飼い犬Subの壊し方

田原摩耶

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 逃げなければ。逃げて、助けを求めなければ。
 そう思うのに体は思うように動かない。

「……っ、一凛……」

 吐息の近さ、体に触れる手のひらの熱さにただ吐き気が止まらなかった。なのに、受け入れることしか出来ない。
 開かされる腿の間、穴を探るように押し付けられる亀頭に体が震える。思い出したくもない記憶が一気に溢れ出し、混乱する。それでも、暴れることもできない。正常で居られるはずがなかった。

「ふ、ぅ……っ」

 先走りで濡れた肉の塊で尻の穴を擦られ、そのままゆっくりと入ってこようとする性器に瞼裏が白く染まっていく。吐き気にも似た圧迫感が喉元まで迫り上がってきて、そんなことも気にせず星名は腰を動かすのだ。
 真夜の時とは違う、稚拙で本能のまま動くような乱暴な抽送に声すら上げることもできない。乾いた粘膜は摩擦される度に走るのは間違いなく痛みだ。なのに、散々真夜に刷り込まれた体はそれを誤認する。

「っは、……ぁ、……っ!」

 ――Dom犯されることがSubの喜びである。

 違う。

「っ、ぅ、ん、く……ッ」
「……っ、一凛、一凛……っ、逃げんなよ」
「は……っ、ぅ、くひ……ッ!」

 腹の奥、詰め込まれる肉の塊がみちみちと大きくなっていく。肥大したで閉じた奥を摩擦される度に喉の奥から断続的な声が漏れる。意思を持った言葉でなければ発せれるというのか、などと現実逃避をすることしかできない。

 何故こんなことになってるのか。何故こんな目に遭わなければならないのか。

 目の前、覆い被さっては腰を打ちつけてくる男にただされるがままになるしかない。
 こんなの暴力の延長線、屈辱的な行為でしかないはずなのに、「一凛」と名前を呼ばれ、腰を打ちつけられる度に脳の後ろの方にじんわりと熱が広がっていく。真夜に抱かれた時と同じ、嫌な感覚。本来ならば感じるべきではないはずの、幸福感。

「は、……っ、ぅ、あ……ッ」

 性器の裏側を反り返った竿とカリで引っ掻かれた瞬間、開いた喉からはぞっとする程の声が溢れる。自分でも青ざめた時、ぴたりと星名は動きを止める。そして、俺の顔を舐めるように見つめた。

「……っ、一凛……ここ、気持ちいいのか?」
「っ、は、……ぅ、……っ」
「《答えろよ》、一凛」
「………………っ、ち、が……っ、ん、ぁ……っ」
「《答えろ》」

 やめろ、コマンドをかけるな。
 そう思うのに、びっちりと詰まった性器が内壁を擦り上げる度に反応してしまう。
 気持ち悪い、苦しい、こんなの。全然。

「……っ、一凛? 《気持ちいいって言え》」

 こいつ、と抵抗する暇もなかった。腰を持ち上げられ、更に深くまで入ってくるそれに奥をこじ開けられ喉が開く。空気を取り込もうとした拍子に、喉の奥から自分のものとは思えない声が漏れた。

「っ、ぁ、き、きもち、ぃ……っ」
「……は、お前、まじでなんでも言うのな。一凛……っ」
「く、ひ……っ! ゃ、ぐ……っ、う、ぁ、きもち、ぃ……っ!」
「そっか、気持ちいいのか……っ? ゲロ吐くまで嫌がってた癖に、最初から素直になれっての……っ!」
「く、ぅ……っ! は、ぁ……きもちい、……っ、わけ、……っ、ぐ……っひ、ぅ゛……ッ!」
「……っは、じゃ、《気持ちいい以外禁止》な」
「っ、……ッ」

 星名、お前。
 睨む暇もなく、性器で前立腺ごと乱暴に潰され頭の中が真っ白に染まる。
 息苦しさと苦痛と快感と幸福感、自分の感情とコマンドに与えられる強制的な感情が混ざり合い、どれが自分かすらもわからなくなる。性器で頭の中まで掻き回されてるみたいに訳わからなくなり、ただひたすら開いた口からは自分のものと思えない女みたいな声が漏れる。気持ちいい、気持ちいい、と繰り返すことしかできなくなる俺を見て星名は憐れむような、可哀想なものを見るような目で笑った。

「……っ、く、はは……本当……すげえよな、これ。まるでお前じゃないみたいだ、一凛……っ」
「は、ぁ、……っ、あ、きもち、ぃ……」
「けど、そうやってるお前も可愛いよ。……俺のこと嫌いとか言ってたお前よりも、ずっとさ」
「……ッ、……ぁ、く、ひ……っ」
「ん、は、一凛、俺……もうイキそ……っ」

 まるで他人同士の性行為を俯瞰して見てるような感覚の中、肌を打つ感触と粘膜越しに混ざり合う熱だけはリアルだった。
「キス」と強請る星名に首を動かして拒否しようとするが、そんな力すらも残っていなかった。噛み付くように唇を塞がれ、唾液で溢れていた口内を舐られる。絡みつく舌先に噛み付くこともできないまま、内壁で激しく脈打つそれを根本奥深くまで咥えさせられる。

「っ、ん、ふ……っ、ぅ……んん……っ!」
「……っ、一凛……、お前がSubでよかったよ」

 目の前で星名が笑う。そしてそのまま体を抱き締められたとき、ドクンと中で性器が脈打つ。体内、下腹部に広がる熱から必死に逃れようと背筋を伸ばすが、腰に絡みついた星名の腕は俺を逃してはくれなかった。

「は、ぁ……っ、く……っ!」

 脈動が伝わる。流れ込んでくる精液を感じながら胸が満ちていく。こんなことは間違っている。違う。気持ちいいはずがない。よくあるはずがないのに、ぶる、と跳ねた己の性器から噴き出す精液を腹で浴びながら俺はただ目の前の光景を眺めていた。

「っ、は、……一緒にイけたな。気持ちよかったか? 一凛」
「……きもち、いい」
「違うだろ、一凛。……こう言う時は《気持ちよかった》って言うんだ」
「…………気持ち、よかった」
「そっか、じゃあこれで俺たち『仲直り』だよな」

 この男は何を言ってるんだ。
 俺の口も何を言ってるんだ。

 まるでストーリーの破綻した映画を観てるような不快感を抱えたまま、目の前の光景は続いていく。
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