飼い犬Subの壊し方

田原摩耶

文字の大きさ
68 / 82

67【side:菖蒲】




 愛佐との食事。
 今までならば別に特別でもなかったのに、今は緊張してしまう。
 どう接するべきか。明確に感じたあの子の壁を前に上手く立ち回る方法が浮かばない。

 別に、余計なことを考える必要はない。
 あの子に平穏な時間を提供すれば良いのだ。それが僕の役目なのだから。
 それでも、と欲深くなる自分を叱咤し、腕時計の盤面を確認する。

 ――愛佐が遅い。
 あの通話から準備してるとしても、そろそろ来てもおかしくないのではと思えるほど時間は経過していた。

 かと言って急かす程の時間ではない。
 あの子にはあの子のペースがあるのだからゆっくり待とう。迎えに行って入れ違ったときの方が最悪だ。
 食事に誘ったものの別に空腹というわけでもない。

 食堂前、既に殆どの生徒は食事を終えたらしい。残っている生徒もいない。
 そんな中、ふと足音が近付いてくる。そのゆったりとした足取りから愛佐ではないことは分かった。

「どーも、会長」

 聞こえてきた声は、少し懐かしさすらもある。
 一時期は毎日のように聞いていた。顔を上げずとも声の主は想像つく。

「……何の用かな? 真夜」

 眼球だけ動かして確認すれば、隣へとやってきた真夜は笑う。壁に凭れ掛かり、あの時と変わらない挑発的な笑顔を浮かべて。

「は、冷て。そういう態度、愛ちゃんに見られたら嫌われるんじゃないです?」
「お喋りしたいなら他を当たってくれないか。僕には先約がある」
「奇遇すね。俺も会長に用事があったんすよ」

 ――月夜野真夜。
 小晴の双子の弟で、元僕の補佐をやらせていた男だ。

 今更何の用事というのか。少なくとも、ろくなことではないのは確かだろうが。

「そんなに警戒しないで下さいよ。」
「で、話は何? ここで話せないようなことなら日を改めてもらえるかな」
「アンタの可愛い可愛いわんちゃん――愛ちゃんのことですよ」

 この男の言葉を真剣に呑み込むこと自体が誤りだと知っている。
 けれど、その口から出てきた名前を聞かなかった事にするわけにはいかなかった。

「噂にもなってるみたいじゃないですか。アンタとの関係」
「外野には好きに言わせておけば良い。どうせ三日経たずとも飽きるよ、観衆っていうのはそういうもんだ」
「アンタはそれで済むんだろうな。……分かってんだろ? 特別扱いする気ないんだったら離してやれよ」

 月夜野真夜というやつは軽薄で掴みどころがなく、適当な甘い言葉で煙に巻くような男だと認識していた。少なくとも、今までは。
 そんな真夜の口からわざわざこうして直接的な言葉を投げかけられたのは驚きだった。
 ――よりによって、あの子のことで。

「……へえ、お前に面と面合わせて口出しされる日が来るなんてね」
「ボランティアの飼い主ならもう必要ない。あの子はアンタに言い出せないだろうから代わりに俺が伝えに来たってこと」
「余計なお世話だ。僕たちの関係に口を挟まないでもらえるかな」
「サブドロップしてるSubも癒せないで何がDomだよ」

「お前」と喉に言葉が詰まる。
 まさか、と咄嗟にスマホを取り出して愛佐に連絡する。が、繋がらない。

 何をしたのか、あの子に。
 それを真夜本人に問い詰める時間すらも惜しい。踵を返し、すぐさま愛佐の部屋へと向かった。


 人混みを掻き分けてやってきた愛佐の部屋の前。インターホンを鳴らし、扉をノックする。が、一向に扉が開く気配はない。

「……」

 爆弾を抱えているかのように脈打つ心臓を必死に落ち着かせる。
 落ち着け。もしかしたらシャワーを浴びていて扉の音にも気付いていない可能性もある。

 ――そんなわけ、あるか。僕からの連絡にはすぐに飛び付いていたあの子が。

 部屋の前から移動し、周辺の通路も確認する。エレベーターの側にいた生徒にも確認しようとしたとき、後方。ラウンジの前で溜まっていたグループの声が聞こえてきた。

「なあ、やばくね?」
「関わんねー方が良いって。あいつSubらしいじゃん、コマンドかけられたら俺らもやべえし」

「――ねえ、それなんの話かな?」

 歩み寄り、顔を覗き込めば生徒たちはサッと顔を青くする。

「か、会長……っ?!」
「あ、あの……俺たちはただ通りかかっただけで……」

 そんな言い訳を並べてる暇があるならさっさと答えろ。この無駄なやり取りする時間すらも煩わしい。ああ本当に。この性質は。

「《言え》」

 足枷でしかない。

感想 25

あなたにおすすめの小説

響花学園

うなさん
BL
私の性癖しか満たさない。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。