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その日はそのまま真っ直ぐに教室へと戻る。
それから真面目に授業を受け、放課後になるなり真っ直ぐに学生寮へと戻った。
今は誰にも会いたくない、というのが近いかもしれない。生徒会の仕事もなければ別に引き止めるようなやつもいない……はずだ。もう。
「……」
今頃、別の誰かが星名の面倒を見てくれていることだろう。
俺から世話係は断ったのだからもう気にする必要はないと分かってても、どうしても油断するとあいつが教室まで来るのではないかと身構えてしまう。そのとき、自分がどんな反応するのかも分からない。
これ以上何かに掻き乱されたくはない。
とにかく逃げたかったのだろう、俺は。
まだ空いてる食堂で飯を腹に詰め込み、さっさと自室へと駆け込む。
きっと数日も経てば元に戻るはずだ。人間は適応する生き物であり、そういう風に出来ている。
自分に言い聞かせるように繰り返しながら、俺はそのままベッドへと飛び込んだ。
……クソ、真夜の甘ったるい匂いがする。消臭剤、買っておかなきゃ……。
そんなことを思いながら目を瞑りうつらうつらとする。少し仮眠して、起きたらシャワーを浴びよう。
そんなことを考えながら。
それから夜。
一時間程仮眠していたとき、突然扉がドンドンと叩かれる。
「……んぅ……なんだ……?」
一応まだ消灯時間ではないが、俺の部屋に来るやつなど限られている。
なんとなく嫌な予感がして、そのまま布団に包まって気づかなかったフリでもしようとするが一向に扉を叩く音は止まない。このままでは両サイドや他の部屋にまで迷惑がかかるだろう。
渋々体を起こし、さっと寝癖と服のよれだけ直して俺は玄関口へと向かった。
そしてレンズを覗き込めば案の定星名の姿があった。角度から表情はよく見えなかったが、間違いない。
「……」
深呼吸。なるべく平静を保ちつつ俺は渋々扉を開いた。……もちろん、チェーンを着けたまま。
「……何の用だ」
「……っ、一凛……っ!」
「声がデカい。抑えろ。……周りに迷惑が掛かるだろ」
「だってお前が無視するから……」
「寝てたんだ、……今起きた」
「そ、うか。……具合が悪いんだったっけ? 体は大丈夫なのか?」
……てっきり俺は星名が怒鳴り込んでくるものかと思っていた。ただでさえ喧嘩別れしたばかりだったからだ。
けれど、星名はまだ俺のことを心配してるらしい。
「平気だ。……それより、そんなことのためにわざわざ来たのか」
「そんなことって……」
「……」
……もしかして、まだ会長から何も聞いていないのか。
だとすれば少し面倒だった。会長に任せておくと伝えていた手前、俺から余計なことを言ってはややこしくなることは分かりきっていた。
「じゃあもういいか。……休みたいんだ」
「一凛、俺……」
星名が何かを言いかける前に扉を閉める。
このままあいつと話しているとまた具合が悪くなりそうだったからだ。強引に話を切り上げれば、今度は扉を叩かれることはなかった。諦めたのかも知れない。それとも、誰かに注意されたか。
……どちらにせよ、もう俺には関係ないことだ。
それからシャワーを浴びて頭をスッキリさせる。中途半端に眠ってしまったお陰で二度寝は出来なさそうだが、直に眠れるだろう。
それから暫く、消灯時間が過ぎた頃。喉が乾いて俺は冷蔵庫を開いた。そして中身が空になっていたことを思い出す。
ここ数日、部屋に引き籠もりっぱなしだったせいだ。この時間でも自販機は動いていたはずだ。俺は財布代わりの生徒手帳を手に、ラウンジへと向かおうと自室の扉を開いた。
真っ暗な通路、その奥に黒い影を見つけた思わず声が出そうになる。
