように耳を触られ、ぞくりと背筋が震えた。

「何回も言わせるなよ…っ、俺は、お前が気持ちよくなってくれるならそれでいいんだよ…!」
「っ、原田さん…」

 笹山の顔が赤くなる。自分でもよっぽどなことを言っているのが分かっただけに余計恥ずかしかったけど、そんなこと気にしてる余裕はなかった。

 腹部、服の裾を託しあげるように中へと滑り込んできた笹山の手に、鼓動が加速する。

「笹や…っ、ちょっ、待って、まさかここで」
「ずっと、原田さんに触るのを我慢してたので…正直、場所を選んでる余裕はありません」

 確かに、笹山が良いならとは言ったけど、いつ翔太が帰ってくるのか分からないのに。
 一人動揺する俺に、笹山は「ごめんなさい」と項垂れる。
 ああ、駄目だ、この顔だ、この顔に俺は弱い。

「…いいよ、もう、好きにしろよ」

 笹山が喜んでくれるならなんでもいい。
 それ以上に、俺も俺で我慢していたのが今キテるようだ。
 今はただ、笹山のことだけを考えていたかった。

 * * *


 確かに好きにしろとはいった。
 笹山が気持ち良くなってたらいいとも言った。
 笹山のことだけを考えていたいとも言ったし、確かにその気持ちはまだしっかりとある。
 けれどだ。

「っ、ぅ、あ、や、も、指、抜いて…ッ」
「ダメですよ、ちゃんと解さないと」

 壁に押し付けられ、腹にくっつくほど曲げられた腿とその間、
 挿し込まれた数本の指に腹の中をなぞられ、大きく腰が震える。
 唾液で絡ませ、ぐちゃぐちゃに掻き回され続けてどれ程時間が経っているのだろうか。
 既に二回射精してるというのに笹山は一向に肛門を慣らすのを止めなかった。

「も、俺は大丈夫だから…っ早く…ッ」
「原田さんは堪え性がないんですね」

 そしてこの言い草だ。
 さっきまでの謙遜して俺のことを気遣ってくれていた優しい笹山はどこに入ったというのか、笑う笹山に涙を舐め取られる。
 長時間の愛撫で既にぐずぐずになっているそこは少しの刺激でも強過ぎる快感を感じるようになっていて、このままじゃやばい。本番でやばい。そう悟った俺はなんとかしようと笹山の服を掴む。

「っ、だって、俺も、久し振りだから……ッ早く、笹山としたくて……」

 今更、笹山に適当な誤魔化しは通用しないだろう。
 それならば、と腹の中でぐるぐる回る欲望を口にすれば、笹山の笑顔が引き攣った。

「……っ、原田さん、そういうこと、俺以外には言わないでくださいよ」
「当たり前、だろ……っん、ぅあッ!」

 ずぷりと音を立て、引き抜かれる三本の指。
 掻き混ぜられ、すっかり開いたそこに喪失感のようなものを感じずにはいられなかった。

「は、ぁ、…はぁ……」

 呼吸を整えていると、伸びてきた指に前髪を撫で付けられる。
 至近距離、笹山と視線がぶつかった。

「……原田さん、俺のこと好きですか?」
「す、き……大好き……っ」
「俺は、貴方が思ってる程綺麗な人間ではありませんよ」

 笹山が何が言いたいのかわからない。
 けれど、それでも俺が答えるのはただ一つだ。

「っ、それでも、お前がいいんだよ……笹山……っ」

 ふわふわとした頭の中、見失わないように、と笹山の腕にしがみつけば頭上で笹山の笑う気配がした。

「……ッふ、ふふ。……ごめんなさい、このタイミングで言わせることではありませんでしたね……けど、嬉しいです」

 そう、嬉しそうに笑う笹山。
 笹山はこのタイミングだからと言うが、それは違う。
 別に最中でなくても、確かにシラフだったらちゃんと言えないかも知らないけど、俺は何度でもそう答える。

