62 / 82
61
自分の肉体なのに自分の意思関係なく他人に操作される。それほど不快なことはない。
「真夜、帰ってくれ……もう」
「でも一人になったらバッド入っちゃうじゃん、愛ちゃん」
「大丈夫、だから。……頼むから帰ってくれ」
頭を下げて懇願する。このままお前と一緒にいるだけで操作されるのが怖かった。また気付かぬ内にこの男に首輪を掴まれると思うと、ぞっとしない。
そんな俺の態度が真夜の気に障ったらしい。まるで自室のようにソファーに腰をかけスマホを弄っていた真夜は「愛ちゃん」と俺を呼ぶ。その声だけで見えない首輪を引っ張られるみたいに体が引き寄せられた。
「……っ、な、んだよ」
「《こっちに来い》」
膝の指され、今度こそ拒めない。強い磁力で引き寄せられるように足は動く。真夜の肘の上に座ろうとしたところでそのまま腰に回される腕にバランスを崩し、抱き寄せられた。
「お、い……っ!」
「遅い」
「……っ、……」
「ごめんなさいは?」
「………………っ、……わる、かった」
なんで俺が謝らないといけないのか理解できない。けど、逆らえば洗脳されてしまうのではないかと恐怖が強かった。
「そうそう」と満足気に俺の肩口、顎を乗せる真夜にほっとする。それも束の間のこと。
「で? なんだって? ……俺に帰れって?」
「が……学校、あるから。明日も、朝から……真夜だって授業……」
「そんなものサボりゃいーじゃん。サブドロップだって立派な体調不良なんだから。生徒会には小晴が適当に言ってくれてるだろうし」
「一人に……なりたいんだよ」
帰ってくれ。放っておいてくれ。お前の顔を見たくない。そう言ってもこの男には通じない。この男からしてみれば、俺のサブドロップは菖蒲さんのせいだという認識だからだ。
じっと俺の目を覗き込んでくる真夜。敵意も害意もない。それでもこの男の存在そのものが今の俺にとっては危険分子だった。
「……」
「っ、コマンド、やめてくれ。……頼む」
「俺とプレイもしたくなくて、ケアされんのもやだって? ……愛ちゃんは難儀だねえ」
「真夜……」
なんでこんな男に下手に出て顔色を窺わなければならないのか。ヘタに逆らえば脳味噌から作り変えられるハメになりかねないからだ。
全部自業自得とは言え、体に刷り込まれたこの男の存在は拒めないところまで侵食している自覚はあった。少なからず許してしまった浅はかな自分のせいだ。
それでも、心の底から恨めない。憎めない。そういう風に刷り込まれてるから。
そう割り切ることまで出来ない自分の甘さのせいで、余計に首が締まっていく。
「じゃあ、約束しろよ」
「約束……?」
「俺と必ずプレイすること。何かあったら俺に連絡すること。あと俺が呼び出した時はすぐに応えること。……これ、約束できる?」
コマンドでも命令でもなく、約束。
そこには俺の意思が介入する。
「そんなの、その時の都合が……」
「それ、会長にも同じこと言えんの?」
汗が滲む。真夜の目が怖い。笑ってるのに笑ってないみたいに真っ直ぐにこちらを突き刺してくる真夜の目が。
「わ、かった……善処する」
「善処じゃなくて、絶対」
「………なら、お前もプレイのとき以外コマンド使うの……やめてくれるのか?」
恐る恐る尋ねれば、真夜は「ああ」と頷いた。
「元はと言えば愛ちゃんが俺とのプレイ嫌がるから慣れさせてたわけだし? 愛ちゃんが俺のパートナーになってくれるんだったらな」
こいつから逃げるためだとしても、こんな形で菖蒲さん以外のDomと関係を結ぶことに激しい抵抗を覚えた。
それも、これは無理矢理コマンドふっかけられるのとでは訳が違う。けれど、俺たちの間には本来信頼し合ったDomとSubのように関係を証明するための首輪や指輪があるわけではない。結局、口だけの関係だ。
……それは、俺と菖蒲さんも同じだが。
「……分かった」
その場しのぎ。こう応えることでしかこの男から自由になることは出来ない。
そう諦めにも似た気持ちで俺は真夜の申し出を受けた。
「その代わり、セーフワード……」
「それはまだダメだ」
「な、んで。話が……」
「違うって? あの時はまだ愛ちゃんがまともだったけど、今のお前はちょい怖いからな~。下手にセーフワード連呼されたら俺が死んじゃうから、……もうちょいお前が落ち着いたら決めてやるよ。セーフワード」
俺が正常ではないみたいにこの男は口にする。自分の精神状態が不安定だと分かってるが、さも自分は正常であるような口振りに思わず反論が出かけたが、堪えた。
悔しいが、真夜の判断は間違ってはいない。あくまでそれは俺が本当に危うい状況であれば、という前提があればだ。
「……勝手にしろ」
病人扱い、腫れ物扱いも慣れている。反論するだけ神経が衰弱していくだけだ。
とにかく今は平穏な時間が必要だった。こいつのいない時間が。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。