飼い犬Subの壊し方

田原摩耶

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14※

 犬みたいな交尾で、精液と汗でどろどろになった服を着替えることもできなかった。
 薄い膜に覆われたような感覚の中、ただ在ることしかできない。指一本も動かせなくなる俺を見下ろしたまま、星名は青ざめていた。
 お前は悪くない。お前のせいではない。そう言ってやりたいのに、今は口を動かす気力もない。

「……一凛」
「……っ、……」

 星名の顔を直接見れない。
 いつまで耐えればいいのか。薄暗い気持ちのまま自分の指先を見つめていたとき。足音が近付いてくる。悪趣味な自慰に耽っていた小晴は満足したような顔で星名の肩を抱く。

「心配すんな、最初は大体“こう”なる。慣れてねえやつは特にな」
「小晴……」
「言ったろ。合意にする方法教えてやるって」

 退いてろ、とそのまま星名の肩を叩き、そのまま俺に近付いてきた小晴に血の気が引く。
 伸びてきた手は俺の顎を掴む。そして、真っ直ぐにこちらを覗き込んでくる小晴。

「よ、生きてるか」
「……お、まえ」

 ……出来ることなら逃げ出したかった。
 長机の上、仰向けに倒れ込んだまま降りることすらできなかった俺の体を抱き起こす小晴。
 どの面を下げて声をかけてるのか、俺には理解できない。
 小晴はあまりにもいつもと変わらなかった。生徒会室、俺と会うと見せてくれるやけに人懐っこそうな笑みを浮かべるのだ。
 だからこそ、余計腹立たしかったし、ショックだった。

「やめ、ろ、触るな……っ」
「《動くな》」
「……っ」

 その一言に全身の筋肉が動きを止める。呼吸すらも儘らなくなり、流れ落ちていく汗を舐め取り小晴は「よく出来ました」と笑う。
 狂っている。こんなの。

「……にしても、酷い顔だな。ほら、ケアしてやる」

 やめろ、と声を上げることもできなかった。
 人の身体を抱き抱えた小晴はそのまま長椅子に腰をかける。その上、向き合うような形で膝の上に座らせられ、血の気が引く。

「っ……月夜野……」
「小晴」
「……っ、ぅ、く……」

 名前で呼べ、とはコマンドを使われなかっただけましなのかもしれない。
 伸びてきた手に内腿を撫でられ、そのまま這い上がってきた指先に奥に触れられる。散々星名に犯され、精液を注がれた肛門に。

「は……ッ」
「は、すげえ量。随分出したな、星名」

 少しでも力んだり動いただけでどろりと溢れ出す感覚が不快だった。星名に見せつけるように肛門を広げ、中に残っていた精液を掻き出す小晴にただされるがままになる。

「ああ、そうだった。……《イクなよ》、愛佐君」
「……ッ」
「俺が許可するまで我慢しろ」

 肛門を押し広げるようにして複数の指が出入りする腹の中。内壁に絡みつく精液を掻き出すように中を摩擦され、体が震える。
 射精を禁じられ、達することも禁じられ、ただ目の前が真っ暗になっていく。ただでさえ星名に犯されたせいで昂っていた全身に加えられる刺激に腰が震え、熱が下腹部に集まる。

「っ、や、ぃ、やめろ、ぉ゛……ッ」
「中、気持ちよさそうだな。ぐずぐずじゃん。星名とのセックスは気持ちよかったか?」
「……っクソ、クソ……っ」
「口が悪いなあ、愛佐君。……会長に聞かれたら怒られるんじゃないか? そんな口悪いと」

 ――菖蒲さん。
 こんなタイミングでよりによってあの人のことを口にする小晴に殺意を覚えた。
 そんな俺を見て、小晴は楽しげに喉を慣らす。それから、容赦なく前立腺を刺激した。

「っ、ふ、ぅ゛……ッ」
「ここまで腫れてるな。お陰様で弄りやすくて助かるけど」
「っ、ぁ、や、めろ……ッ! ゃ、抜け、ぬ゛、ぅ……――~~ッ!」
「《まだ》だ」
「っは、ぐ、ぅ……ッ!」
「こ、小晴……一凛、苦しそうだぞ……っ」
「違ぇよ、愛佐君は喜んでんだよ。ほら、見てみろ、これ。Subは限界まで我慢させた方がいい、簡単に得られる褒美よりも……限界の限界までたっぷりここに溜め込んだ濃いもん腹にぶち撒けられる方が脳味噌にキくんだよ」

 射精も絶頂も許されず、睾丸に溜まった熱が行場を失いひたすら下半身を熱くする。何度も性器を受け止めさせられた肛門はすでにグズグズになっていた。
 いっそのこと星名に犯されたままの方がマシだ。そう思える程、心と体をコマンドで縛り付けられる。的確に探り当てられる弱いところを何度も何度も追い詰められて刺激され、逃れることもできないままひたすら責め立てられる。

