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わざわざ自分から見せ物になるような真似をして、こうなることは分かっていたはずだ。だからわざわざ理事長は星名を変装させたのではないか。
頭が痛い。あいつのことを考える度に胸糞が悪くなってくる。
何を考えてるんだ、星名は。
考えないようにと務めててもどうしてもあいつのことが頭からこびりついて離れない。
吐き気を堪えながらどこか一人になれそうな場所を探す。
教室に辛うじて居場所はあったが、それでも居心地がいい場所ではない。聞きたくもない話が無尽に耳に入り込んでは落ち着く暇もない。
眩暈に耐えきれず、ふらつく足取りで近くの踊り場までやってくる。そのまま階段に座り込み、膝を抱えた。
「……」
俺には関係ない。あいつがどう思われようが、俺には、もう。
不意に足音が聞こえてくる。ゆっくりとこちらへと近づいてくるそれに、顔を上げることはできなかった。
そのままやり過ごそうとした時。
「どうした? そんなところで丸くなって」
聞こえてきた耳障りのいい声に、体が反応する。
許可してもないのにそいつは俺の隣に腰をかけるのが気配で分かった。
「……今考え事をしてる。休憩なら他を当たってくれ」
「別に俺は構わないけど、ここで」
「……」
「もしかして登校早々虐められた?」
顔を上げ、隣にいたそいつを睨めば、そいつ――月夜野真夜は笑った。やっとこっちを見た、とでも言うように。
「泣いてたわけじゃなさそうだな」
「お前には……関係ない」
「冷たいな、俺たちの仲だろ?」
「……帰ってくれ。慰めなら間に合ってる」
「本当、愛ちゃんって下手すぎ。『話聞いてほしい』って顔に書いてあるけど」
「書いてない」
「星名璃空のことだろ」
なんでこいつは、こういうところばかり鋭いんだ。それとも俺が分かりやすいのか。
素直に応えるのも癪で無言で顔を逸らせば、「当たり」と真夜は楽しそうに笑う。
「モテてんなあ、あいつ。二年でも噂になってるぞ。顔だけはキレーだしな、男受けしそうだ」
「……なら、あいつのところ行けばいいんじゃないか」
「なあ、思ってもないことを言うもんじゃないぞ。行って欲しくないって顔して」
「……っ、してない」
そもそも、お前とは関わるなと言われているのだ。「早くどっか行ってくれ」と手を払えば、そのまま真夜に手を取られた。
「真夜……っ」
「そんなに俺がいるの嫌?」
「……っ、……」
「あーあ。ダメだろ、そう言う時こそはっきり言わねえと」
手首の筋を撫で、そのまま手の甲からすっぽりと包み込むように手を握られる。大きな手のひら。優しく指の谷間を撫でられるとつい流されそうになる。そんな己を振り払い、俺は真夜を見た。
「……お前と、関わるなって言われた」
「あーあ、やっぱり?」
「やっぱりってなんだ。……なんで、お前は先輩たちに嫌われてるんだ」
「もしかして、この間の見られてた? 廊下でちゅーしたときのやつ」
全部分かってるのか。それにしても真夜は何も気にした様子もない。
「それ、会長と海陽先輩だろ? 俺と関わるなって言ってきたの」
「……自覚はあるのか」
「まあな。俺、割と分かるんだよ。誰が俺のこと好きで俺のこと嫌いなのかってのは特に。匂いでわかる」
「んで、愛ちゃんはけっこー俺のこと好きだろ?」あまりにも当然のような口ぶりで言い出すものだから「自惚れるな」とその手を振り払おうとするが、離れない。
「会長たちからそんなこと言われてもまだこうして俺と会ってくれてんだもんな、結構嬉しいかも」
「お前が勝手にきたんだろ……」
「教えてやるよ、なんで俺に近付くな、なんて言い出したのか」
俺の手から手を離し、真夜はそのまま俺の頬を撫でる。乾いた指先は頬を滑り、俺の耳に触れた。
「俺が愛ちゃんと居るのが怖いんだよ、あの人らは。……俺が知ってるから」
「知ってるって、なにを」
「会長が知られたくないこと」
「……っ、……」
「聞きたい?」
世間話でもするかのように笑いかけてくる真夜に思わず固まった。
「会長が隠してること、教えてやるよ」
この男は悪魔だと思った。
俺を試そうとしているのだと。甘い声と笑顔で誘ってくる――その言葉は悪魔のそれだ。
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