54 / 82
53
「……あの馬鹿が」
溜め息混じり、海陽先輩はコメカミを抑える。
「先輩、あいつは……」
『誰だ、あの子』『転校生?嘘だろ』なんて下から聞こえてくる声。
無理もない。夏休みデビューには早すぎる。そもそも、なんでこんなこと。
「どうやら勝手な真似をしたらしいな。……あれ程目立つような真似はするなと言っていたはずだが」
Subではないのなら、もうわざわざ支配される心配もないってことか?
星名の考えることが手に取るようにわかってしまい、吐き気と怒りが込み上げた。
「ちょっと待ってろ」
「あの、俺、先に教室に行ってます」
「……一人で大丈夫か」
「はい。大丈夫です」
流石にこんなに勝手な真似をされると目を離すことは出来ないのだろう。海陽先輩は「悪い」とだけ声をかける。それからすぐに階段を降りていく海陽先輩。
「……星名のやつ」
俺への当て付けのつもりか?
考えたところであいつの真意など理解できることはないだろう。
俺は星名と遭遇しないように別の階段からひと足先に食堂を後にした。
野次馬。人混み。
「さっき小晴と話してたのって誰?」
「あいつだよ、転校生」
「あんな可愛かったのかよ」
上級生のやつらが話してる横を通り過ぎて、人混みをかき分けて逆行する。
おかげで俺のことなんて誰も目に入っていないみたいだ。
ある意味助かった、のかもしれない。
余計なことを考える暇すら与えさせてくれない。
星名のやつ、何を企んでるんだ。
そんなことを考えている内に教室に辿り着いた。
流石に緊張したし、クラスが近くなるに連れ人目が怖かったが――。
「あれ、愛佐じゃん」
教室の前で躊躇っていると、クラスメイトの一人が声をかけてきた。
「風邪、大丈夫だったか?」
「うちの学校、そういうとこ厳しいよな。熱下がりゃ動けるってのにちゃんと数日休まされんの」
「あ、あぁ……」
普通に話しかけてくるクラスメイトたちにただどう反応すればいいのか分からなくなる。
一人、二人と集まって、何故か囲まれるような形になって立ちすくんでると、
「休んでた間のノート見せるから、分からないところとかあったら言えよな」
「……ありが、とう」
「おい、愛佐引いてんじゃん。……ごめんな、なかなか話すタイミング無かったけど俺ら結構愛佐と仲良くなりたくてさ」
「……」
俺がSubだってこと、知らないのか?ただの善意なのか?本当に?
まるで昔からの友人のように笑いかけてくるクラスメイトたちにただ頷くことしか出来ない。
本来ならば感謝しなければならないのだろうが、グイグイ来られるとどうしても一歩引いてしまう。
「……それは、どうも」
「ま、なんかあったら全然言ってくれよな」
「ん、ああ」
俺の反応が悪いとあっさりとクラスメイトたちは引いていく。
なんだったんだ、と自分の席に座る。
その後も何度か他のクラスメイトたちに体調のことを心配される。最初はむず痒くて堪らなかったし、落ち着かなかった。
ここに入学してから一度も馴染めなかったのに、なんだ。俺がSubだから優しくしてるつもりか?同情して?
……ダメだ、思考が卑屈になっている。裏で笑われている気がしてならない。
けど、これも数日だ。飽きればすぐに俺から離れていくだろう。
そう言い聞かせながら、俺はその日を過ごす。
一週間休んだ後の授業は大分置いて行かれていたが、自習していたお陰でなんとか着いていくことが出来た。
人の声がやけに大きく聞こえる。シャーペンの芯がノートの上で削れていく音も。
授業中はまだマシだが、授業が終わった後、休み時間に入った途端更にひどくなる。
神経が過敏になってるかのように廊下の外から聞こえてくる笑い声にも反応してしまいそうになる。
それから噂話にも。
「星名のやつ、見たかよ。何あれ?」
「最近小晴君と仲良かったじゃん。あいつら付き合ってんじゃねえの?」
「なんで転校生に付き纏ってんのかと思ったらそういうことかよ、小晴君、趣味いいわ~」
クラスの隅から聞こえてくる下品な笑い声に体が強張る。
何も知らないくせに。知らないからこそ好き勝手言えるのだと思うといっそ羨ましくすらある。
「星名って言ったら、あいつSubじゃなかったっけ?」
「え? まじ? じゃあ命令すりゃなんでもやってくれんのかな」
「お前まじで最悪だって、言ってること。先生に聞かれたら説教部屋行きだぞ」
「でも星名って会長とも仲良くなかった? もうやってんでしょ、あれ」
「……ッ」
自分のことを言われているわけではない。落ち着け。
そう言い聞かせながら、なるべく平静を装って周りの音をシャットダウンしようするが、無理だ。周りの雑音が、下世話な話し声が脳味噌の隙間に入ってくる。
その場にいるのが息苦しくて、俺は立ち上がって教室から出て行った。
「あれ、愛佐君どっか行った」
「便所かな。あいつマジでノリ悪いよな」
「愛佐っていえばさ、知ってる? あいつが休んでた本当の理由……」
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。