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「あは、かわいそ。愛ちゃん震えっぱなしじゃん」
「そんなにビビんなくてもなんもしねえよ。なあ、まよ」
「こはの日頃の行いのせい~。ね、愛ちゃん。心配して着いて来てよかったよ」
……なんなんだ、この状況は。
双子に教室から連れ出されたと思えば、そのまま食堂の生徒会専用のフロアまで引っ張られてきたまではまだいい。下のフロアには一般生徒もいて、そんな状況で大人数がけのソファーでわざわざ両サイド固めてくる双子に板挟みになっていた。
目の前にはこれでもかと言うほど苺が盛られたパフェが一つ。そのクリームの部分をスプーンでひと掬いし、真夜はそれをこちらへと差し出してきた。
「ほら、愛ちゃんの好きなパフェだぞ。あーん」
「……っ、いらない」
「ええ? なんで? 美味いのに」
溢れちゃうよ、と残念そうな顔をし、そのまま真夜は自分で食っていた。
「ん、うま~」と頬を綻ばせる真夜を一瞥し、そのまま小晴はこちらへと視線を流してくる。
「まだ臍曲げてんのか、愛佐君」
「……っ」
あんだけのことをしておいてまだだと?
頭に来たが、それこそやつの思うツボだ。俺は無言で小晴を睨む。
「何が目的だ」
「目的? ただ昼飯食おうってだけじゃん」
「……復讐と言っていたな」
「え? こは、そんなこと言ってたんだ」
「あんなの真に受けてたのか? 馬鹿正直なやつだな。将来悪い大人に騙されねえよう気をつけろよ」
「そーそー、愛ちゃん。小晴っていい加減なことばっか言うから気をつけな」
のらりくらりと躱され、芯のある回答は何も返ってこない。
何を企んでるんだ、こいつらは。本当にこんな味のしない昼食のために俺を呼び出したとは到底思えない。
「用がないんだったら俺は失礼させてもらう。……食事は済んだ」
「はは、愛ちゃん食事って、もしかしてそのグラスの水のこと言ってる?」
「せめて腹に溜まるもん食えよ。午後腹減るぞ」
「いらん」
お前らの顔を見て食欲なんて沸くはずもない。
このまま絡まれるくらいならさっさと逃げた方がましだ。そう立ち上がろうとして、「《待てよ》」と頭に小晴の声が響く。瞬間持ち上げかけた腰から力が抜け、そのままストンとソファーに落ちる。
「そう避けなくてもいいだろ、愛佐君。俺らの仲なんだし?」
「こは~、いきなりコマンドは駄目だって。ごめんな、愛ちゃん」
左右から伸びてくる手に太腿を掴まれ、思わず前屈みになる。「触るな」とその手を振り払いたいのに、体は《待て》のまま動けない。
凍り付く俺の体を抱き寄せ、真夜は耳元で笑う。
「昨日も小晴に虐められたんだって? 聞いたよ。こいつろくにケアしねえから心配してたんだよね、愛ちゃんのこと」
小晴と同じ顔、同じ声帯のはずなのに、真夜の声は一層甘く響く。緊張と不安でドクドクと脈打つ心臓を優しく鷲掴みにされ、締め上げられるようなそんな嫌な感覚だ。
「ああ――《喋っていいよ》」
「……っ、月夜野……」
「真夜」
「……ま、よる」
「やっと俺の名前呼んでくれたな、愛ちゃん」
体を抱き締められ、そのまま頭を撫でられる。大して親しくもない相手だ、不快感の方が強いはずなのに体の緊張が緩くなっていく。小晴がいるからか、相対的効果なのかは不明だが思いの外真夜の手つきは優しいのだ。小晴と違い。
それに余計困惑した。菖蒲さんと似たような優しい手つきで俺の頭を撫で、笑う。
「はは、とろんとしてるなあ、愛ちゃん。……かわいー」
「っ、さ、わるな……っ!」
「こは、どんだけ酷いことしたんだよ。愛ちゃんビクビクしてて可哀想じゃん」
「別に? ただコマンド使っただけだって、何個か」
「嘘だあ」
「なら再現するか? 愛佐君」
今度は反対側から伸びてきた手に顎を掴まれ、無理矢理小晴の方を振り向かされた。俺のことをなんとも思っていない、その冷ややかな目に体が竦む。それは真夜にも伝わったらしい、「こーはー」とやんわりと咎めるように真夜はその手を振り払った。
小晴は怒るわけでもなく、「はいはい」と肩を竦める。それから飲みかけのコーヒーに口をつけた。
助けて、くれたのか?