「ささ、やま……んんッ」

 言い掛けた矢先、伸びてきた手に腰を持ち上げられる。
 浮遊感、よりも、笹山と近くなる距離が嬉しくて、咄嗟に笹山の背中に腕を回した時だった。

「っ、ふ、ぅ、んんぅッ!」

 体重とともに深く挿入される亀頭に、舌を噛みそうになる。
 散々慣らされていたお陰で大分楽だが、それでも、内壁を押し広げるように侵入してくる性器は指とは比べ物にならないくらいの質量で。

「ッぁ、や、深っ、ゆっくり、ゆっくり…ッ」
「…っそれは、もっと激しくってことでいいんですか?」
「ばかっ、ちが、ぁ、あッ、ああっ!」

 負荷を掛けないよう、笹山にしがみついて腰を動かすが、動かせば動かす程体内で先走りと唾液が絡み合い、滑るように奥へと深く入り込んでいく。

「っ、や、ぁ、あっ、うそ、待って、待っ、ぁ」

 力が抜け、ずり落ちそうになるのを笹山に抱き締められ、持ち上げられる。
 その度に中で擦れ合い、脳味噌が蕩けそうなくらい熱くなった。

「原田さん…好きです」

 大好きですと、うわ言のように呟き、笹山はキスをしてくる。
 伝わってくる熱に、鼓動に、吐息に、胸がいっぱいいっぱいになってなんだか泣きそうになった俺はそれを堪えるようにぎゅっと笹山を抱きしめた。

「ささ、やまぁ…ッ、笹山、笹山…っ」

 腹の中は相変わらず苦しいし、気持ち良すぎて、暖かすぎて辛いのに、こんなに近くで笹山といれることが幸せで、感じる圧迫感も抉られるような挿入も全部が心地いい。
 腰の動きに合わせて揺れる、勃起した性器が何度目かわからない射精をしたとき。
 しっかりと腰を抱き抱えていた笹山の腕に、力がこもる。

「っ、原田さん、締めすぎです…」
「っ、好き、俺も、笹山のこと…すきだ…っ!」
「…あぁ……もう……ッ!」

 切羽詰まったような笹山の顔が近付いたと思った瞬間、壁に押し付けるように、唇を塞がれる。

「ん、んんぅ…ッ!」
「ゆっくりしてもらいたいなら煽らないでください…お願いだから…ッ」
「っぁ、あっ、や、笹山…ッ笹山…ッ!」

 下から突き上げられる度に、何も考えられなくなる。
 振り落とされないよう、しっかりとしがみつけば、先程よりも荒くなる挿入に目の前が真っ白になり、咄嗟に「笹山」とその背中に爪を立てた。
 瞬間、微かに歪んだ笹山の表情。
 それも、一瞬のことで。

「…原田さん……っ」
「っ、ぅ、ん、んんッ!」
「原田さん…好きです…っ大好きです…」

 夢心地の中、確かに笹山の声を聞いた。
 ドクドクと脈打つ笹山の鼓動と吐き出される熱を全身で感じながら、俺は意識をぶっ飛ばした。


 * * *


「す…すみませんでした……頭に血が上ったとは言え、こんな……」
「や、良いって…俺もなんか色々したし…」
「で、でも…体、大丈夫ですか……?」
「明日明後日休む…」
「ご…ごめんなさい……!」

 あれからどれ程時間が経ったのだろう。
 どうやら気絶した俺を迎えてくれたのは青褪めた笹山だった。
 ご丁寧に後処理までしてくれたらしい笹山は俺に心底安心したような顔をして、そして。

「あの、それなら俺も明日明後日休みなので、お詫びに原田さんの身の回りの世話させていただきます!」

 そう、こんなことばかり言ってるのだ。

「や、いいよ別に」
「や、やっぱり迷惑でしたか…?」
「そ、そうじゃなくて!…お前といたら、また、変な気になりそうだから…」
「は、原田さん……!」

 元はといえば、俺が煽ったようなものだし。
 色々思い出し、余計居た堪れなくなる俺に笹山も言葉に詰まっているではないか。俺の馬鹿。

「やっぱ、今のナシ、今のナシ」
「分かりました」

 ……ん?分かりました?

「俺に任せてください」

 何が分かったのかわからないが、そう自信たっぷりにバカ真面目な顔をして言う笹山に、結局最後まで何も言えなかった。
 そして、休みを取った翌日、メイド笹山がやってきたのはまた別のお話である。

 おしまい
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