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――終わった。全て。
「テメェ……!!」
聞こえてきた声が星名の声だと気付いたが、顔を上げることはできなかった。
血の気が引いていく頭の中、伸びてきた手に腕を掴まれる。そして、そのまま背負うように体を起こされた。
「まだ体調悪いんだろ。……部屋に行くぞ」
「……っ、せん、ぱい……」
星名が。星名を、止めないと。
そう思うのに、思っている以上に俺はパニックになっているようだ。渋滞を起こす思考回路。
「黙っていろ」とだけ小さく口にした海陽先輩に、俺は何も言えなかった。
何事かと集まってくる野次馬の中、「おら、散れ散れ~~」と気の抜けるような小晴の声が聞こえてきた。
結局その場がどうなったかを気にする暇もなく、俺は海陽先輩に連れられ自室へと連れ帰らされることになる。
「なんか転校生が暴れてるんだって」
「なんで?」
「でも確かあいつ調子乗ってたもんな。でも確かあいつってさ……」
行き交う生徒たちの会話が聞こえてくる度に体が緊張する。俺たちが通りかかるとばつが悪そうに連中は口を閉じるのだ。
それを海陽先輩がひと睨みすれば、蜘蛛の子散らすようにさっさと逃げ出す。通りやすくなった通路をただ俺は歩いていく。
校舎前に比べ、学生寮は比較的人気はなく静かだった。
人の輪から離れ、星名の気配もなくなり、ようやく呼吸がしやすくなった。はずなのに。
「……っ、……みや、先輩……」
海陽先輩に支えられるように乗り込んだエレベーターの中、「付き添いありがとうございます」とかそんなことを言おうとしたのに上手く言葉が出てこなかった。
バレた、絶対に。俺がSubだって。おかしいと思われた。
そんなことばかりが頭の中でグルグルしては思考を留めてくる。
「無理に話すな」
「……っ」
「……お前は体調が悪かっただけだ」
海陽先輩なりの気遣いだろう。あくまで俺が触れられたくない部分を敢えて避ける。見なかったことにする。その優しさが余計、苦しかった。
「……は、い……」
「後のことも気にするな」
「…………」
不安が胸の奥で膨れ上がる。ただでさえ星名とのことで頭がいっぱいになっていたのに、全校生徒にまで俺がSubだと気付かれたら。
被害妄想。最悪の想定が脳を占めていく。
目の前がグルグルと回っていくようだった。
道中どうやって自室へと戻ってきたかも分からなかった。気付けば俺は自室のソファーに座らせられていて、部屋の外で海陽先輩の声が聞こえてくる。ああ、そうだ。念のため菖蒲さんに連絡すると言っていた。
菖蒲さんは呆れるかもしれない。『最初からなぜ自分と病院に行くことを選ばなかったのか』と責められても無理もない。
俺は……。
もしあの場に海陽先輩がいなかったらと思うとただゾッとしなかった。
居ても立っても居られない、そんな落ち着かない時間を一人で過ごしていた時。海陽先輩が部屋へと戻ってくる。
「……ぁ……」
「少し休んでろ。……桐蔭がお前と話したいと言っている」
「っ、ぉ、れ……」
「……が、外の方が面倒なことになってしまったらしい。少し遅れる、と」
外、と校舎の方を顎でしゃくる海陽先輩に一瞬ホッとする。が、すぐにその言葉に引っかかった。
「面倒な事って……」
「……」
「あ、の」
「……」
無言で海陽先輩は俺の目の前に何かを差し出してくる。なんだと思えば、それはミルクたっぷりのカフェオレが入ったボトルだった。
「……」
「良いからそれ飲んで休んでおけ」
「あ、ありがとう……ございます」
「俺は帰る。また後ほど桐蔭から連絡あるだろう。……気が向いたら返事をしといてやれ」
海陽先輩が俺が甘党だと知ってくれていたことにも驚いたが、それ以上にその優しさが余計身に沁みるようだった。
心配、かけてしまった。こんなことで。
俺がもっとしっかりしていたら。……情けない。
項垂れる俺の頭を撫でようとしてくれたのか、手を伸ばしかけた海陽先輩は結局何もせず部屋を後にした。
手のひらの中、結露を纏ったボトルをただ握り締めていた。
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