益々目的が分からず、困惑しながら真夜を見上げる。目が合い、そのまま真夜は頬をくっつけてくるのだ。ふに、と軽く唇が触れ合う。キス、というよりも、まるで犬に鼻先を押し付けられてるみたいな感覚だった。
「っ、ま、よる……」
「愛ちゃん、《俺の目を見て》」
「……っ、……」
ドクン、と鼓動が弾む。視線を持ち上げれば、目が合って真夜は「よく出来ました」と微笑む。まずい、これは。
握り締めた掌に汗が滲む。鼓動が緩やかになる代わりに、別の緊張が過った。
「……愛ちゃんがSubだってもっと早く知ってたら、俺、大事~にしてあげたのになあ」
膝の上、掌を重ねるように手を握られ、囁かれる声はじんわりと脳へと広がっていくようだった。甘い猛毒みたいに、ゆっくりと。
「愛ちゃん、《手、握って》?」
逃げられない。言われるがまま指先は勝手に動き、重ねられた真夜の手に指を絡める。
「嬉しいな、愛ちゃんから手を握ってくれるの」
お前がコマンド使うからだ、と睨みつけるが、真夜には一切通用しない。それどころか寧ろ嬉しそうに目を細め、さらに真夜はもう片方の手で俺の手を握りしめる。
「愛ちゃんの指、可愛いね」
「っ、……」
「ちっさくて硬くて、頑張り屋の手」
「…………っ」
「爪の形もいいし――」
「……さ、わるな……っ」
「……は、真っ赤。褒められるのには慣れてないんだ?」
「ちが、ぉ、お前が、変なことばっかり……」
「変なこと? 愛ちゃんのいいところを褒めてるだけなのに?」
あっけらかんと堪える真夜に、隣にいた小晴はくすくすと笑う。調子が狂う。ペースも乱れる。
小晴と同じ顔をして甘ったるい声と目で俺を追い詰めてくるこの男が恐ろしかった。
そして、俺の逆らえないSubの部分をぐずぐずに溶かしてくる目の前の男が――。
「まよ、言っとくけど俺よりお前の方が愛佐君にとっては質悪いだろ」
「こは、お前は黙ってて」
「はーい」
なんなんだ、と呆れてる俺の手をきゅっと握り締めたまま真夜は俺の指先にキスをする。その仕草、押し付けられる唇の熱に全身がびくりと震えた。
「怖がらないで。……俺はSubが好きなだけ。特に愛ちゃんみたいな頑張り屋さんなSub見てると特にさ、堪んなくなっちゃうんだよな」
「『俺たちは』だろ?」
「悪いけど、これに関しては小晴と一緒にして欲しくねえんだよな。……なあ、愛ちゃん」
熱い掌に包み込まれ、体を動かすことも出来なかった。逃げなければ、と思うのに、全身を雁字搦めにされたみたいに動かない。
騙されるな。こいつは小晴の片割れだ。
そう思うのに、真夜の目はどこまでも優しくて戸惑う。――まるで、菖蒲さんみたいな。
「あはっ。……かわい」
「――っ、い、うな」
「んー? ……甘やかされるのは嫌い?」
「……っ、真夜」
「そんなわけないよな? Subはみーんな好きだよな、Domに愛されるの」
手、手首、肩へと上がってきた真夜の手はそのまま俺の胸へと伸びる。ブレザーの襟を開き、そのままシャツ越しに胸へと触れる真夜に凍りついた。
「どこ、触って……」
「ほら、聞こえてくる。ドクドクって、愛ちゃんの喜んでる声」
「……っ、ちが……お、お前が……変なことばっかり言うから……ッ、ぅ……」
不意に胸の上を滑っていた真夜の指に乳首を掠められ、息を飲む。真夜の腕を払い除けようとするが、ろくに力が入らない。
「変なこと?」
長い指はわざと乳首を避けるように周辺をすり、と撫では離れ、その度に視線を泳がせる俺を見て二人は笑い声を堪らえようともしなかった。
「変なことって、例えばどんな?」
「まよ、お前人のこと言えないからな」
「やめろ。こはとは違うだろ、俺のは。ただ愛ちゃんをよしよししてるだけだっての」
ふざけるな、と逃げ出したいのに。
「《そのまま》」
頭に響くコマンドに、全身の筋肉が一斉に動きを止める。まるで真夜の許可を求めるように、びたりと。
――動け。
そう何度も抗おうと思うのに、更に体の言うことが聞かなくなっている。
動け。動け。
何度も念じたとき、伸びてきた真夜の手にそのまま背後から抱き締められた。
「……《いい子》だ」
そのたった一言に頭が痺れ、多幸感が脳を浸していく。危機管理をする部分を蜜で満たされていくような危険な予兆を全身で覚えながらも、逃げられなかった。
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