飼い犬Subの壊し方

田原摩耶

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 さっさと食べ終わってこの場を移動しよう。
 小晴といるくらいならまだ教室の方がマシだ。
 そう思いながら運ばれてきた朝食を口の中に掻き込む。味はしないが、喉を通り体の養分になれば今はそれでよかった。
 そんな飯をがっつく俺を横目に、わざわざ隣のテーブルまで移動してきた小晴にぎょっとした。流石に俺たちと同じ席に座るほどの図々しさは持ち合わせていないようだが、テーブルで肘つきながら人の顔を眺めてくる小晴の視線がただただ不愉快だった。俺は必死に視線を逸らしながらただひたすら目の前の皿に集中する。

「そーいや海陽先輩、星名のやつ放置してきたんすね」

 そんな中、わざわざあいつの名前を出してくるものだから思わず喉が詰まりそうになった。なんとか飲み込めたが、胃が重たい。聞きたくないのに気になる。無視することができない。
 本当にこの男は性格が悪い。

「他の人間に任せているだけだ」
「あ、そうなんすか。んじゃ後で顔見に行ってやるかな」
「お前は暫くあいつと距離を置け」
「そう会長が言ったんです? 俺、なんも聞いてないんですけど」
「……」
「はは、海陽先輩って嘘吐くの下手すぎ。こー言う時は適当に頷いときゃいいのに」

 海陽先輩も小晴に思うところがあるのだろう。海陽先輩に対してなんて口の利き方だと俺だって腑が煮え繰り返りそうだったけど、下手にこいつに逆らってまた海陽先輩に迷惑をかけることは避けたかった。
 海陽先輩は大人だ。食ってかかりたくなるような小晴の態度を前にしても普段の冷静さはそのまま、無言で戒めるような視線を送るだけだ。
 小晴も海陽先輩の言わんとしてることは気づいたようだ。

「別に心配しなくても何もしないっすよ。ただ、ほら。あいつも不安定な時期なんで」

「愛佐君と一緒で」笑いかけてくる小晴に、俺は箸ごと落としそうになる。
 誰のせいだと思ってるのだ、と喉まで出かかったが、それよりも先に「月夜野」と海陽先輩が呼び止める方が先だった。

「飯を食い終わったならさっさと立ち去れ。ここは飯を食う場所だ、団欒の場じゃない」
「はあーい。んじゃ、なんか俺いない方が良さそうなんでお先しますよ」

 怒るわけでもなくただ楽しげに笑いながら立ち上がる小晴はそのまま俺たちのテーブルの横を通り過ぎようとして、いきなり肩を掴まれる。

「思ったよりお前、元気そうで安心したわ」

 そして耳元で囁きかけられる言葉に体が凍りつく。咄嗟に振り払おうと腕を上げれば、あっさりと小晴は手を離した。

 そして目が合い、「またな」と小晴は目を細めた。

 小晴が立ち去った後。
 あいつに触られたところごしごしと拭いながら、俺はちらりと海陽先輩の方を見た。

「……」

 あれから俺たちの間に会話はない。
 けど少なくとも海陽先輩も星名のことは気になっているはずだ。このまま俺ばかりに付き合わせることが正解なのだろうか。

「海陽先輩……俺の事ならお構いなく。あいつ――星名のところに行ってください」
「いらん気を遣うな」
「……」
「それより、それだけで足りるのか。タンパク質が不足しているな」
「あ、す……すみません……っ! 追加で注文してきます」
「もうさっき注文した。そろそろ届くはずだ」
「あ、ありがとう……ございます……」

 正直大分胸いっぱいではあるが、海陽先輩の言うことは絶対だ。これは俺のポリシーでもある。
 ……それにしても星名、あいつも復帰してるのか。
 顔を合わしたくない。なるべくあいつの教室は避けたいと思う反面、大丈夫だろうかという心配も湧いてきた。
 こんなこと考える方がおかしいのに。あいつのことなんかもう知ったこっちゃない、そう思うのに。

 なんて思いながら、届いた唐揚げを口の中に詰め込んでいた時だ。不意に食堂の一階の方が騒がしいことに気づく。

「煩いな」
「……何かあったんですかね」
「お前はそこでタンパク質を摂ってろ」
「い、いえ、俺も……確認します」
「……面倒そうだったら戻れ」

 はい、と俺は頷き返す。
 それから吹き抜けから一階を覗き見る。喧嘩、というわけではないようだ。わらわらと集まった生徒たちはとある一方へと注目していた。

 そこにいたのは派手な頭――小晴だ。
 そしてその隣には眩い金髪の少年がいた。遠目から見ても分かる透き通るような白い肌と華奢な線。
 そして、人形のような整った顔には見覚えがあった。

「あ、いつ」
「……何を考えてるんだ、あいつは」

 変装をやめた星名璃空は何やら楽しげに小晴と話しており、そして不意にこちらを見上げた。まずい、と顔を引っ込めようと思ったが、遅かった。目が合った星名は笑った。そう、笑ったのだ。
 俺を犯した時と同じ楽しげな顔で。

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