「……っ、な、んで……っ!」
「《声を上げるな》」
「……ッ!」
なんでお前、いるんだ。
そう口に出すよりも先に、投げかけられたコマンドにより喉がきゅっと締まる。首を絞められるような閉塞感、頭に血が上っていくのが分かった。
首を押さえ、咄嗟に扉を閉めて部屋へと逃げようとするが、間に合わなかった。
「《動くな》……だっけ? ……はは、すげえよな、これ。あんなに意地っ張りだった一凛が簡単に言うこと聞いちゃうんだもん」
あいつは、星名は笑っていた。それから扉を開き、そのまま部屋の中へと入ってくる。
玄関口、蹲ったまま動けなくなる俺の目の前に座り込み、視線を合わせてくる。薄暗い部屋の中、あいつの顔はやはりよく見えない。
「……さっき聞いた。てか、海陽と小晴が話してたのだけど……なに、俺の世話係から外れるとか。もう会わせるなとか、それ。……いきなりすぎるよな」
「……ッ、……」
「……一凛、俺なんかしたっけ? お前の嫌がるようなこと……言ってくれねえと分かんねえよ、俺、そういうの苦手だからさ」
こういうところだ。あんだけ言ったのに、所構わずコマンドを行使するところ。
結局なんも分かっちゃいないのだ、こいつは。
「……ああ、そっか。……《喋っていいぞ》」
「っ、お前、どういうつもりだ……!! こんな、待ち伏せみたいな真似……っ!」
「みたいなってか、……待ち伏せ。だってお前何度ノックしても出てこねえし、俺が直接会いに行っても避けると思ったから」
「……っ」
「実際そうだったろ? ……こんな時間に出てくるなんて何だって思ったけど……よかった。流石に朝までずっとだったら俺も寝落ちちゃいそうだったから」
今度こそ言葉を失った。まるで何が悪いんだとでも言うかのような口振りにただ背筋が凍り付く。今すぐにでもこいつを部屋から追い出したかったのに、未だ《動いていい》の許可は出されていない。
それから真面目に授業を受け、放課後になるなり真っ直ぐに学生寮へと戻った。
今は誰にも会いたくない、というのが近いかもしれない。生徒会の仕事もなければ別に引き止めるようなやつもいない……はずだ。もう。
「……」
今頃、別の誰かが星名の面倒を見てくれていることだろう。
俺から世話係は断ったのだからもう気にする必要はないと分かってても、どうしても油断するとあいつが教室まで来るのではないかと身構えてしまう。そのとき、自分がどんな反応するのかも分からない。
これ以上何かに掻き乱されたくはない。
とにかく逃げたかったのだろう、俺は。
まだ空いてる食堂で飯を腹に詰め込み、さっさと自室へと駆け込む。
きっと数日も経てば元に戻るはずだ。人間は適応する生き物であり、そういう風に出来ている。
自分に言い聞かせるように繰り返しながら、俺はそのままベッドへと飛び込んだ。
……クソ、真夜の甘ったるい匂いがする。消臭剤、買っておかなきゃ……。
そんなことを思いながら目を瞑りうつらうつらとする。少し仮眠して、起きたらシャワーを浴びよう。
そんなことを考えながら。
それから夜。
一時間程仮眠していたとき、突然扉がドンドンと叩かれる。
「……んぅ……なんだ……?」
一応まだ消灯時間ではないが、俺の部屋に来るやつなど限られている。
なんとなく嫌な予感がして、そのまま布団に包まって気づかなかったフリでもしようとするが一向に扉を叩く音は止まない。このままでは両サイドや他の部屋にまで迷惑がかかるだろう。
渋々体を起こし、さっと寝癖と服のよれだけ直して俺は玄関口へと向かった。
そしてレンズを覗き込めば案の定星名の姿があった。角度から表情はよく見えなかったが、間違いない。
「……」
深呼吸。なるべく平静を保ちつつ俺は渋々扉を開いた。……もちろん、チェーンを着けたまま。
