飼い犬Subの壊し方

田原摩耶

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 こんなつもりではない。止めなければならない。逃げなければならないのに。

「愛ちゃん、腰動いてるよ」
「ち、が」
「会長さんに抱いてもらわなかったのか? 可哀想に。俺なら愛ちゃんがこんなになる前にちゃんと可愛がってあげるのに」
「ちが、う」
「違わないだろ」

 撫でるように股関節を撫でられ、股間へと流れるリンパをマッサージされるだけでガクンと下腹部が震える。期待しているわけでもないのに涎みたいにとめどなく溢れるカウパーを指で掬い、それを絡めた指で肛門を撫でる真夜。

「ガチガチ。触って欲しくて俺の指に自分からこれ、擦り付けてんの気付いてる?」
「ぁ、ちが、お、俺」
「ちがーわなーい。ほら、必死になって可愛いじゃん。こっちも本人に似て撫でてほしそうだし」
「はっ、ぁ、ちが、真夜、こんなの、俺は」
「良い加減に認めろよ。自分が誰求めてんのか」

 違う。こんなの、何かの間違いで。一時的な感情の揺れや一過性のストレスによるもので、それで――。

「久しぶりなら、優しくしてやんねえとな」
「――へ、ぇ」

 制服のポケットから何かを取り出す真夜。
 それがパウチに入ったローションだと気付いたのは中から溢れ出した液体が真夜の手のひらに落ちていくのを見たからだ。
 なんでそんなものを、と聞き返すよりも先にたっぷりと濡らされた真夜の指が肛門へと触れる。ぬち、と音を立てながらゆっくりと中へと入ってくる真夜の指に喉がひくつく。
 優しく筋肉をほぐすように丹念にマッサージをされるだけで腰が浮き上がる。熱い。この男は強引な癖に、存外優しい手つきで俺に触れる。

 充血し、張り出した前立腺を濡れた指が掠めただけで脳の奥がピンク色に染まる。
「ぅ、あ」と出したくもない声が勝手に漏れ出そうになり、「愛ちゃん、気持ちいいって声出ちゃってる」と頭上から落ちてきた真夜の声にたまらず自分の口を塞いだ。けど。

「……っ、……っ、ぅ、ふ……ッ」
「あーあ、そうやって自分の指噛むのやめろよ。傷つくだろ?」
「は、ぁ」

 それよりも、と真夜に体を抱きしめられる。そしてぐ、と正面から抱き抱えられる体。すぐ鼻先には真夜の鎖骨が見えた。包み込まれるような体温、濃くなる甘ったるい真夜の匂いに意識が遠退く。

「……俺のこと、噛めよ」
「っ、ぁ、う」
「気持ちいいの我慢するよりも俺のこと噛んで? そんで、痕残せよ。愛ちゃんの。……そっちのが俺も嬉しいし、いいだろ?」

 何を言ってるのか最早分からない。
 内側から柔らかく臍の裏側を揉みほぐすように一定の間隔で刺激されるだけで前立腺から睾丸、性器の先端部までその快感は広がり、耐えきれず俺は目の前の真夜の首筋に歯を立てた。

「……ッ、は……っ、くく、本気じゃん。いいねえ、案外これ、クるわ」
「っう、ぅ、く、……っ、んん……っ!」
「そうそう、その調子……上手だなぁ? 愛ちゃん」

 何も考えられなくなって、ただ目の前の首筋に歯を立てる。殺傷力もない、まるで歯が痒い乳児のような気分になりながら目の前の首筋にしゃぶりつく。そうすることでしか快感を上手く発散することができなくて、むずむずと気持ちいいの中間が徐々に狭まっていく。
 不快感しかなかったのに、気付けばもっと強い刺激を欲していることに気づき、青ざめる。
 けれど、逃れられない。後頭部をそっと撫で付けるように撫でられ、真夜はぬぷりと指を引き抜いた。
 もう少し、もう少しでいけそうだったのに。

「残念そうな顔しすぎ、愛ちゃん」
「ふ、は……」
「こっちももうとろっとろ。ほら、俺の指に吸い付いてくる。そんなにこれ、欲しかった?」

 引き抜いた指の代わりに当てが割れる硬い熱に全身が緊張する。視線を下げることも怖かった。真夜の顔を見つめたまま動けなくなる俺を覗き込んだまま、真夜は笑った。

「《ちゃんと答えろ》」
「……っ、わ、かんね……っも、わけ、わかんな……」
「答えとしては及第点だけど、んーー……愛ちゃんが可愛いから100点ってことで」
「あ、ま、よる」
「嬉しそうな顔。……本当、お前の顔見てると……」

 真夜は何かを言いかけ、その言葉を飲む。その代わりにローションで解された肛門にぬちゅりと亀頭が入ってくる。

「……っ、ん、愛ちゃん、自分で脚持てる?」
「っふ、ぅ」
「――そーそー、奥まで深く、ハメやすくなるように、しっかり腰も浮かしてな……っ」

 ずりゅ、と濡れた粘膜を摩擦するように奥まで入ってくる性器に声を上げることもできなかった。
 目の前の真夜の胸にしがみついたまま唇を振るわせることしかできない。そんな俺を抱き締めたまま、真夜は「息」と短く呟いた。

「息、止まってる。愛ちゃん」
「っ、……っふ、く、ふ……ッ」
「……は、けど、この前よりも大分……俺のに馴染んできたな。ほら、分かる? 愛ちゃんのここ、気持ちいいところに当たるように吸い付いてきてる。賢いじゃん」
「っ、あ……?! ゃ、め……ッ、ぅ゛……っ!」

 性器を飲み込んだ腹部を優しく手のひらで撫でるように圧迫されれば、先ほどよりも更に鋭利になる性器の輪郭に心臓が跳ね上がる。
 そのまま奥まで性器がハマった状態で動きを止め、真夜は俺の体を抱き締めた。

「ほら、キスするか」
「っ、し、な、……っ、ぅ、ん」

 しない、と言い終わるよりも先に唇を喰まれ、舌でなぞられる。
 わけ、わからん。もう。
 上と下、同時にゆっくりと踏み荒らされていく。死なない程度の甘い毒を飲まされ続けてるような恐怖の狭間の中、逃げることも出来ずただこの男を待ってしまう。

「ふ……っ、う……」

 キスはご褒美。撫でるのもご褒美。セックスは粘膜越しのキスで、この男から与えられるものは全てご褒美だと思え。
 刷り込みというよりも最早呪縛だ。絶対にそんな偏った思想を受け入れたくない、そう思っていたのに。

 この男の手が思いの外優しくて、この男の目が優しくて、それなのに全ては俺の意思を無視する。脳が処理する前に次々に与えられる《褒美》にあっという間にキャパは超え、処理落ち寸前。

「……なんで泣いてんの? 愛ちゃん」
「……っ、ふ、ぅ……」
「泣いちゃうほど気持ちよかった?」
「っ、ぁ、う」
「……ほら、頭撫でてやるから泣き止めって。……それとも、中のがいい?」
「……っ、さ、っさと……」
「ん?」
「さっさと、終わらせろ……っ」
「…………」

 ほんの一瞬、真夜の目がすうっと細くなる。
 けれど瞬きをした次の瞬間にはいつもの真夜の軽薄な笑みが浮かんでいた。
 そして、

「やだ」

 ぐぷ、と行き止まりだと思っていたそこを更に強い力で押し上げられ、背筋がぶるりと震えた。

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