「っ、ぃ、も、むり、無理、頼む、も……ッ!」
「《まだ》だって言ってるだろ」
「っ、く、るし、小晴、ぅ゛……っ、し、ぬ゛……っ」
「大丈夫だ。これくらいで死なねえよ。ほら、腰逃がしてんじゃねえ」
「ぅ゛、あ゛……っ、う゛……ッ! い、今、触るな……っ!!」
「出せなくて苦しいよなあ。よしよし、もっと気持ちよくしてやるからな」
「っ、ひ、ぅ゛……ッ」

 睾丸を揉まれ、性器を根本から先っぽまで扱かれる。絡みつく指は菖蒲さんのものではない。内側と外側、同時に性感帯を刺激されるに連れ重ねがけされる快感に脳が悲鳴を上げる。これ以上は、まずい。痙攣を自制することもできないまま目の前の小晴の腕にしがみつき、必死に快感から逃れようとするが無意味に等しい。

「ぉ゛、ぐ、っ、ふ、……っ、ぅ゛~~……ッ!」
「……まーた泣いてんのか、泣き虫だな。愛佐君は」
「……は、ぁ、……っ、ぅ、だ、頼む゛、も、むり……っ、じぬ゛……っ」

 顎へ流れ落ちるのが鼻血なのか涙なのか汗なのか、もう自分では判断つかない。
 ガクガクと壊れたように痙攣する俺の腰を撫で、小晴は宙へと向いた俺の性器を指で跳ねた。その刺激に「ぉ゛っ」と視界が回る。倒れそうになる体を抱き締められ、小晴は俺の顔に唇を寄せる。

「《イけ》」

 その一言に鼓動が大きく響いた。そして次の瞬間、世界が白く染まる。
 限界まで張り詰め千切れかけていた糸が音を立てて千切れ、ダムが決壊し、自分のものとは思えないほど勃起していた性器から飛び散る精液が自分の顔にまで吹き掛かる。

「――ッ、ぅ゛ひ……ッ!!」

「い、一凛……?」
「おーおー、派手にイッてんな」

「ぁ゛、う、ひ、ゃ゛……っ、ゃ゛、いやだ、だめ、見るな……ッ! 見るな、ぁ゛……ッ!!」

 今まで堰き止めていた快感の波に理性ごと精子で押し流されそうになる。股を閉じることもできないまま、机の上で大きく仰け反ったまま噴き出す精液にただ絶叫のような声が響いた。唖然とする星名とそれを見て笑う小晴。短いようで、長い、今までに体験したことの無いほどの強烈な射精感に俺は暫く何も出来なかった。脳味噌まで全部チンポから流れたのではないか、そう思えるほどの喪失感と疲労感。汗だくのまま、足を開いたまま手足を投げ出す俺を小晴は抱き締める。精液で汚れることも構わず、汗で濡れた髪を掻き上げ、額に唇を押し付ける。

「よく頑張ったな」

 その一言に、大きな穴が空いたような心に無理矢理何かが捩じ込まれた。それは多幸感の顔をした別のなにかだ。防衛本能が作用し、心に巣食った何かを無理矢理幸福物質で塗り替えている。
 そうでなきゃ、有り得ない。
 歯向かうための牙ごと叩き折られたような衝撃の中、俺はただ目の前の男を見つめることしかできなかった。



「これで流れは分かったろ? 要するに、反動がデカいコマンド程ケアの効果を得られる。それを上手く使えばほら、見てみろよこいつの顔。……あんだけ嫌がってた癖になあ、可愛いもんだろ?」
「……っ、い、一凛は……大丈夫なのか? 目、目が……焦点が合ってない」
「Subも気持ち良すぎるとこうなるんだよ。こんなもんだ」
「ほ、本当……なのか?」
「ああ、本当だ。星名、お前もコマンド使う時は覚えといた方がいい。せっかくSランクのSwitchなんだからな、楽しめよ」

 聞こえてくるその声は悪魔の囁きかなにかにしか聞こえなかった。
 ぬぷ、と音を立てて引き抜かれる指にぶるりと体が震える。指の関節が少し引っかかっただけで甘勃ちしたままの性器からはぴゅっと残っていた精液が漏れ、それを見て小晴は鼻で笑った。

「アフターケアは俺がやっとくから、ほら星名。お前は気にしなくていいぞ」
「でも、……」
「まあお前はDomに切り替わったばっかだし、箱入りだっていうからな。ま、仕方ねえよな、戸惑っても。……けど、Subってのはこういうもんだ。しっかり使ってやらねえと可哀想だろ?」
「……っ、小晴……」
「《帰れ》」

 ……この男。
 星名へのコマンドにこちらの脳までも反応しそうになる。星名はびくりと肩を跳ねさせ、そして青い顔のまま視聴覚室を出ていった。
 この状況が最悪であることには変わりないが、その星名の行動は正しい。コマンドを乱用、悪用するやつからは逃げた方がいい。
 そして、出来ることなら俺も逃げ出したかった。

