飼い犬Subの壊し方

田原摩耶

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57※お漏らし

 脳が痺れる。一突きされるごとに辛うじて残っていた自我が引き剥がされていく。強制的に、押し出されるように。

「やだ。なんで? 愛ちゃんも気持ちいいだろ。ほら、こんなにナカ吸い付いてきてるし」
「っ、ぁ、ま、待っ、まよ、ぅ゛――」
「まだダメ? 俺じゃ会長さんの代わりになんねえんだ。……おっかしいな、俺のが絶対いいじゃん。こんなに愛ちゃんのこと、考えてんのにさ」
「は、ぁ、とまっ、ぇ゛、……う、ご、くな……っ、ぁ゛……っ?! ふ、」
「コマンド、足りなかった? やっぱ愛ちゃんはプレイのがいい? 優しくされるだけって物足んない?」
「っ、ぁ゛……っ、う、ぐ、……っ、ひ」

 腰を掴まれ、持ち上げられ、抽送の度に前立腺を引っ掻くようにねっとりと腰を動かし、そのまま一気に奥を突き上げる。そんな一連の動作を一定のリズムで続けられ、休む暇もなく揺さぶられては追い詰められていく中。
 藻掻く俺の手を取り、真夜は指を絡めた。

「《我慢するな》」
「っ、ぁ、あ……っ!」
「《俺だけを見ろ》」
「っ、ま、よる……っ、ぅ、あ゛……っ」

 鼓動に合わせて早まるピストンに耐えきれず、真夜の背中に手を伸ばす。違う。こんなの、違う。はずなのに。
 汗が滲む真夜の表情が固くなっていく。「愛ちゃん」と呼ぶ声が普段よりも少しだけ弱々しくて。

「……なんで、泣いてんの?」

 まるで理解できないというような顔で俺の涙を舐めとる。「気持ちよくない?」と角度を変え、更に深く奥を抉られて睾丸に溜まっていた熱ごととろりとしたカウパーが飛び散る。
 俺にはもう、自分の体のことも状況もわからなかった。ただ、コマンドのせいで目の前の真夜から目を離すこともできない。
 壊れたみたいに多幸感と恐怖と嫌悪感がごちゃ混ぜになっては、得体の知れない塊になって腹の奥底に静かに溜まっていく。河原の積み石のように。
 それは快感で誤魔化すことのできないほど重たく、それでいて突き上げられる度により快感を倍増させる。――罪悪と自己嫌悪という名の塊。

「愛ちゃん、ほら、《泣き止んで》」
「っ、ぁ、う」
「……っ、《嫌なことは忘れて》」
「は、ぁ、あ゛」
「《気持ちいいことだけを考えて》」

 そのコマンドとともに奥を突き上げられたと同時に、壊れた玩具のように腫れ上がっていたそこからぶぴゅ、と精液が吐き出される。止まらない精液は自分の腹の上に白濁の水溜りを作り、真夜はそれを見て僅かに顔を引き攣らせた。

「……っ、愛ちゃん……」
「あっ、ぁ、は、……っ、ぁ……っ」

 その顔を見て何かを言おうと思ったが、言葉にすることができなかった。
 びゅく、びゅく、と断続的に精液を撒き散らしたあと、そのまま今度はじんわりと熱が広がる。それは素肌から制服までを濡らしていき、階段の段差まであっという間に染みを作っていった。

「…………」
「っは、……ぁ、あ、……っゃ……」
「…………」

 まるで悪い夢を見てるようだった。粗悪な映画でも見てるようだった。
 恥ずかしさも嫌もない。なにもない。ただ、肛門の中の熱だけが現実のように熱く、脈打っていた。
 真夜はそんな俺をただ犯していた。「気持ちいい?」と聞かれる度に俺は訳もわからずただ頷く。あれ、真夜って……誰だったっけ。
 俺の上に覆い被さってくるこの男は、なんだ。俺は、なんで。



「――真夜」

 頭の上から声が聞こえてきた。目の前の男とよく似た上機嫌な軽薄な声。

「サブドロすんぞ、そいつ」
「……もうしてる」
「あ、そ。珍しいじゃん、真夜がここまでやるなんて。ミスった?」
「もーわかんねえ。全然、分かんねえ。なんでだろ」
「取り敢えずさっさと済ませろよ。ここ、使えなくなるだろ」
「……はーい」

 誰と誰が会話してんのかも分からないまま、ただ亀頭の感触を味わうためだけに腰を動かす。少し捩った方がストロークのとき前立腺によく当たって気持ちいいとか、そんなこと考えながらただ腰を動かし、目の前の男にしがみついた。
 また、くる。気持ちいいの。

「ぁ、は、ぁ、んぁ……っ」

 褒めて。もっと奥まで。褒めて欲しい。抱き締めて必要としてほしい。
 脳を溶かすほど強烈な――。

「ぅ、く、ひ――ッ!!」

 一際大きく跳ねた性器から迸る熱を粘膜で浴びる。焼き尽くすほどの体温は脊髄にまでも沁みていく。筋肉の脈動。心音。生きてる。認められている。俺はいていいのだと直接体の奥深くまで刻みつけるようなほどの射精に文字通り満たされていく。
 なぜ自分がそんなことを改めて考えてるのか、そんなことも分からない。どうでもいい。けど、顔を上げた時、目の前の男の複雑そうな顔があのときの菖蒲さんと重なり、ぎゅ、と胸が苦しくなった。

「す、てないで……」
「……愛ちゃん?」
「も、もっと、頑張りますので……だから、俺の、体、壊してもいいので……」

「へー、真夜。随分と手懐けたじゃん」
「……ちげえよ、こは。これは……俺じゃねえし」
「んじゃ、俺が壊しちゃおうかな~」
「……」
「あ? ……なんだよその手は」
「……風呂、浴びてえ」

 瞬間、体が軽くなる。引き抜かれる性器。そのまま中を栓をするものを失い、どろりと溢れる精液をどうすることもできぬまま目の前の男に抱きしめられた。

「おい、汚れるぞ。まよ」
「……いーの、これで」
「はっ、変なやつ」
「こはには分かんねえよ、一生」
「まあな、俺はお前とはちげえから」
「……」

 トクトクと流れ込んでくる心音。さっきまでの性器から流れ込んでくる熱とは違う、包み込むような暖かさについうと、と瞼が重たくなってくる。安心、する。なんだろうか、これは。
 ふわふわとした意識の中、その体温がただ心地よくて、もっと、とせがむようにその背にしがみついた。

「捨てねえよ、俺は。……愛ちゃん」

 分厚い膜越しに聞こえてきた声に、何故だかほっと全身の緊張が緩む。安堵とともに張り詰めていた糸が切れてしまったらしい、俺の意識ごとそのままするりと心地の良い快感に包まれ、底へと落ちていく。
 深く深く、男たちの声も聞こえなくなるほど深い底まで。
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