「……何の用だ」
「……っ、一凛……っ!」
「声がデカい。抑えろ。……周りに迷惑が掛かるだろ」
「だってお前が無視するから……」
「寝てたんだ、……今起きた」
「そ、うか。……具合が悪いんだったっけ? 体は大丈夫なのか?」
……てっきり俺は星名が怒鳴り込んでくるものかと思っていた。ただでさえ喧嘩別れしたばかりだったからだ。
けれど、星名はまだ俺のことを心配してるらしい。
「平気だ。……それより、そんなことのためにわざわざ来たのか」
「そんなことって……」
「……」
……もしかして、まだ会長から何も聞いていないのか。
だとすれば少し面倒だった。会長に任せておくと伝えていた手前、俺から余計なことを言ってはややこしくなることは分かりきっていた。
「じゃあもういいか。……休みたいんだ」
「一凛、俺……」
星名が何かを言いかける前に扉を閉める。
このままあいつと話しているとまた具合が悪くなりそうだったからだ。強引に話を切り上げれば、今度は扉を叩かれることはなかった。諦めたのかも知れない。それとも、誰かに注意されたか。
……どちらにせよ、もう俺には関係ないことだ。
それからシャワーを浴びて頭をスッキリさせる。中途半端に眠ってしまったお陰で二度寝は出来なさそうだが、直に眠れるだろう。
それから暫く、消灯時間が過ぎた頃。喉が乾いて俺は冷蔵庫を開いた。そして中身が空になっていたことを思い出す。
ここ数日、部屋に引き籠もりっぱなしだったせいだ。この時間でも自販機は動いていたはずだ。俺は財布代わりの生徒手帳を手に、ラウンジへと向かおうと自室の扉を開いた。
真っ暗な通路、その奥に黒い影を見つけた思わず声が出そうになる。
「……っ、な、んで……っ!」
「《声を上げるな》」
「……ッ!」
なんでお前、いるんだ。
そう口に出すよりも先に、投げかけられたコマンドにより喉がきゅっと締まる。首を絞められるような閉塞感、頭に血が上っていくのが分かった。
首を押さえ、咄嗟に扉を閉めて部屋へと逃げようとするが、間に合わなかった。
「《動くな》……だっけ? ……はは、すげえよな、これ。あんなに意地っ張りだった一凛が簡単に言うこと聞いちゃうんだもん」
あいつは、星名は笑っていた。それから扉を開き、そのまま部屋の中へと入ってくる。
玄関口、蹲ったまま動けなくなる俺の目の前に座り込み、視線を合わせてくる。薄暗い部屋の中、あいつの顔はやはりよく見えない。
「……さっき聞いた。てか、海陽と小晴が話してたのだけど……なに、俺の世話係から外れるとか。もう会わせるなとか、それ。……いきなりすぎるよな」
「……ッ、……」
「……一凛、俺なんかしたっけ? お前の嫌がるようなこと……言ってくれねえと分かんねえよ、俺、そういうの苦手だからさ」
こういうところだ。あんだけ言ったのに、所構わずコマンドを行使するところ。
結局なんも分かっちゃいないのだ、こいつは。
「……ああ、そっか。……《喋っていいぞ》」
「っ、お前、どういうつもりだ……!! こんな、待ち伏せみたいな真似……っ!」
「みたいなってか、……待ち伏せ。だってお前何度ノックしても出てこねえし、俺が直接会いに行っても避けると思ったから」
「……っ」
「実際そうだったろ? ……こんな時間に出てくるなんて何だって思ったけど……よかった。流石に朝までずっとだったら俺も寝落ちちゃいそうだったから」
今度こそ言葉を失った。まるで何が悪いんだとでも言うかのような口振りにただ背筋が凍り付く。今すぐにでもこいつを部屋から追い出したかったのに、未だ《動いていい》の許可は出されていない。
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