「……」

 二人きりになった視聴覚室の中。ビクビクと未だ余韻の残った下腹部を撫でられる。

「まだ震えてるな」
「……っ、さ、わるな……」
「まだそんなこと言えるのか。大したもんだな、さっきまであんなに震えてたってのに」

 嘘吐き。クソ暴漢野郎。捕まれ。
 言いたいことは色々あったのに、小晴に見つめられるだけで全身が竦む。見えない首輪を強く引っ張られるような恐怖が胸の奥に芽生えていた。
 負けては駄目だ。そう思うのに、目の前の男が俺の知らない男に見えて仕方ないのだ。

「っ、ぉ……おれが」
「ん?」
「俺が、お前の誘いを……断ったからか?」

 少なくとも昨日、俺と菖蒲さんの関係を知ったこいつがこんなことをするような男とは思わなかった。断って正解だったと思う反面、あれの腹いせのつもりかとも思えたのだ。
 小晴は軽薄な笑みを顔面に貼り付けたまま続ける。

「言ったろ、今回は星名の教育だって」
「こんなこと……」
「それと、お前がSubだから」
「――……っ」

 Subを下に見る人間は、いる。
 命令をすればなんでも言うことを聞く都合のいい奴隷だと思ってる連中も、いるのだ。
 それがこの男だとは思いたくなかった。少なからず、今まで生徒会で同じ仲間としてよくも悪くも対等に扱ってくれたこの男が。

「……っ、俺のことが気に入らないなら、そう言えばよかっただろ」
「誰がいつ、お前のことが気に食わねえなんて言ったよ」

 伸びてきた指は腹の上に飛び散った精液を拭い、引き伸ばす。その仕草一つに体が緊張した。

「……こ、は……」
「寧ろ、その逆。お前のことはこう見えてけっこー気に入ってたんだぞ」

「ほら、見てみろ」と手を掴まれ、そのまま自分の下半身へと手を持っていく小晴に凍りつく。手を離そうとしても小晴はそれを許さなかった。一目で分かるほど勃起し、限界まで膨らんだそこを俺の指ごと握り込まれる。スラックス越しに熱までも伝わってくるようだった。

「……や、めろ……っ!」
「これ、お前のせいな」
「へ、んたい、異常者、う、訴えて……」
「警察でも呼ぶか? この場合、星名のやつも共犯になるかもな。あいつの方がここ、使ったわけだし」

 ここ、と閉じることもできなかった股の奥を指先で撫でられ、ひくりと震える。激しい抽送で捲れ上がった内壁を撫でる小晴。悪びれた様子もなく笑うやつにガツンと頭が殴られるようなショックを覚える。

「……馬鹿真面目なやつ」
「っ、クソ野郎……最初から、そのために……」
「おいおい、人聞きが悪いな。言ったろ? 俺は善意だって。あいつにだってちゃんとDomのなんたるかは教えたわけだし」

 何かが噛み合わない。小晴が生粋のDomだからとか、そんなことではない。根本が掛け違っている。

「けどまあ、もうあいつを巻き込みたくねえって言ったって無理だろうけどな」
「なにがしたいんだ、お前は……」

 震える喉を無理矢理動かし言葉を振り絞る。こちらを振り向いた小晴は目を細め、口角を釣り上げる。それはいつもの軽薄な笑みとは違う、ゾッとするほど冷ややかな笑顔だった。

「――復讐」
「……え」

 聞き間違い、ではないはずだ。
 固まる俺。瞬きをした一瞬で小晴はいつもの薄っぺらい笑顔に戻っていた。

「なーんてな。……理由がなんであろうと、お前は納得できないだろ。俺も別にお前の理解は求めてない。俺がDomでお前がSubだから、それでいいだろ」
「……」
「そのままじゃ教室に帰れないだろ? 星名にも約束したし、ちゃんと責任持って寮まで連れて帰ってやるよ」
「…………いい」
「……」
「もう、いい。……お前の顔、見たくない」

 またコマンドで無理矢理言うこと聞かされるかもしれない。分かってても、口にせずにはいられなかった。
 けれど小晴の反応は意外なものだった。

「……ああ、そ。じゃ、ここの鍵渡しとくな。今日はここ、使う予定ないから好きなだけゆっくりしていけよ」
「……」

 あっさりと俺から離れ、そのまま視聴覚室を出ていく小晴。そして、思い出したように小晴はこちらを振り返る。

「また遊ぼうな、愛佐君」

 クソ野郎、と口の中で吐き捨て、俺は応える代わりに目を瞑った。
 ……クソ野郎。
 ズタズタに犯された体よりも、心臓が痛い。ほんの少しでもあいつにも良いところがある、そう思っていた自分にすら吐き気を覚えた。
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